第25話 迎撃
急速に接近して来るワイバーンに、みんな緊張してます。大きな魔力がプレッシャーになって伝わってくる。先程の咆哮で、ここら辺の動物や鳥達がみんな逃げて行った。人間だった頃のあたしなら、絶対に腰を抜かしていたよ。
「どうします先輩。なんか作戦立てなくちゃヤバいですよ」
「そ……そうであるな……う~~……ん」
ミミエルとラビエルが、並んで相談していた。
今ここに来ているのは、あたしとムート君に、ラビエルとミミエルとフワエル様です。ちなみにサリエルちゃんはお留守番です。
この中で立場的にフワエル様が上位の存在ですが、ワイバーンの確認のためだけに付き添われてるので、戦闘指揮はラビエルの仕事らしいです。
大丈夫なのかな? 心配だなぁ……
「あたしらが手を出すより、ムート君に任せた方がよくない?」
「いやいや、我が輩がやらねば。もう二度と七美を……」
「え……?」
あたしが何だって??
「それより、もう時間が無いわよ!早く何とかしないと!」
ミミエルがラビエルをせっついてます。
「よし! まず七美が遠距離から魔法で攻撃だ。奴の注意がこちらに向いてる隙に、ムートは隠れて横から仕留めるのだ」
「ちょ……ちょっと待って、あたしが攻撃するのはいいけど、ムート君はバハムートになっていて、隠れる所なんて無いよ」
こんな大きなドラゴンが隠れるような岩も無いのに、それはないわ~
「それもそうだな……」と言いつつ、周りを見渡すラビエル。そして少し離れた所にはえてる大木を見付けた。
「おおそうだ、ムートはいったん人間に戻るのだ。そしてミミエルが抱えてあの大木の上まで飛んで待機。奴がそこを通り過ぎたら、ムートを奴の上に運び、そこでバハムートになって攻撃するのだ。うむ、カンペキ!」
一気に捲し立てると、フンスとドヤ顔した。
「なるほど、人間が大きなドラゴンに変身するなんて、誰も考えないもんね」
あたしは、ちょっと納得した。うまく行く……かも?
「じゃあ、ムートは人間に戻って。私が運ぶから」
そう言ってミミエルが、バハムートの肩に乗った。
「分かった。リゲイル!」
そう唱えると、バハムートの巨体が縮んでムート君になった。
ミミエルが後ろから、ムート君に抱きついて持ち上げて行った。裸の少年が空を飛んで行くなんて、ちょっとシュールなもんだ。
ムート君のお尻って、可愛い……うふふ……
おっと! 今はそんな場合じゃなかったな。
体の真ん中に魔力を集めて……下腹のあたり、気功で言う丹田の場所ですね。色々やっていて気付いたのだけど、お腹の中で魔力をグルグル回すと、威力が増すのを発見したんです。
よ~~~し、回すぞ~。グルグルグルグル……
「来たぞ! 魔力弾をぶちかましてやるのだ」
あたしは魔力を右手に移動させ、手の平の上にボンっと光の玉が出て来た。それをガシっと掴み、振りかぶってドーーーンと投げた。
投げた玉は、ギュイーーーンと飛んで行き、実に200mも飛んでワイバーンの顔面にヒットした!
パッカーーーンと当たり、ワイバーンの頭が衝撃で跳ね上がった。
「ストラーイク!」
ガッツポーズするあたしっ!
「よーし、これで奴は七美に向かって来るぞ!」
そう言い放つラビエル。横を見たら、木の陰に隠れていた。
ちょ……! あたしだけ丸見えかよっっ!
魔力弾に当たったワイバーンは、その場にホバリングしてたが、上に向いた頭を元に戻し、そしてめっちゃ恐い顔で睨んだのさ。
「ギィエェ~~~~ッ!」と叫んで突っ込んで来た!
ワイバーンが突撃を開始する前に、ミミエルはムート君を100mぐらいの高さに持ち上げていた。そして、ワイバーンが通過すると同時に、ムート君を下に向かって、勢いよく放り投げた。
ムート君は速攻、空中でバハムートに変身。
翼を折り畳んで一気に急降下。
さらに、ドラゴンブレスを放ちます。
いきなり頭上から攻撃されて、ワイバーンの飛行速度が落ちた。
バハムートは畳んでいた翼を広げてブレーキを掛け、体を半回転させ足を前に出した。
ブレーキを掛けてさえスピードは早いままで、勢い良くワイバーンの背中に蹴りを入れたのです。
ワイバーンは体をくの字に曲げて落下して来ました。うわっやばい!
あたしは横っ飛びで、ラビエルの隠れている木の後ろに身を隠した。それからすぐに、あたしがさっきまでいた辺りより手前に、ワイバーンが落下した。
もしかして、あたしが巻き込まれない位置に落としてくれたの?
バハムートは地面に降り立ち、ワイバーンの首根っこにひざを乗せて押さえ付けた。アメリカの警官が犯人を取り押さえるやり方だね。そんな事をしなくても、ワイバーンは気絶してるようだけど。
「フワエル様、確認して下さい」
バハムートは、離れた所に退避していたフワエル様に声を掛けた。
フワエル様は、ふわ~りと飛んで来られて、ワイバーンの前に降りました。
そして、地面にノビているワイバーンの顔をじっと見ておられました。あたしも間近でワイバーンを見たくて、近くに行ってみました。
「やっぱり、レオンだったのね……」
フワエル様はそう言うと、ため息をつかれました。
「お知り合いなのですか?」
ミミエルが尋ねた。
「ええ……昔ワタシが魔物の群れに襲われた時に、助けてくれたのですよ」
フワエル様は、遠い目をしておられました。
「これ、どうしましょうね?」
バハムートは、ワイバーンを押さえつけつつ聞いた。
「何でこんなに凶暴になってしまったのか……昔は優しい魔物だったのに……」
フワエル様は、悲しげに言われました。
「そう言えば近頃、魔獣や魔物が突然凶暴化する事が起きているな」
「ふ~~ん。魔獣ってそういう物でしょう?」
「いやいや、大人しい魔獣だったのにだ」
ラビエルとミミエルが意見を交換してるけど、何でそんなに離れてるの? 二人とも、さっきラビエルが隠れてた木の前にいるけど……
「あんた達、何でそんな所にいるのよ」
「む? 近付いたら危ないではないか」
「そうよ、目を覚ましたら襲って来るでしょうが」
確かにその通りだ。あたしも心配になって、その場を離れた。
「で、ラビエル様、このワイバーンどうします?」
再びバハムートが尋ねた。
「何かの理由で凶暴化しているだけかもしれんし、アウルエル様に相談……」
と、ラビエルが言い掛けた時それは起きた。
ワイバーンが目を見開くと同時に起き上がり、上に乗っていたバハムートを撥ね飛ばした。
「……! うっ、しまった!」
バハムートの声に、フワエル様は振り返った。そしてワイバーンと目が合った。
「レオン?」
ズドーーーン!!
ワイバーンの大きくて鋭い爪の付いた手が振り下ろされ、フワエル様が圧し潰されてしまった!
「きゃ~~~っ! フワエル様~~~~!」
あたしは思わず叫んでしまった。
そうなんです、使徒様と言えど、不死身ではないのです。これはやばいです。フワエル様が死んじゃう~~!
上半身を起こしたワイバーンが、腕に体重をかけて、フワエル様をさらに潰そうとしてる。これ以上は本当に死んでしまいます。あたしはフワエル様を助けようと、飛び出して行った。
バハムートも体勢を立て直して、ワイバーンを取り押さえようとした瞬間、ワイバーンの腕が弾き飛ばされた。
そこには白い毛玉があった。
あ~~よかったぁ~~。無事だったよ。
そして、あたしは知る事になるのです。フワエル様の真のチカラを……