第181話 いろいろ正体判明
バクッ!
ジョッカ様がミケの顔に噛みつきました。
「うにゃぁ~~~~~~~!!」
獣人メイドの設定を忘れて、ネコみたいに叫んでるミケ。
噛み付いたと言っても、体毛を採るためなので、肉にまで牙を立ててないはず。大げさだなぁと思っちゃうよ。
ブチッ!
「いだぁ~~~~~~!!」
なにごと?
よく見たら、ミケの頬の毛がゴッソリ抜けちゃってる!
ジョッカ様の口を見たら、黒い毛の塊が……
彼女はその毛を、ポチャリーヌの手の平の上に乗せました。
「ちょっと抜きすぎちゃった♪」
なんて、テヘペロな顔で言ったよ。
「ジョッカ様、やり過ぎないで下さいよ」
「だってコイツは、ナナミィを殺そうとしたんでしょ? これぐらいで済ませてあげたんだから、感謝して欲しいぐらいね」
「ああ……そうなんだ。まあ、しょうがないか」
取り敢えずあたしは納得した。
「うう……酷いにゃ、痛いにゃ」
ミケが頬をさすっていた。
「ああ~~! ハゲてるにゃ~~~!」
「うるさいのだ!」「ですぅ!」
ミケはラビエルとリリエルちゃんに、蹴りをかまされていた。
さて、例の黒い毛の判定はどうなったのか?
ジョッカ様が口にふくんで、しばらくモグモグしていました。
それをペッと吐き出して、次はミケの毛を同じように口にふくみました。
「分かったわ、毛の持ち主は別の魔物ね。でも、同じ親から生まれた肉親よ」
「おおっ! さすがジョッカ様だ!」
「そうね~、普段とは別人みたいに優秀だね!」
「そうですねぇ、普段もこれぐらいなら、迷惑じゃないですぅ」
「お主ら、褒めるかディスるかどっちかにせい」
普段の行動がダメダメなので、しょうがないですよね。
「みんな酷いわぁ~~~!」
ジョッカ様が、いつもみたいに騒いでおられました。
「これであの黒い毛が、ミケの妹の物だと証明されたな」
「あれ? それタマ達の毛だったのですか?」
立て直したのか、しゃべり方が普通に戻ったミケだった。
「ちょっと待って、タマだってぇ?」
「そうですよ。タマ・エンガワとクロ・エンガワと言います」
「普通だ!」
「え~~? 他には無い、個性的な名前なのに?」
「だって、ネコの名前にはありがちだし」
「ナナミィよ、この世界の者にネコやイヌは通じないぞ」
そうでした、この世界にはネコ型獣人やイヌ型獣人はいますが、本物のネコやイヌはいないのです。それに、猫や犬という言葉もありません。なのでネコを理解出来るのは、あたしとポチャリーヌだけです。
それとムート君も知ってたか。
おっと、そう言えばもうひとつあったんだった。
「ペリゴールさん、このメイド姿の獣人が、ケットシーですよ」
「ええっ!?」
「ケットシーには変身能力があって、獣人のようになれるのです。とは言え、不完全な姿にしかなれないので、胸にはおっぱいも無いし、足の形も獣の足のままですよ」
ここまで付き合ってくれたペリゴールさんには、ケットシーの情報を教えてあげなくてはね。
「そそそ、そんな事が! ケットシーに変身能力があるなんて大発見ですぞ! しかも魔物がメイドをしているなんて。いったいどこの家に仕えているのですかな?」
ペリゴールさんは新事実に、すっかり興奮なさっております。
「こ奴はさっき名前が出た、ヘンリーの家のメイドだぞ。妹が二人いるので、ケットシーメイドが3人という訳だな。しかも、色々ヤバイ仕事もさせられているようだが、おかげでこうやって捕まっているのだ」
ニヤリと笑うポチャリーヌが、ミケの尻尾を引っ張っていた。
子犬がいたずらしているみたいだよ。
「ちょっ……何でスカートをめくってるんですか~?」
「お主も、ペリゴールの研究に協力するのだ!」
ポチャリーヌがミケのスカートをめくって、素足が丸出しになっちゃってる。どうやらさっきあたしが、ミケの足の形の事を言ったからだな。
ネコを抱き上げて、ビロ~ンとなった時の足の形そのものです。
ペリゴールさんは、めっちゃ興味深そうに観察してるけど、絵面が獣人メイドをセクハラしてるみたいだ。
そしてサミルさんとドミィルさんも呼ばれて、応接室に来ました。
「あら? ペリゴール様ではありませんか。どうしてここに?」
サミルさんが、ペリゴールさんを見付けて声を掛けました。
「おお、サミルか。いやなに、ケットシーの研究に協力して頂いたのだよ」
「ああ……それでミケの服を脱がして……」
ポチャリーヌに服をひん剥かれているミケを見て、サミルさんが引いていたよ。
「やはり、サミルとは知り合いだったか」
「ええ、ペリゴール様が大臣を引退された後に、私やお兄様の通う学院に来て下さり、講義をしてもらいました」
「なるほど、そこが接点となった訳だな」
「ポチャリーヌ様が探しているのが、その者達なのですかな?」
「そうだ。ヘンリーと仲間達、そしてケットシーと、すべて繋がっておるのだ!」
ポチャリーヌがババーンと言った。
「ふ~む……それはどういう事ですかな?」
ペリゴールさんは、イマイチ理解出来てないようですが……
「ここに関係者全員いる事だし、ペリゴールに我らの目的を説明しておこうか」
そう言ってポチャリーヌが、ペリゴールさんに今までの経緯を説明しました。
あたしがミケに殺されそうになった場面では、ジョッカ様が殺気のこもった目でミケを睨んだので、ミケが超びびっていた。
「そんな事があったのですか。ヘンリーの奴め、理想を実現させる為とはいえ、人様に迷惑を掛けるなどと……。それにこれは、祖父殿まで関わっていそうだな」
ペリゴールさんはそう言って、ミケの方を見るのでした。
「奴ら人族至上主義者のリーダーが、誰だか知らないか?」
「残念ながら、私の講義を聞いた者は多く居ましてな。誰がリーダーとまでは分かりかねますな」
「講義という事は、奴らは学生か? なら至上主義者の中心人物は、もっと歳のいった者か。とすると、サミルの祖父が怪しいな」
ポチャリーヌがサミルさんを見ながら言った。
「大旦那様の事ですか? 確かに、我々にミケを付けたのは大旦那様ですが……」
それに答えたのは、執事のドミィルさんです。
「人族の年配者には、人族こそが世界を支配すべしと主張する者がいますからな」
ペリゴールさんが苦々しく言いました。
あたし達はペリゴールさんが人族至上主義者を煽動しているのかと思いましたが、そんなに単純な話でもないようです。
ペリゴールさんがサミルさんの通っている貴族学院で講義した内容は、人族が統治の中枢を担うべしと言うもので、他種族の排除では無く、種族ごとの特性に合わせた仕事をしよう、と言うものだそうです。
っていうか、適材適所?
確かに。ドラゴン族なんかは大らかな性格な者が多くて、繊細な政治的判断なんか出来ませんもんね。それなら、まだ獣人の方がましかも?
でもそれを聞いた一部の人達が都合よく解釈して、獣人族やドラゴン族の差別に利用している訳です。
特にドラゴン族は、過去に人族と戦って負けた歴史があるので、なおの事差別をされやすいようです。
「と言う事は、サミルの家はそんな歪んだ思想に染まっている訳か?」
ポチャリーヌが鋭く言い放った。
「それは………そう、なのでしょうね。でもまさか、獣人の領主様を害しようとするなんて……」
そしてあたしも、害されようとしましたよ。
もちろんあたしは、サミルさん自身はドラゴン族を嫌ってはいない事を知っています。ドラゴン族の女性のドミィルさんを、姉のように慕っていますからね。
サミルさんは、家族とドラゴン族との間で板挟みになっているんだ……
「では、サミルの家に行って、関係者一網打尽なのか?」
と、ラビエルが聞いた。
「だよねぇ。ネタが上がった以上、捕まえてお仕置きするしかないよね?」
と、あたし。
「そうですぅ! ナナミィさんに危害を加えた奴は、死あるのみですぅ!」
「じゃあ私は、この牙からたっ~~ぷりと毒を注入してやるわ~~~~」
リリエルちゃんたら、危害を加えられてないよ。むしろ、こっちが加えたよ。
それにジョッカ様って、毒を持ってたの? まるで毒ヘビだよ。
「ジョッカ様の毒がコワイ」
「ああ〜〜、毒はスキルで作っているので、普段は無毒なのよ〜〜」
あたしに怖いと言われて、ジョッカ様は慌てていました。
「とは言え相手は貴族ですし、きちんと証拠を揃えないと、捕まえるのは難しいと思いますよ。まずは、相手の弱みを握る方がいいのでは?」
スピネルさんが貴族令嬢の立場から、アドバイスしてくれます。
っていうか、弱みってこえぇよ……
「その通りだ。さっそくミケの妹達を捕らえるぞ」
「でもポチャリーヌ、すでにミケがいるのに、まだ捕まえるの?」
「ああ、奴らが残りのケットシーを使って、攻撃してくる可能性は高いからな。ならば先制して、ケットシーを捕獲するのだ!」
「どうするのですぅ?」
疑問に思うリリエルちゃん。
「ここにサミルが居る事をバラすのだ。屋敷を囲っている結界を解けば、ミケの魔力が漏れて、ミケの妹達に察知されるだろう。そうなれば確認の為に2匹揃ってやって来るぞ!」
なんて、めっちゃドヤ顔で言うポチャリーヌ。
「え〜〜と、要するにミケを囮に使うってわけね?」
「そう!それだ。タマとクロだったか? 姉を取り戻さんと我らを攻撃するだろう。そして捕まえる。二匹を捕まえ、さらにサミルを拉致しているのが、アリエンティ家だと知れば奴らはどうするだろうな?」
「取り返しに来る?」
「いや、それは違うな。サミルは分からんが、間違い無くドミィルとミケを殺しに来るだろう。証拠隠滅の為に」
「ひぃ〜〜、私がコロコロされちゃいます〜〜」
ミケが騒いで走り回っていたよ。




