第13話 ミミエル登場
ラビエルがまだ使い物にならないので、ペギエル様にグレンジャー鉱山まで送って頂きました。戻ってからは、パパを始め皆から質問攻めにあったけど……
どう答えたらいいのか、困っていたところ、ペギエル様が、女神ディアナ様の御依頼で、魔獣討伐の手伝いをしている事を説明して下さいました。それと、あたしが人間に変身出来る事は言わないでくれました。これを知られると、ちょっとややこしくなりそうなので。
魔獣討伐なんて、危険な事を娘にやらせるなどけしからん なんて反対されるかと思ったけど、女神様のお手伝いならと、あっさり承認されたよ。これが前世の両親ならば、日本国政府の依頼であっても、反対された事でしょう。
それほどまでに女神様の威光が凄いのか、ドラゴンが楽天的なのか……
この時知ったのですが、やはり犠牲者が出たそうです。あたしに鉱物の事を色々教えてくれたお兄さんで、とても悲しいです。
さて、ラビエルといえば、ミミィにハグされて、頬ずりされまくっていた。まだ力が出ないのか、無抵抗で抱きしめられた姿は、まるで縫いぐるみのようだ。
ペギエル様はそれを見て、溜め息をついて戻って行かれた。
……あれ? このウサギどうするの? 連れてかないの?
「ミミィは、ウサギさんといっしょに、お風呂に入る!」
「ダメよ、ウサギさんはお家に帰してあげなきゃ」
「え~~~?」
不服そうに頬を膨らますミミィ。
あたしが困っていると、ペギエル様がぱっと現れた。
「そうそう、ラビの事、忘れていました」
と言って、ラビエルをガシッと抱えて、再び消えた。
その後、涙目のミミィをなぐさめるのが大変だった……
・・・
今日もディアナ様の空中神殿で、魔法の特訓です。
物理法則に干渉する系の魔法で、この前使ったのが『水』の魔法です。世界の法則は、『地』『水』『火』『風』『空』の五つ。これを五大と言います。ドラゴンは生来『火』と『空』の魔力が使えますが、魔力の利用であって、魔法では無いのです。
『火』は炎を吐き、『空』は空を飛ぶ事ですが、指の先から火を出そうと思えば、真なる言葉、真言を唱えなければなりません。
『地』は、プリティブ
『水』は、ヴァルナ
『火』は、アグニ
『風』は、ヴァーユ
『空』は、アカーシャ です。
なので、魔力がない者が、真言を唱えただけじゃ何も起きません。これを読んでいるあなたも、アグニと唱えても火は出ませんよ。
でも、落胆する事はありません。あたしも出せないから。
魔力があっても、コントロールする事が出来なきゃ、魔法は使えません。
と言う訳で、毎日魔力コントロールの訓練なのです。
「む~~~~ん……も……もう……ちょっと……」
あたしは、手の平を合わせて、体の中の魔力を移動させていた。
人間の姿で。
「何でそんなにクネクネしてるのだ? もっとこう、しゅぴー、だろう」
ラビエルが目の前で、手をバタバタと振っていた。
確かに、魔力を体の中心に集めようと、お腹を左右に動かしてるけど、説明が擬音ってどうよ? どうなのよ? 分かんないよ。
「相変わらず先輩は、説明がヘタですね……」
と言って、大きくハァ~~と溜め息をつく女の子。彼女も女神様の使徒の一人、ミミエルです。見た目は耳の大きいキツネのようです。
しかも、とても可愛い。
何でもいちばん若い使徒で、ラビエルの後輩になるそうな。
ラビエルの後輩って事で、苦労の程がしのばれます。
「そう言えば、ナナミィはドラゴン用の服を着てるけど、人間用の物は準備してないのですか先輩?」ミミエルがラビエルに尋ねた。ドラゴン用の服とは、翼を出すために、背中が開いてる服の事である。
「……ああ、それはちゃんと手配してある」
「先輩に女の子の好みとか、分かるんですか? 私が準備しましょうか?」
「だ……大丈夫である! 我が輩にまかせておけ!」
と言って、ミミエルにムキーーっとなっていた。子供かあんたは。
「何やっているのあなた達? 遊んでる場合じゃありませんよ」
ぺったぺったとやってきたペギエル様が、四角い透明な板を取り出した。前世の地球ではお馴染みの、タブレットみたいな物だ。
「討伐依頼が来てますけど、今回はバハムートさんにお願い……」
「いや、我が輩と七美で行ってくるのである!」
ラビエルが食い気味に言った。
「……そうですか? では魔獣の場所のデータを送りますよ」
と言って、さっきの透明な板を振った。するとラビエルのブレスレットに小さな光が点滅し、ピロリンと音がした。
え? 今のでデータが転送されたの? なにそれ便利。
「場所は、ドラゴニアから南にある、農業都市スワテリアね」
ペギエル様はそれだけ言うと、板をしまって、ぺったぺったと去って行った。
あたしとラビエルは、スワテリア郊外の空中に出た。
今度は、落下する事無く、空中に停止していたのは、この前の脅しが効いたからかも。でも、思わず落ちると思って、反射的に翼を広げたら、ラビエルに当たってしまいました。人間の姿の時の翼は、ドラゴンの時より少し大きいみたいなのです。勢い良く開いたので、ラビエルが数メートル飛んで行ったよ。
「ひどいっ」
「ゴメンねぇ。でも、この前あんたが、あたしを落としたからでしょう?」
「うう……」
我ながら、ちょっとひどいと思うけど、まあ、しょうがないよね?
下を眺めてみれば、びっしりと規則正しく並んだ耕作地が、ずっと先まで続いてます。のどかな田園風景を想像してたけど、近代的なんでビックリだ。所々に家が建っていて、どこかで見たような景色だと思えば、陸の松島とか言われる所に似ていた。
「それで、今回の魔獣って何?」
「まてまて、いま調べてみる。ほう……メガスライムだそうだ」
ラビエルが、透明タブレットを確認しながら言った。
「スライム! やっぱり異世界にはスライムよねぇ……」
などと、ドラゴンのあたしが言いますよ。
「依頼書によると、畑を荒らしていて、相当被害が出ているらしいぞ」
上空から見渡すと、ブルドーザーでも通ったかのような跡が、あちこちにあった。あれはスライムが這いずった跡だろうか?
あたしとラビエルは、荒らされた畑のそばに降り立った。そして、背中の翼をしまって普通の人間の女の子のフリをします。ただ、ワンピースの背中が大きく開いてるのが、ちょっと変ではあるけど。
あ、今回はちゃんと、パンツは履いてますよ。ただ、ブラをすると翼が出せないので、今日はノーブラです。
下に降りて改めて見れば、スライムの通った跡は、幅が4~5mはあった。どんだけでかいんだ、メガスライム。
近くいた農民に聞いたところ、メガスライムは突然地中から現れ、畑を荒らした後、再び地中にもぐって行ったそうだ。神出鬼没とはやっかいな…
畑には、何種類の作物が育てられていた。豆やナスやキュウリ、トマトみたいな物もあった。それに見た事も無い野菜もあった。
歩きながら畑を見てたら、何か透明なモノが動いてた……
よく見たらこれ、小さなスライムだ!
「うわっ! なにこれ? たくさんいるぅ」ビックリするあたし。
「それは、雑草を食べてるスライムだな」と、冷静なラビエル。
聞けば、スライムは見た目以上に賢くて、仕込めば雑草だけを食べるように出来るそうだ。いわゆる合鴨農法みたいな?
「な……なるほど、家畜というわけね」
そして人懐こいのか、足元に集まって来たよ。撫でるとプルプルして気持ちいい。
片っ端から撫でてやったら、喜んでた。可愛い。
目的の魔獣が現れるまで、ここで待機となりました。
ラビエルがブレスレットから出した、お茶やお菓子で、おやつタイムです。お茶をしつつ道ばたに座ってると、やけに懐いたスライム達が、あたしのひざの上に乗って来ました。なんて言うか、足の無いクラゲに、たかられてるようですよ。
「七美は魔獣に好かれる体質なのか?」
と、ラビエルがクッキーを頬張りながら言った。それって、どういう体質だ?
1時間程して、農家の人がやってきて、あたし達に声を掛けた。
「すみません使徒様。スライム達を小屋に入れますんで……」
「あっと……、ごめんなさい。ほらあなた達、お家に帰る時間よ」
あたしは慌ててスライム達を下に下ろした。
「さて、どうする? まだここで待ってる?」
「う~~む。場所をかえるか……」と、考えるラビエル。
あたしは、お尻に付いた土を払って気が付いた、地面に直接パンツで座ってた事に。こういう時は、ラビエルがハンカチでも渡してくれるもんでしょう?
……まあ、ウサギにそんな事を期待してもしょうがないけどね。
「な……なんだお前達。何をそんなに騒ぐ?」
さっきの農家の人が、言う事を聞かないスライム達を見て戸惑っていた。
スライム達がピョンピョン飛び跳ねて、あたしのお尻をつついてるのだ。
「ちょ……ちょっと、なに?」
その瞬間、足元が揺れた。
地震だ! 地震が起こる前には、動物が騒ぐと言うけど、これがそうなの?
いや、でも、震源が動いてるような気が……
その時、背筋にゾワッと来る感覚が……!
あ。これ、魔獣が出現する時の感じだ。