第2話 ウリル行方不明?
学校は4時限目が終わり、お昼休みになりました。
生徒全員が食堂にて昼食をとります。広い食堂ですが、それぞれの種族に分かれて食事しております。特にドラゴン族は、離れた所にかたまってます。かつて人間との間に色々あったそうですが、未だに心理的に距離があるようです。
あたしは元人間で、その辺の事は気にならないので、人間や獣人とも仲良くやってます。なので、あたし達だけが、3種族一緒に食事してるわけです。こういうのは少し珍しいそうですが……
食事も終わり、ふと気になった事があったので、一人で図書室に行きました。何気にヒマワリなんて言ってみたけど、こちらの世界にもあるんだろうか?
植物に関する本を何冊か持って来て、調べてみました。
そんな花は無いようですねぇ……、でも、似たような名前の花はありました。さっきウリルが口にした「ヒバワリ」という植物です。『トリエステの植物散歩』から引用してみると……
『ヒバワリ 山間部の岩壁に生息し、黄色い花を咲かせる。ヒバとは岩場の事、岩の隙間に根を張り、成長に伴って岩を割ってしまう事からヒバワリと言う。この花の咲く地域は、岩盤がもろくなり、崖崩れが多発する』
うわ、なんて迷惑な植物だ!
(ちなみに、あたしが日本語に翻訳してるので、日本では「ヒバ」とは言いません。たぶん……)
「これ、ちっちゃくて可愛いお花だね」
いつの間にかミミィが本をのぞき込んでました。
「この本読んでいい?」と、積んであった本から1冊取って聞いて来た。
そう言われて、顔を上げて周りを見渡せば、誰も居ないじゃないですか。やばい、もう昼休みは終わるんだ。
「もう午後の授業が始まるからダメ」
あたしはミミィから本を取り上げて、棚に返しに行きました。
「いや~ん。読みたいよ~~~」
「可愛く言ってもダメよ」
不満げに尻尾を上下に振ってるミミィの腕を引っ張って、図書室を出ました。
午後の授業が終わって、家に帰って来ました。
今日はママのお手伝いなので、エプロンをつけてキッチンでスタンバイです。今晩は久しぶりにオムライスを作ります。この世界にも卵料理はありますが、ふわとろの卵をライスにのっける料理はありません。なので家族には、あたしが発明した料理だと思われてます。
そうそう、料理を始める前に、卵を買ってこなきゃ。ひとまずエプロンをぬいで、買い物に行く事にします。
玄関を出た所に、ウリルのママが居ました。彼女はトイプードルのような顔で、大変可愛いです。でも、いくら可愛くても、40近いご婦人をモフるわけにはいかないので、我慢が必要です。
とは言え、こんな時間に、ウリルのママが何の用なんでしょう?
「ねぇナナミィちゃん、うちのウリル来てないかしら?」
ウリルのママは、心配そうに言った。
うん? どういうコト?
「学校で会ったきりだけど……。あの子まだ帰ってないんですか?」
「そうなの。どこか心当たりはない?」
「え~と……、そうですね、あたしも今から出かけるので、ついでに探してみますね」
なにやってるんだろうね、あの子は。
なんて考えながら歩いてたら、ハッと思いついた。
(あれ? あの子まさか、ヒバワリ採りに行ってるんじゃないよね?)
以前あたしが、モンシロチョウが好きって言ったら、白い蝶を大量に捕まえて来た事があったのです。むろんこの世界にモンシロチョウはいないので、ただの白い蝶だった訳ですが。
あの時は、あたしの部屋が蝶だらけになって、捕まえるのが大変だった。ウリルがドヤ顔してたので、お仕置きしたけどね。
これは絶対行ってると確信したあたしは、探しに行くため、いそいで飛び立ちました。ヒバワリがありそうな岩場に心当たりがあります。パパが働く鉱山に行く途中に、岩肌がむき出しになった山があるのです。間違いなくそこだ。
街から片道3キロほどなので、夕飯までには帰って来れそうです。
いやまずい、帰りはウリルをかかえて飛べないので、二人で歩いてこなけりゃ。それじゃ夕飯に間に合わないよ。
フルスピードで飛んで、急いで岩場に向かうと、間も無く現場に到着です。早く見付けないと、崖崩れに巻き込まれかねないです。あたしの可愛いワンコを、死なせるわけにはいきません。
しばらく上空から捜し回ると、いた、いました。
けっこう崖の高い所まで登って探してる。流石に獣人の身体能力の成せる技だ。
「こらー! なんであんたは、そんな危険な事やってんの!」
と、怒鳴ってやった。
ウリルはすぐに気付いて、採った花をかかげて、尻尾を振っていた。
あ~~もう可愛い奴め。じゃなくて、ナニやってんだ!
「ナナミィ、ヒバワリ採れたよ。これを花壇に植えればいいよ」
と、ウリル。
「その花は岩場にしか咲かないから、花壇では無理だよ」
とあたしがため息まじりに言うと、彼はガーーンという顔になった。
「気にしてくれてありがとうね。でも、もう帰ろ」
「う……うん」
がっくりと落ち込んでいたウリルが、力なく立ち上がった瞬間、彼の足元が崩れた。
もともと脆くなってた所に、あの子が花を探して歩き回ったおかげで、崖の限界を超えてしまったようです。スローモーションのように、岩と一緒に滑り落ちてくウリルを救うべく、あたしは急降下します!
間一髪、ウリルをキャッチ!
崖の上の安全地帯まで上昇します!
でもこれが大変なの。あたしの翼で出せる推進力じゃ、12歳の男子を持ち上げるには力不足なのです。
「うぎぃ~~~~っ!!」
ウリルの腕をつかんで、目一杯羽ばたきました。
火事場の馬鹿力に期待しつつ、なんとか崖の上に引っ張り上げました。
「あ~~よかった……」
ウリルを助けて、あたしは力尽きてしまいました。しばらく飛べそうにありません。まあ、歩いて帰るんだから関係ないけどね。
もうそろそろ陽が傾いてきました。
早く帰らないと、市場が閉まって買い物が出来なくなります。
いや待って、今大変な事を思い出した。
前にパパから聞いたんだけど、この辺りの山には、岩に擬態してる危険な魔獣が生息してるって事に。
その名も『ロックデーモン』。ドラゴンにとっては、脅威となる程の危険性は無いらしいけど、普通の獣人のウリルには、かなり危険です。
「じゃあ早く帰ろう。ウリルのママも心配してたし、買い物も間に合わないからね」
「わ……わかった」
なんか、凄く嫌な感じがしてます。
ゴト ゴト…… ズリ ズリ…… ズリ…… ズリ
周りにある小さな岩が動いてる……
やっぱりいました、ロックデーモン。
これはちょっとまずいです。あたし達の背後には崖があるので、このままじゃ追い詰められてしまいますが、こんなにゆっくりとした動きなら逃げられるかな?
……そう考えていた時期が自分にもありました……
50cmぐらいの丸い石の真ん中が割れて、中から目玉が2つ出て来ました。さらに底の部分から足が飛び出してきて、まるで丸いカニみたいになった。それがシャカシャカと動き出しました。
ばらばらに動いてたロックデーモン達が、ピタリと止まった。そして一斉にこちらを向いた。
あ、これ一気に襲いかかってくるパターンだ。
獲物の存在を確認したロックデーモン達は、ダッシュで襲ってきたのです。