第178話 ケットシーの研究者
王都のハンターギルドに来てみれば、ターゲットの一人に会いました。
人族至上主義者のリーダーなのでは?と思われる一人で、元伯爵のペリゴールさんです。魔物の研究をしていると聞いていたので、ハンターギルドにいても不思議じゃありませんね。
「討伐隊の事は聞いておりましたが、まさかこんなにもお若い女性だとは思いませんでしたな」
ペリゴールさんがポチャリーヌを見て、しみじみ言いました。
「そうであろうな~、妾は可愛い少女だからな!」
「……中身は350歳のババアなのに?」
あまりに無謀な主張をするポチャリーヌに、あたしが突っ込んでやった。
「むむ、気持ちは若者なのだぞ?」
「いやいや、それ無理あるから」
ペリゴールさんが不思議そうな顔をしていたので、討伐隊のメンバーが異世界からの転生者であり、ポチャリーヌの前世が魔法女王だと説明してあげました。
まあ、あたしは今も前世も一般庶民ですがね。
「なんと! ワシが知らない事がまだあったとは、世界は驚異に満ちておりますな」
魔法のある世界においても、異世界転生は珍しい事なんだ。
「お主が当主を引退した後で討伐隊が結成されたので、知らなくても当然だな」
ポチャリーヌは魔王らしく、威厳を持った感じに話していた。
子供がカッコつけてるようにしか見えないけどね。
「そ……そうだ、ケットシーの討伐をやめて頂きたい」
思い出したように、ペリゴールさんが言いました。そう言えばそんな事を言ってたな。研究者からしたら、珍しい魔物は保護したいのでしょうか?
「それな。今回の討伐任務は、リュウテリア国王からの依頼だから、やめる訳にはいかないな。それに討伐隊と言っても、本来の目的は魔物や魔獣の問題解決だ。問題が解決さえすれば殺す事などしないし、保護する事も任務のうちだ」
「それでは……」
「うむ、我らはよく知らない魔物ゆえ、討伐か保護かの判断が難しいのだ。お主の知識だけが頼りだ」
「ならばこのペリゴール、存分にお役に立ちましょうぞ!」
めっちゃ張り切るペリゴールさん。
この討伐任務が、人族至上主義者のリーダーとメンバーを炙り出すための偽装任務だとも知らずに。
この人が本当にリーダーなのかは分かりませんが、カエラス子爵の飼い猫ならぬ飼いケットシーが関わった者の中に、メンバーがいる可能性が高いのです。
それはケットシーを使って、メンバー間の連絡を取っている事が考えられるからです。
王様からの依頼となれば、この人もあたしらを騙したりはしないでしょうし、こちらの本当の目的にも気付いた様子は無いですね。
「え~……と言う事は、ラビエル様達に討伐任務が移った、という事でいいのですね?」
と、ギルマスがラビエルに尋ねた。
「そうだ。なのでハンターギルドの依頼からは消しておいてくれ」
「了解しました」
話は付いたようですね。
ハンターギルドから出て、再びリリエルちゃんの転移魔法で移動しました。
移動先はポチャリーヌの別邸ですが、いきなり部屋の中に出たので、ペリゴールさんにはここがどこだか分からないでしょう。至上主義者のリーダーかもしれない人に、ポチャリーヌのアジトを教えられません。
「こ……これが、使徒様だけが使える、転移魔法ですか。凄いものですねぇ……」
生まれて初めての転移魔法に驚くペリゴールさんには、それどころじゃなかったみたいだけど。
部屋の中には、質素な机と椅子があるばかりです。
ここがどこだか知る手懸かりはありません。なんか本当に、アジトって雰囲気だ。
「それでここは、どこですかな?」
「某所だ」
ペリゴールさんの質問に、ポチャリーヌがあっさり答えてた。
「ぼう……しょ、ですか?」
「そうだ、どこだか分からない場所。秘密の場所たる某所だ」
「はあ?」
ペリゴールさんは釈然としない様子。
あたしが助け舟を出した。
「つまりは、秘密基地ですよ」
「……はあ?」
くっ、あまり助けにはならなかったようだ。
「まあいい。取り敢えず、ケットシーがどういう魔物か教えてくれ」
「あ、はい。では、私が知り得た事をお教えしましょう」
みんなでペリゴールさんのお話を聞く事になりました。
ただ聞いているだけじゃつまらないので、お菓子でも食べようという事になりました。本日2回目のお茶会です。
「お待たせ~~」
と言って、お茶とお菓子を持って来たのはミケだった。
あれ? ミケって、隔離されていたんじゃないの?
(ちょっと、何でミケがお菓子を持って来てるの? ペリゴールさんに会わせたらまずいんじゃないの?)
あたしは、ポチャリーヌの耳を引っ張ってささやいた。
(いたた……逆だ、ミケを見た時に、どういう反応をするのか試しているのだ)
(それは、カエラス子爵と関係があるかもしれないから?)
(そうだ。……いいかげん、耳をはなせ)
ミケがワゴンからお茶とお菓子をテーブルに置いて、すぐに戻って行きました。
あたしとポチャリーヌは、ペリゴールさんに注目。
「おお、これは美味しそうですな」
あれ? 反応がナイ?
あなたが研究したがってる、ケットシーですよ~。
今は獣人の姿をしているので、魔物だとは気付かないんだね。
と言う事は、ペリゴールさんはカエラス子爵とは関係無い?
関係があれば、メイドをしているケットシーを知っているはずです。
(どうやらこのペリゴールは、至上主義者とは関係無いようだな。さっきミケに問い質したところによると、会った事が無いそうだ)
ラビエルがあたしとポチャリーヌに、こっそりと教えてくれました。
(お互いに面識が無いなら、ペリゴールはシロか。とは言え、至上主義者との関係は完全に否定出来ないので、まだ様子見だな)
((分かった))
一通りお菓子を食べたので、ペリゴールさんにケットシーのお話を聞く事にしました。
「ここ最近、王都で目撃されるようになった魔物ですな。ケットシーは昔から目撃例はあったので、ある程度は知られています。それによると、人間程の大きさのある、黒くて美しい魔物と言う証言が多数あります」
確かに、ミケの体毛は黒くてツヤッツヤです。
カラスの濡れ羽色ってやつです。しかも中身が天然で可愛いし、敵でさえなければ、ハグして思うさまモフってやるのに。
「ちまたでは、ケットシーはスパンキーの亜種だと言われておるのです。スパンキーのように、電撃を放った場面を見た者が居るためです」
「「「へぇ~~~」」」
ケットシーが電撃を出すのは知っていますが、あたしら一同、さも初めて聞いたような返事をしました。一応ケットシーの事は、知らないテイで話を聞いていますので。
「しかし私は、亜種ではなくスパンキーが進化したものがケットシーではないかと思うのです」
「なるほど、よく似ていますもんね」
テーブルに置かれたケットシーの絵を見ながら話を聞いています。
ケットシーは素早く動く魔物なので、はっきりと見た人も少なく、絵も想像図に近いものだった。
なんていうか、ケットシーってUMAあつかいなの?
「ケットシーも魔物なら言葉が話せるでしょ? 捕まえたら聞いてみればいいんじゃないですか?」
「おお! そうですな! 本人から聞ければ、確実ですな」
「ですよねぇ!」
あたしの言う事に、ペリゴールさんはノリノリだ。
「まあ、本当にしゃべれるだけの知能があればだがな!」
「語尾に、にゃ~とか言いそうですぅ」
ポチャリーヌとリリエルちゃんが、ひどい事を言う。
しかも、ネタバレしてるし!
「取り敢えず、情報はこれでいいだろう。まずは目撃情報が多い、貴族街を探すぞ」
「「「「おお~~!」」」」
あたし達は、貴族街から探索する事になりました。
むろん、ケットシー捜索にかこつけて、至上主義者のメンバーを探すためです。
ペリゴールさんは「若い人は元気ですな~」なんて言っていたよ。
みんなで揃って庭に出てきました。
部屋の中からの転移でないのは、ペリゴールさんが至上主義者とは無関係らしいので、警戒の必要が無くなったからです。
ここは中庭なのか、メイドさんがネコの散歩をさせていました。
じゃなくって、あれはミケだよ!
「ちょっと、なんなのです?」
「ミャ〜〜」
「そんなの、少しくらいいいでしょ」
「ミャァ!」
バチッ!
「あ〜〜分かった、分かったから〜〜〜」
ネコだと思ったら、ルナだった。いつの間に来たの?
っていうか、何をやっている?
(ちょっと。なんでルナがここにいるのよ?)
あたしがポチャリーヌの耳を掴んで、こっそり聞いてやった。
(そんなのミケの監視に決まっておろう)
(じゃあ、レイスはどうしたの?)
(奴に一日中監視させるのは無理だと分かったので、ルナと交替したのだ)
(な……なるほど。でも、ペリゴールさんに見られてもいいの?)
「おや? 先程のメイドが、ペットの散歩ですかな?」
……スパンキーだとは、バレていなかった。
いやいやいや、魔物の研究者なのに、それはどうよ?
「よしっ。貴族街へ行くぞ!」
ラビエルがそう言うと、周りの景色が変わるのでした。




