第18話 ナナミィ、ドレスをもらう
今日もディアナ様の空中神殿で、魔法の特訓です。
人間の七美の姿でやってますが、服はドラゴン用のままなので、寸足らずの服を着てるみたいで格好悪いですよ。ペギエル様は、下着を用意して下さったけど、上着は用意して下さいませんでした。ラビエルが用意してるそうだけど……
この話題になると、ラビエルが目を逸らすんだよね。おかげで、今もって人間の姿で人前に出られないでいます。
しかし今日は違った。
ラビエルが自信満々に荷物を持って来た。
「待たせたな七美。さあ! 人間用の新しい服だぞ」
上に掛けてあったカバーを取ると、ハンガーラックにたくさん服が掛かってた。
色々なデザインのドレスや普段着が20着ばかりあった。
そのどれもが、あたし好みの物だった。っていうか、見覚えのある服ばかりなのだけど? その中にあった服に、あたしは心臓が止まるかと思った……!
それは、あたしが高校で着ていた制服だった……
ジャケット、ジャンパースカート、そしてブラウス、どれも懐かしい物だった。
他の服もよく見てみれば、お気に入りだったワンピースや、親戚の結婚式で一回しか着なかったドレス、そして……いつも着てたパジャマまであった。
あたしは、パジャマを見てたら涙が止まらなくなりました。
だって、ここにあるのは、永遠に失ったはずの物達なのだから……
「こ……これは、あたしが前に着てた物なの?」
「いや違うぞ。これらは七美の記憶から再現した物なのだ」
確かに、よくよく見れば細かい部分が違う。
でもそんな事はいいの。あたしは嬉しくてラビエルを抱きしめた。
「ありがとうラビエル。こんなに嬉しい事はないよぉ……」
「でも、これはナナミィがもと居た世界、『アース』の服でしょう? トリエステで使われている服とは、雰囲気が合わないんじゃないの?」とミミエル。
「あ……! そ……それは、また後で準備するのである」
ラビエルが慌てて言った。そりゃそうか、地球の服じゃデザインが違うしね。
それに、前世での世界は『アース』って言うんだ。
「こんなにたくさん、あたしの大好きな服を作ってくれて嬉しいんだけど、何で体操服とスクール水着があるの?」
体操服と言っても、ハーフパンツなんだけどね。スク水は、男性に人気の旧式のタイプだ。ラビエルの趣味か?
「い……いやほら、懐かしかろうと思ってだな……、決して変な意味じゃ……」
あたしが、抱いている腕に力を入れたら、苦しそうに笑っていた。
「まあ、いいんじゃない? ビキニとかきわどい物じゃなくて」と、ミミエルは言うけど、あたしにしてみれば、可愛くないのが問題なのだ。フリルを付けろ。
なぜかペギエル様が、うんうんと頷いていた。
あたしはさっそく制服を着てみた。なんと、背中が開くようになっていて、翼が出せますよ! よく出来てるな~~。さすがに服地はサージじゃなくて、似たような素材だった。あ、サージとはセーラー服とかに使われてる、厚手でサラサラした手触りの布の事だよ。
で、次はワンピースを着てみた。レースとフリルがばっちり付いた、甘ロリ風のワンピだ。アースでは、ちょっと浮いてしまうデザインだったけど、トリエステでは逆にぴったりな服です。
もちろん、ゴスロリ風のドレスも持っていましたよ。黒とピンクのすっごい可愛いの。これはドラゴンの方が似合うかも? でも着てみたら、なんていうコト! 以前は正直あまり似合わなかったけど、今のあたしなら超似合ってるよ!
転生の効果なのか、顔つきが日本人的じゃなくて、ハーフのような雰囲気です。だからゴスロリでも違和感が無いのかも?
じゃあ、次は次は……
「ねぇ。さっきから一人ファッションショーしてるけど、魔法の訓練は?」
ミミエルが、すっかりあきれてた。
「あ~~……忘れてた……」
あたしも自分にあきれた。
「今日は訓練になりそうも無いので、ここで終わりましょう」
ペギエル様の一言で、今日の訓練はお開きです。
ラビエルに送ってもらい、新しく貰った服と共に帰宅しました。
帰り際、ラビエルにはいっぱいキスしてあげた。……ほっぺにだけど。
自分の部屋に置かれた、たくさんの服と下着を見ると、また人間の女の子としてオシャレが出来るので、嬉しくてニヤニヤが止まりません。
さて、これをどこに仕舞おうかな?
……そうだ、これどうしよう?
冷静に考えたら、ドラゴンのあたしが、人間の女の子の服を持ってるのって変じゃない? おっぱいが無いのに、ブラジャー持ってるのは、変態趣味っぽいよ。パンツだって、どうやってもドラゴンには使えない形だし。そもそもドラゴンに、下着は必要ないし……
あれ? 困ったぞ。
どこに仕舞うかじゃなくて、どこに隠そう、だよ。
隠したエッチな本を、見付からないか心配する男子の気持ちが理解出来てしまった。ほんと、これどうしよう?
今数えてみたら、ドレスや水着なんかが23着、下着もブラが10枚、パンツは15枚もあった。けっこうな量があるよ。あたしの使ってる部屋の隣は、あたし専用のウォークインクローゼットだけど、この量は全部入りそうもない……
部屋の中のタンスや本棚に、下着が入りそうな隙間がないか調べたが、まったく無かった。なんとかベッドの下なら入りそうだった。
やってる事が、中学男子と変わらないので泣けて来た。
あたしは女の子なのに……
もちろん、ペギエル様やラビエルには、感謝してますよ。
でも、こんなにたくさんじゃなくても良かったのに……
そうだ、それに……
「どうせなら、物が入るブレスレットもくれたら良かったのに……ですか?」
「うん、そうそう。それも欲しかった……って、ペギエルさまぁ~~」
気が付いたら、ベッドにペギエル様が座っていた。
本当に心臓に悪い。
「私もあなたの事情を、考慮していませんでしたね。特別にそのブレスレットにも、収納スペースを付けてあげましょう」
と、ペギエル様は言った。
「えぇっ? 本当ですか?」
「ただし、服が入る程度の……ですがね」
「え~~……」
ちょっと落胆するあたし。
「じゃあ、腕を出して」と言ってペギエル様は、あたしの腕からブレスレットを抜いて、ご自分の翼で包み込み、何やら魔法を掛けておられます。
「さあ、これでいいわ。入れてごらんなさい。出したり入れたりする時に、呪文は必要ありません。考えるだけで出し入れ出来ますよ」
あたしはブレスレットをはめて、ハンガーラックにくっつけて「入れ」と念じてみました。するとスッと消えて、ブレスレットがわずかに震えた。これは作動した事を知らせるバイブ機能かな?
「ではまた明日に」
と言ってペギエル様は、帰られようとしました。
「いきなりパッと来られると、ビックリしますよ……」
あたしはちょっと皮肉ってみた。
「ふふ……、あなたが可愛くてつい……ね」
小さく笑うと、ペギエル様は消えた。
いつもはジト目をしてるペギエル様が、あんなに優しい笑顔をされるなんて、予想外だった。あの方こそ可愛いペンギンですよ。
でもやっぱり、わざとだったんだな……