第14話 メガスライム襲来
スライム達は、あたしのお尻をボンボンつついて来ます。
スライムが痴漢行為をするはずもなく、これは早く逃げろと言ってるんだ。
これは間違い無く、アレが来たのだ。気配が真下からしてる。
「みんな早くここから離れて!!」
あたしはラビエルと農家の人……、さっき名前を聞いていたので、もう名前で呼んだ方がいいね。ラビエルとフランクさんの背中を押して、その場から離れた。
「な……なんだねお嬢さん??」
「メガスライムが、もうすぐそこまで来てるのよ。ほら、あなた達も早く!」
あたしは、後ろから付いて来てる、スライム達にも声を掛けた。スライムも焦ってるのか、「ニゲローニゲロー」って気持ちが伝わって来る。フランクさんは、おかしな女の子に急かされて戸惑ってるけど、早く逃げないと死んじゃうよ。
なんてやってる内に、さっきまでいた辺りの地面が、ズゾゾゾと盛り上がって来た。
やばいやばい!
なんか出た!!
でかくて透明な饅頭が出て来たぁ!!!
しかも、単純な饅頭じゃなくて、体の下側にたくさんの突起物があり、前後に動いて土を掻いてる。あれが足の代わりなんだ。
と言う事は…… 大きさの割に、素早く動けるんだ。
畑を荒らすのかと思ったら、なぜかこっちに向かって来たよ。あたしが魔獣にもてるからか? そんな事より、小さなスライムが押しつぶされそうになってる!
あたしは引き返して、スライムを抱えつつ翼を出して、飛んで脱出しようとした。
でも、フランクさんに見られるかもって考えてしまい、一瞬ためらったのです。
ああ、それが命取りに。
あたしはスライムを抱えたまま、地面にキスした。
てか、押し倒された。
うぎぃ~~~と強引に体の向きを変えて、仰向けになったら、視界がスライムでいっぱいになってた。体が透明なので、メガスライム越しに空が見えてます。つまり、メガスライムがあたしの上に乗っかってるわけです。
ラビエルが上を飛び回って、なんかわめいてる。
「え? なに? なに言って…… ああ、ブレスレットか」
あたしは右腕を無理やり動かして、ブレスレットを顔の横に持って来た。腕を動かすのも一苦労だよ。なにせ巨大なスライム、2~3トンはあるでしょう。普通の人間なら、すでに圧死してるよ。
「早く逃げ出せ七美! 体を溶かされるぞ!」
あたしは、腕を思い切り突っ張って、メガスライムを持ち上げようとした。しかし、体の一部がへこんだだけだった。それに、ダラダラと液体が染み出て来て、腕や手がピリピリして来ました。
こ……これは、消化液だ。
「あぁ! お気に入りのワンピが溶けてるぅ!!」
なんてコト! ワンピースがボロボロと崩れていく。
ドラゴンの皮膚は頑丈で、変身によりさらに強化されてるので、溶けはしないと思うけど、このままじゃ窒息しちゃうよ。
あかん。腕がプルプルして来た。いくらドラゴンといえど、数トンもある物を持ち上げ続けるなんて不可能ですよ。腕が下がって来て、メガスライムの体に押し包まれてしまった。
これじゃ息が出来なくて死んじゃう、ラビエルが涙目で、メガスライムを叩いていた。そんな事をしても無駄なのに……
あれ? 苦しくない。息が出来てるよ? なぜ?
と思ったら、あたしの顔に、さっき助けたスライム達が張り付いてる。2匹のスライムがくっついて、体をへこまして隙間を作り、パイプのようになってます。そして、長細くなり、メガスライムの体の外まで伸びて、空気を送ってくれてます。シュノーケルを想像してもらえば分かり易いかも?
なんていい子達なの!
よし! メガスライムもスライムなら火に弱いはす。口が塞がっていても、両手の平から炎を出せば、下から焼き尽くせるはず。
あ……でも待って。それじゃ、あたしを助けてくれてるスライム達も、死んじゃうよ。どうしよう、どうする? ああそうだ、指の先からガスバーナーのように出せばいいかも?
あたしは指を1本立てて、先っぽから炎を出しました。魔力がうまくコントロールできないのか、弱い火しか出なかった。練習もしなけりゃこんなものか……
さっきからラビエルが、凄く泣いてるんだけど……
ブレスレットからラビエルの声が聞こえてきます。
「うわ~~ん! 七美を離せスライムめぇ!」
うん? 右手の前に光の玉があるけど、それってカメハメ波的な物なの? ちょっと待って、それ発射しようとしてない? 強力な魔力を感じるし、それ当たったら、みんな吹っ飛んじゃうよ!
あ。あれは……?
空を大きな影が横切った。
あのお姿は……
バハムート様だ~~~~~~!
え? なんでここにいるの?
ラビエルが呼んだ……訳でもなさそうだし……
バハムート様は、メガスライムの横に着陸しました。上からのぞき込み、あたしの姿を確認すると、メガスライムの体に手を差し込んで持ち上げたのです。
もう片方の手で、あたしをそっと掴んで、助け出してくれました。
あ~~助かった~~
あたしは、どさくさにまぎれに、バハムート様の首にハグしようとしたけど、ラビエルが飛び付いて来て出来なかった。
「うわ~~~ん、よかった~~~。死んじゃうかと思ったぁ~~~」
ラビエルがあたしの胸で、ぐずぐず泣いてます。しょうがないな~
あたしはラビエルを抱きしめて、頭をなでてあげた。
そう言えば、フランクさんは逃げたのか、姿はなかった。おかげで、ドラゴンに戻れます。もうワンピもパンツも、溶けて無くなっていたしね。
ドラゴンに戻ったら、スライム達が驚いていた。
「あの……、バハムート様は何でここに来たんですか?」
「ああ……それは……」
「私が頼んだんですよ」
ペギエル様があたしの横で言った。
「うわぁ、びっくり!」
驚くあたし。
ペギエル様がフフンと言う顔をした。わざとやってるのか?
「だから、バハムートさんに頼むと言ったのに」
そしてあたしの胸で泣いてるラビエルを、べりっとはがした。
「ちゃんと相性を考えなさい」
「う……うえ?」
ラビエルはようやく、ペギエル様に気が付いた。
「でも、メガスライムにもドラゴンブレスは効くでしょう?」
あたしはちょっと、ラビエルを援護した。
「事前にちゃんと調べてませんね。メガスライムは熱耐性を持っているので、ブレスでは倒せませんよ」
と、ペギエル様は事も無げに言った。
マジで? もしかして、あたしピンチだったの?
「ペギエル様。こいつはどうしましょう?」
と、バハムート様は尋ねた。
実は、メガスライムの上にバハムート様が乗っかって、押さえていたのだ。
「ナナミィさんはどうします?」
今度はペギエル様が、あたしに尋ねた。
え? あたしが決めるの?
あたしはメガスライムに触れてみた。そこから伝わって来たのは混乱だった。前後不覚と言うか、我を忘れるとかそんな状態だ。
「この子は、自分が何をやってるのか、分からないようです」
「ふむ、成る程……」
と言うと、ペギエル様はメガスライムの上に、ひょいと乗った。そして、くちばしで勢いよくつっつくと、ボインと音がして、衝撃でメガスライムの体が波打った。
「あれ? 気が付いた……のかな? 気分がスッキリしてる」
メガスライムから、混乱が収まったのが伝わって来ました。
「なら、もうよろしいでしょう。バハムートさん、放してあげて下さい」
「はい」と言って、バハムート様は立ち上がって、メガスライムを解放した。
メガスライムは、すぐに地面にもぐって行った。
「では、私達は帰りましょうか。ナナミィさん、後始末よろしくね」
ペギエル様はそう言って、バハムート様の背中にふわりと乗った。バハムート様はそのままドラゴニアの方に飛んで行かれました。
すこし経って、逃げたフランクさんが、応援の村人を引き連れて来た。あたしは彼らに、メガスライムを追い払って、もう心配は無い事を説明した。そしてスライム達は、フランクさんに連れられて帰って行った。
そう言えば、あたしの話を不思議そうに聞いてたけど、説明するのが、さっきまでいた人間の女の子じゃなくて、ドラゴンの女の子だったのが、さぞ不思議だったのだろう。
「さて、あたし達も帰るかな」
そう言ってラビエルを見れば、すっかり落ち込んでいた。
「すまん七美。我が輩、全然役に立たなかった……」
ラビエルは自嘲ぎみに言った。
「え? 今さら?」と、驚いて見せた。
ラビエルは、ますますガックリと肩を落とした。もう、しょうがないな~、このウサギは。
「さあ、早く帰りましょう」
あたしはラビエルを抱き上げて言った。このままじゃ、ずっと泣いていそうだし。
「早くしないと、ミミィの所に連れてって、お風呂に入れるぞ」
「だ……大丈夫! すぐに戻るのである!」
シャキッとするラビエル。
あたし達は、空中神殿まで戻って行きました。