第17話 ラビエルの修行-2
ゴブリンに囲まれた。
ゴブリンと言っても、緑色の小鬼みたいなのじゃなくて、毛だらけのサルのような魔物だった。それらは飢えていて、獲物を求めて森の中をうろついていた。
ちょうどその時、森の中から漂うハンバーガーの匂いに気付き、集まって来たのだった。
「あかーん! 周りを囲まれてるぅ!」
焦るラビエル。
「にげる? しとさま」
ラビエルとコブラナイ弐号は、背中合わせでゴブリンに対峙していた。
「修行の為には、戦わなければ……。でも、この数ではムリムリ……」
ラビエルはもう泣きそうになっていた。ゴブリンは体も小さく、そんなに強い魔物ではないが、何十匹も集まると、強力な魔物に匹敵する程厄介な相手なのだ。
「じゃあにげよう しとさま」
弐号が両腕の先を地面に差し込むと、そこから地面が割れ、土の壁が立ち上がった。そしてそれは真ん中で割れて左右に広がり、道が出来た。ついでにゴブリンは、壁に弾き飛ばされていた。
「おおっ! すごいぞ弐号。包囲に穴が開いた。そこから逃げるぞ!」
ラビエルは弐号の手をつかむと、ダッシュで逃げ出した。幸い脚力は制限されていなくて、全速力で走れた。
しかし、5分ほど走って力尽きた。
ラビエルはがっくりと膝を突き、荒い息を吐いていた。
「ぜ~~……ぜ~……ここまで……来れば……だ……大丈夫か……」
「ゴブリンはにおいで あいての いばしょわかる」
「くそっ。それじゃ追い付かれてしまう……」
ラビエルは焦った。どうみてもゴブリン共の方が体力がありそうで、すぐに見付かってしまうだろう。何かないかと辺りを見渡してみれば、森の中に小川が流れているのに気付いた。
「まてよ、水に入れば匂いを誤摩化せるぞ」
「しとさま あたまいい このかわのじょうりゅうに どうくつある」
「ヨシッ! そこに避難だ!」
ラビエルと弐号は、追跡をかわすため、川の中を歩いて行った。ワスプ山地はなだらかな丘陵地帯なので、川の流れも穏やかで、水深も浅くて楽に歩けた。500mぐらい歩いたところで、川岸に洞窟が、いくつも口を開けていた。
「同じような洞窟がたくさん並んでるが、これって何かの巣か?」
「サケラという あしのある さかなのまじゅうのすみか」
ラビエルはしばらく考えていた。そしてブレスレットで魔物のデータを確認した。
「ふむ。ゴブリンは魔獣の気配を探れないのだな。我々は魔獣のいない穴に隠れよう。ゴブリンが間違って魔獣の巣に入って、喰われるかもしれないぞ」
「??そんなにうまくいく?」
「奴らは集団で狩りをするのだろう? 獲物の匂いが川で途切れていれば、川に入って逃げたと考えるだろう。そしてここまで来て巣穴を見付けるのだ」
「まじゅうのすあなに はいるとおもえないけど……」
「それでこれだ!」
と言ってラビエルは、ブレスレットから白い毛の固まりを取り出した。
「これは、我が輩の抜け毛だ。巣穴にこれを放り込めば、奴らは匂いに釣られて巣穴に入るぞ」
くくくと笑うラビエル。
ナナミィがいれば、なんで抜け毛を入れてるんだと、ツッコミが入った事だろう。
「さすがしとさま ここのあなに まじゅういる」
弐号は右側の穴を指して言った。
ラビエルは、抜け毛を魔力を使って巣穴に放り込んだ。そして魔獣の居ない巣穴に隠れ、弐号が入口を塞いだ。
「真っ暗だな、明かりがいるか……」
ラビエルはランタンを取り出そうとした。
「ちょっとまって くらくてもみえるから だいじょうぶ」
「いや、我が輩が見えないのだが……」
などとやってる内に、巣穴の外からゴブリンの物らしい声が、かすかに漏れ聞こえて来た。どうやら、この近くを捜し回っているようだ。
(ふふふ……見当違いの場所を探すがよいわ)ラビエルはほくそ笑んだ。
「おや? ゴブリンがこのまえに あつまっている」
弐号が思わぬ事を言った。
「え……? どういう事だ?」
ドスンドスンと音がして、弐号が塞いだ土の壁に穴が開いた。真っ暗だった巣穴の中に光が差し込んで来て、ゴブリンの姿が見えた。
「なっ!? 見付かったのか?」
手に石や木の棒を持ったゴブリンが、凄い勢いで壁を崩していったのだ。薄い土の壁なので、あっという間に崩され、ゴブリンが侵入して来た。
巣穴は30mぐらいしかなく、見付かるのも時間の問題だった。
「なぜばれたのだ、偽装は完璧だったのに~」
次々に侵入して来るゴブリンに、ラビエルは泣きそうになっていた。
もうダメだと思った瞬間、天井が崩れて来た。
土砂や岩が大量に落ちて来て、群がっていたゴブリンを圧し潰した。
「え? えぇ?」
ラビエルは訳が分からず、呆然と見ていた。
天井には大きな穴が開き、そこからドラゴンの頭が出て来た。
「無事だったねラビエル様」
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「もうよろしいでしょう。このままじゃ詰みそうですし」
そう言ってペギエル様は、あたし達に向き直った。
空中神殿の中庭で、あたしとバハムート様とミミエルが、ペギエル様の映し出した、ラビエルの様子を見ていた。
真面目?に、修行してるかと思えば、魔獣や魔物に遭遇、あれよあれよと言う間にピンチになっていったよ。今ゴブリンに追い詰められてるし。
「ちょっ……これ、ヤバイんじゃないの?」焦るあたし。
「では、あなた達で助けてあげなさい」
あたしとバハムート様とミミエルは、現場に空間転移された。
ちょうどラビエル達のいる巣穴の真上に来ました。あたしは、ラビエルの居場所を探ってみた。
「いた! この下!」
あたしは、ラビエルがいる場所を教えた。
「よし。では巣穴の天井に穴を開けて、そこから救い出そう」
バハムート様は、パンチ一発で穴を開けた。凄いパワーだよ。
そして、穴に体を突っ込んで、すぐに出て来ました。手にはラビエルとコブラナイ弐号が掴まれてた。地面に下ろされたラビエルは、呆然としてた。
「あれ? 七美? なぜここに?」
あたしは、ぎゅっとラビエルを抱きしめた。
「よかった……無事だった……心配かけないでよ」
ラビエルは助かって気が抜けたのか、へたりこんでしまいました。
「ちょっと! まだ終わってないわよ!」
なんて騒ぐミミエル。
さっき開けた穴から、ゴブリンが出て来たよ~ 巣穴の前にいた奴らも、よじ登って来た。穴から出て来たゴブリンは、バハムート様がはたいて穴の中に落とし、川から斜面を上がって来た奴らは、あたしが風の魔法で突き落としてやった。
そんな事をやってる内に、バハムート様のパンチの振動せいか、他の巣穴にいた魚のような魔獣がどんどん出て来た。
獲物を追い詰め、狩っていたゴブリンは、逆に狩られる立場になっていた。たくさんの足が生えた大きな魚の魔獣に、ゴブリンが喰われてるよ。
阿鼻叫喚だった。R指定が必要な場面だよ。
奴らがこちらに気付く前に早く帰ろう。
ミミエルの力で、あたし達は空中神殿に戻って来ました。
ラビエルはすっかり、ぐったりしてます。一緒に連れて来られたコブラナイ弐号は、周りをキョロキョロ見てます。
「さて、修行はどうでした?」
と、ペギエル様。
「……うう、全然できなかったような……」
自信喪失なラビエル。
「まあ、そう思えるなら、少しは成長出来たのでしょう。それで、あなたのダメな所は、怠け癖がある事ですね。バハムートさんが強いからって、全部任せて自分はさぼってましたね」
あたしが参加する前は、バハムート様と組んでたの?
「今回は、自分で調べたり、作戦を立てたりしたでしょう。現場での判断も適切だったし、合格点を付けても良いでしょう」
ペギエル様は褒めて下さいました。よかったねラビエル。
「魔獣の巣穴に隠れた時、何故すぐ見付かったのか不思議だったでしょう? いくら穴を塞いでも、あなた達の足跡が残ってたからですよ。詰めが甘い」
「……あぁ! そうであったか」
「そもそもゴブリンがやって来たのは、あなたが食べたハンバーガーの匂いの所為ですよ。風魔法で匂いを拡散しなかったラビが悪い」
ペギエル様の言葉を聞いて、がっくりするラビエル。
……そういうとこだぞ。