第23話 ほっこり会議と動き出す陰謀
ワイバーン戦に敗北した翌日、皆で対策を相談中です。
「バハムートさんが弱かった訳じゃなくて、戦いに集中出来なかったのが、負けた要因でしょう」
ペギエル様が、いつもながらのジト目で言われました。
今日はいつもの空中神殿じゃありません。なんと、あたしはムート君の自宅にやって来ました。
どうやらムート君の正体を隠してた事に、あたしが腹を立てたので、ペギエル様があたしの不満を晴らすために、ここを選んだと思います。
やっぱりムート君の家は、高級住宅街にありました。でも、周りの大きなお屋敷に比べたら、そんなに大きな屋敷じゃありません。内装も贅沢な感じは無く、清楚でシンプルです。一人で暮らしていると聞いていたけど、同居人がいました。なんでも、ムート君の身の回りのお世話をしてるそうな。
女神の息子だけあって、お世話係も使徒様です。何と、ペギエル様がムート君が生まれた時からお世話をしていらしたそうです。
そしてもう一人、お世話係がいました。使徒サリエルという女の子です。ペギエル様は、いつもいられる訳では無いので、普段のお世話は彼女の仕事です。
昨日は神殿にいなかったので、初対面なのですが、すっごい可愛い服を着てます。いわゆる、エプロンドレスというやつですよ。お世話係と言うので、メイド的なアレなのかな? それに着てる服のおかげで、獣人だと思ったけど、彼女はどうやらサルのようです。サルならば、サルエルかと思ったらサリエルだった。サリエルって、地球じゃ堕天使の名前だよね?
で、そのサリエルちゃんは、みんなにお茶とお菓子を配ってます。使徒様だけど、あたし好みの可愛らしい美少女なので、ちゃん付けしちゃう。異論は認めない。
お菓子を配り終わったサリエルちゃんは、ムート君の隣にちょこんと座りました。そして嬉しそうに、長い尻尾を振ってます。あまりの可愛さに、今すぐハグしたいところですが、今日は我慢します。
「ミミエルさん、ナナミィさんは待機だと伝えたはずですが、あの時なぜ連れてきたのですか?」
ああ……、相談じゃなくて、お説教だった……
「でも、バハムートだけじゃ苦戦しそうだったので、同じ討伐隊のメンバーのナナミィを呼んだんです。他に誰もいないですし……」
「なら、あなたが一緒に戦えばよかったでしょ。確かあなたの前世は、かなり強い魔神だったはずですが?」
「い……いいえ! 私なんか、バハムートより弱いですよ~、ははは……」
なんて、照れ笑いするミミエルだけど、聞き捨てならないワードがあったぞ。
使徒とは女神様のお力で、生まれ変わった者だと聞いたけど、前世が魔神でも使徒になれるものなんだ。可愛いミミエルの、魔神姿なんて想像出来ないよ。
「我が輩とバハムートは強力なコンビだったのだ。ミミエルも我が輩を見習って精進するが良いぞ」
空気を読まないラビエルが、呑気に自慢をしてる。
「あの時ラビは、全然役に立ちませんでしたが?」ペギエル様、じろり。
「え? だって、七美はオフで、友達と出かけていたのですよ?」
「たとえ休みだとしても、気を抜くなどあってはならないのです」
「ひぃ~~~~……」ラビエル、涙目。
ほら、アホな事言ってるから、巻き添えを食った。
「はぁ~~……、まあいいわ、これからの事を考えましょ」
ペギエル様は、額を押さえながら言われました。
その時、みんなの目の前に突然、丸いフワフワの物があらわれました。それは直径1mぐらいの毛の固まりで、上に一対の翼が付いてました。なにコレ?
「すみません~~。お願いがあるのですけど~~」
毛玉がしゃべった~~~~!!
毛玉が床にポフンと降り立ったら、ポンっと羊になった。
あ。この方は使徒様の一人、フワエル様だ。フワフワでコロコロの体型で、神殿の癒し担当で、つねに優しく微笑んでおられます。
その力は凄まじく、国家間の揉め事の解決も女神様のお仕事ですが、フワエル様が行かれるだけで、全て円満解決してしまいます。フワモコの魅力に、誰もがほっこりしてしまい、争う気も無くなるからです。
「この前のワイバーン、ワタシの知り合いかもしれないのです」
さらっと爆弾発言したよ。こんなフワモコで優しいご婦人が、あんな魔物と知り合いだなんて信じられません。
「ワタシがアリエスだった時に、ワイバーンに助けてもらった事があるのですよ」
「そう言えばあなたは、かつてアリエスという魔物でしたね。人間達の村を守っていた時のことかしら?」と、ペギエル様が聞かれました。
「そうなのですよ。討伐にワタシも同行してよろしいでしょうか?」
と言うフワエル様のお願いに、ペギエル様はしばし考えられました。
「まあ、私はかまいませんが、あなた達はどうなの? ムートさん?」
みんなの視線が一斉にムート君に向いた。さっきから会話に参加しないから、何をやってるかと思えば、サリエルちゃんにお菓子を食べさしてもらってたよ。
なんと羨ましい!
「え? ああ、僕もかまいませんよ」
ムート君は慌てて答えた。
(ムート君って、女神様の息子だから、甘やかされてるんだ)
なんて、あたしが考えてると思ったのか、ムート君は焦ってます。
「ナ……ナナミィちゃん、別に僕は甘えてるわけじゃ……」
あたしがあきれてるように見えたのか、めっちゃ言い訳された。今あたしは、ムート君を不満げな顔で見てたので、しょうがないかもね。
「そんな可愛い子に、あーんしてもらえるなんて、うらやまけしからん!」
思わず本音を言っちゃったよ。
みんなちょっと引いてるよ。
でもいいの。本音を吐き出したらスッキリした。
「え~~? ナナミィって変な子なの?」
サリエルちゃんに、名前を呼ばれたよ、うれしいぞ。
「サリエルよ、七美は変な娘じゃないぞ」
ラビエルが庇ってくれるけど、サリエルちゃんを呼び捨てにすんな。
「ナナミィは面白い子ですよ~。私は好き」
あれ? あたしってミミエルに好かれてたの? ちょっとうれしいね。
「まあまあ、若いっていいわね~~~」
フワエル様がほっこりしておられます。その姿を見て、みんなもほっこり。
「では、ワイバーンの監視を続ける事と、討伐の際はフワエルさんも同行すると言う事でいいですね? 今日はここまでとしましょう」ペギエル様は言われました。
やっと終わった。さあ、これからサリエルちゃんとおしゃべりだ! ムート君だけに独占させないよ!
「それと、ナナミィさんは空中神殿で魔法の特訓ですよ」
当たり前のように言うペギエル様。
はうぅ~~~……がっくりだぁよ……
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ここはドラゴニアより、遥か150kmほど離れた巨岩が乱立する山地である。ワイバーンの巣は、この山の中腹の、巨岩が重なり合って出来た洞窟にあった。
まだ少し痛む頭をさすりながら、ワイバーンは寝床に座った。
「なぜあんな場所にいたのだ? 解せぬ……」
彼はここ暫く、何も食べてない事を思い出した。巣の近くには大きな湖があるので、そこに魚を捕りに行こうと歩き出した…
「 おやおや、もう正気に戻ってしまったのかね? 」
何も無い空中から、いきなり声を掛けられた。ワイバーンは驚いて周りを見渡したが、声の主の姿は見付けられなかった。
「これは不思議な事もあったもんだ。姿が見えないのに、魔力の波動を感じぬ」
そう言いつつ、ワイバーンは気配を探った。姿を消す魔法を使っているのに、魔力を感じないのならば、魔力以外の力が使われているからだ。だとすれば、何らかの手段で姿を消していても、実体は存在しているはずである。
ワイバーンは巣の中の様子を、注意深く観察した。すると、巣の入口の辺りに違和感を感じた。
「ふうむ……、光の具合をいじって、姿を見えなくしているのか? それは、超能力とかいうものか?」ワイバーンは、そう声を掛けた。
「さすがドラゴンの一族のワイバーンだ。こうもあっさりと、見破るとは!」
目の前の空間に、一本の横線が現れたと思えば、それが上下に開いて、大きな目玉になった。空中に目玉が一つ浮かんでいるのだ。
「おいおい、あんな街に暮らす小さな連中と一緒にしてくれるなよ。それにワイバーンは竜族であって、ドラゴンとは別の種族だ」
ワイバーンは目玉をじっと見据え、油断無く話した。
「不思議やろ? 光を曲げて姿を隠す、光学迷彩と言うものだがね」
「そんな種明かしをしてもいいのか?」
「かまへんよ、あんたはどうせワシの言いなりになるよって」
「なに!?」
目玉の下に、にやりと笑う大きな口が現れた。口の中には、鋭い牙がずらりと並んでいた。
「サイクロプスか?」
「はずれ~~」
その言葉を聞いた途端、ワイバーンは気が遠くなった。一瞬彼の目から感情が消えたが、すぐに凶暴な目付きになり、巣から飛び出して行った。
「さて、後は『旦那』がうまくやってくれるやろ……」
そして、目玉と口はすうっと消えた……