表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/407

第26話 千年の恋

 腕を跳ね上げられたワイバーンは、反対側に倒れて行き、左腕の肘を着いて何とか踏みとどまっていた。


 ワイバーンの手の下から現れた白い玉は、フワエル様の別形態?なんですが、この前見た時は1mぐらいだったのに、目の前のそれは何と2mもの大きさがあった。


「え……? ちょっ……フワエル様?」

 戸惑うあたしの前で、それは更に大きくなったのです。

 2mだったのが4mに、更に6mに。

 ボン・ボン・ボンと膨らみ、遂には10mほどになった。


「な~んて~こ~と~を~す~る~の~で~す~か~~」


 そう言うとフワエル様は(これフワエル様だよね?)、ボイ~ンとジャンプし、ワイバーンの上に飛び上がった。

 ふわりと浮かんだと思ったら、ギュインと落ちて来た。


 そんな10mものフワモコが、ワイバーンにぶつかった。

 ドド~~ンと衝撃音が響き、ワイバーンはベシャっと潰れ、落下の衝撃で地面が揺れました。見た目がフワモコなので、軽いのかと思えば、とんでもない重さだったようです。

 普段の上品な雰囲気からは、想像も出来ない恐ろしい攻撃。フワエル様はけっして怒ったりしない方だと聞いてたけど、攻撃は容赦ないのですね……


 巨大な毛玉は、あっという間に元に戻り、ポンっと羊の姿になった。


「レオンさん、久しぶりに会ったのだから、まずは挨拶だと思うのですよ」


 ああ……別に怒ってた訳じゃないのね……、挨拶をしてと注意されたみたいです。

 ワイバーンはといえば、地面にめり込んでます。あたしのいる位置からは潰れたように見えただけで、頑丈な体なのか、死んではいないようです。まあ、お優しいフワエル様が、魔物を殺すなんて考えられませんがね。


「え~~と、まずはレオンを引っ張り出して下さいな」

 フワエル様はムート君に頼まれました。バハムートはワイバーンの胴体を持ち、力一杯引っ張って、ようやく引っ張り出せました。ご婦人に体重の事を言うのはナンですが、いったい何トンあったのだろう……? いや、何十トン?


「ほら、起きて下さい」フワエル様が前足で、ペチペチ叩いてます。

「だ……大丈夫でしょうか?」

 バハムートはワイバーンを警戒して、フワエル様のすぐ横に座った。

 あたしも、恐る恐る近くに寄ってみた。

「このワイバーンをレオンと呼んでましたけど、お知り合いだったのですか?」

「そうなのですよ。ワタシがまだアリエスだった頃に、知り合ったのです」




 それは千年前のことでした。


 フワエル様は当時、アリエスと言う魔物だったそうです。羊のような姿で、額に一本づのがはえ、バハムートと同じぐらいの大きさがあったそうな。

 アリエスの時から優しい魔物だったフワエル様は、人間や獣人の村に住まわれてました。強力な魔物だったアリエスのおかげで、村は魔獣などから守られていました。


 村は長らく平和でしたが、ある日、ワイバーンがやって来ました。

 ワイバーンは村を襲いましたが、アリエスに瞬殺されました。

 それが余程くやしかったのか、それ以来何度も襲って来たそうです。しかしその度に、アリエスにボコられ、逃げ帰るの繰り返しだったと言います。しつこいですね。


 面白いのが、ワイバーンはあくまでアリエスに勝負を挑んでいただけで、村に悪さはしなかったそうです。

 負けて怪我をしているワイバーンを、村人達が手当をしてあげたのがきっかけで、ワイバーンと村人は仲良くなりました。その時に村人からレオンの名を貰ったのです。


「今日は負けぬぞ!」

「あなたも懲りないですね」ボッフ~~ン!


 アリエスの頃から、フワモコ・アタックをやっていたんだ。ちなみにアリエスの毛は、炎も電気も通さないそうです。ただし、水が弱点で、濡れるとフワモコ・アタックが出来ません。なので、雨の日は実力が半減してしまうそう。

 それなら、雨の日に闘えばよさそうなのに、決して雨の日には来なかったんだって。フワエル様は、ずっと不思議に思っていたそうです。


 なんて事がしばらく続いていたある日、村に未曾有の危機が訪れました。村がオークの大群に襲撃されたのです。オークと言えば、頭がブタっぽいやつだったっけか。知能が高い魔物で、軍隊のように組織化されていて、数百匹の大群で襲って来たのです。

 当時はこの世界にも軍隊があったので、騎士や兵士達が迎え撃ちました。しかし、村に駐屯している兵隊では勝てるはずもなく、どんどん押されて退却を余儀なくされました。むろんアリエスも、村を守るために戦いました。


 しかし、多勢に無勢。アリエスも凄く強いのですが、オークもけっして弱い魔物じゃありません。数に物を言わせて攻め立てられ、遂に彼女は負けてしまったのです。


 そこに駆け付けたのがレオン。怪我をして横たわるアリエスを見た彼は、怒りのままにオークを殲滅していきました。その様は、鬼神のごとくであったと、伝えられてるとかいないとか……


 オークはワイバーン・レオンの攻撃で、全滅しました。

 村人達はレオンに感謝しました。そしてアリエスも。

「何でワタシを助けてくれたのですか?」

 いつもはケンカを売って来るレオンに尋ねました。


「ほれた女を守るのは、当たり前の事だろ」

 なんて返すレオン。って、どんだけイケメンだよ!


「……ワタシとあなたでは、種族が違うのですが……」


 フワエル様って、昔から天然だったのね……

 振られてしまったレオンは、旅に出たそうな。




 そして、現在に至る。


 そんな話を聞いたら、ワイバーンの討伐なんて出来ませんよ。しかもラビエルとバハムートの男子組は、なんかしきりにうなずいてたよ。

「うんうん、それは辛いよなぁ……」

「ですよねぇ……」


「それほど男気あふれるレオンが、こんな野獣みたいなのはおかしいですね。元に戻せるんでしょうか?」

 と、あたしはフワエル様に聞いた。

「異常な状態ならば、ワタシの力で治せるはずですよ」

 ああそうか、フワエル様の癒しの力ならば可能でしたね。フワエル様の癒しとは、頬ずりの事です。

 フワエル様は、レオンの顔に寄り掛かって頬ずりされています。気のせいでしょうか? いつもより優しい表情をしておられます。


 スリスリスリスリと、5分ぐらい頬ずりされていました。そうする内に、レオンは目を覚ましました。

 むくりと起き上がったレオンは、ぼーっとした目でフワエル様を見てました。

「あ……! あなたは、使徒フワエル様ではないか?」

 そこにいるのが誰だか分かり、びっくりするレオン。

「やっと起きましたか。お久しぶりですねレオン」

 フワエル様はニッコリと微笑まれました。

「え? 初めて会ったと思うが?」

「何言って……ああ、この姿じゃ分かりませんですね」


 フワエル様はそう言って、レオンから少し離れました。そして、ボワンと大きくなったのです! その姿はスマートな羊で、ひたいにはユニコーンのような角があります。さすがに目の前で見るとデカイです。


「ああっ! お前はアリエスなのかっ?」レオンは目を見開いて言った。

「ちゃんと覚えていましたね。どうやら、問題無さそうなのですよ。レオンもワタシの事で聞きたい事もあるでしょうし、後から説明してあげますよ」

「分かった。それより、ここは何処なのだ? このドラゴンは何なのだ? 何故我はここで倒れているのだ?」

「あなたはまるで、野獣のような状態で街に向かって来たのですよ。覚えてませんか?」

 フワエル様は首をかしげて、レオンの顔を覗き込まれました。

「いや。何も覚えておらぬ。どうやらお前に助けられたようだな……」

 レオンは立ち上がり、フワエル様を見つめて「礼を言う」と、言いました。


「ほれた男を守るのは、当たり前の事なのですよ」


 そして、フワエル様……アリエスは、レオンにキスしたのでした。


 レオンはびっくりして目を見開いてたけど、フワエル様はかまわず、10秒ほどキスを続けた。

 すっと顔を離し、いつも通りのほんわか笑顔で一言。

「やっと言えたのですよ。千年は長かったのです」


「フワエル様って、レオンの事が好きだったのですか~?」

 あたしとミミエルはビックリ!

「ふふふ、本当はね、大好きだったのですよ」と言って、またキス。


 なあんだ、この二人両想いだったんだね。千年も会えなかったなんて、へたな遠距離恋愛より大変だ。それでも、恋心を忘れなかったフワエル様って、なんて乙女チック。

 あたしは今、キュンってしてる。



「ははは……相変わらず女性陣は、恋バナが好きだな……」

 何かラビエルが、諦めたように言ってる。

 まあ、それは否定出来ないけどね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ