表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/407

第12話 鉱山の怪物-3

 カトリとミミィは、目の前で起きた事を理解出来ないでいた。いきなり現れた使徒様が、ナナミィを連れて行ってしまったのだ。

「ねえ、ナナミィはどこ行ったの?」

 ミミィは、カトリの袖を引いて尋ねてみた。

「え~……ちょっと待って、私も何が何やら分からないのよ」


 第3階層まで逃げて来たボブが、ナナミィ達のいる試掘坑に来た。コブラナイ達によると、第3階層でいきなり、ファイアーワームの気配が消えたというのだ。この階層の地面も、ファイアーワームの足跡で荒らされていた。それが、ナナミィ達のいた試掘坑の前で、ぷっつりと途切れていた。それどころか、地面に長細い陥没が出来ていた。

 ボブは、試掘坑の前にいるカトリの所に駆けつけた。


「カトリさん、ファイアーワームはどうなりました?」

 ボブに気付いて振り向いたカトリは、何とも言えない表情をしていた。


「ファイアーワームは、ラビエル様が倒されたそうです」

「え? それはどういう……?」

「そうよね、私にもよく分からないの。取り敢えず主任に報告しましょう」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 気が付けば、とつぜん空中にいた。


 さっきまで地面の上に立ってたのに、急に足の下に何も無くなったんだよ。自分が空の上にいる事を理解するまでに、15mぐらい落下したよ!

 あたしは咄嗟に羽ばたいて、元の高さまで戻って来ました。

 これ、ドラゴンじゃなきゃ死んでたよ!

 心臓バクバクだ!


「ちゃんと先に言え~~~っ!!」

 ラビエルの顔を、グワシとつかんで、叫んだ。

「うひぇ~~ すまんすまん」と、ラビエル平謝りだ。

 ちょっとまて。あたしは今、そんなに恐い顔してたの?


 ここはフニクラ平原上空。少し離れたところにファイアーワームも浮かんでた。この前来た時よりも、街道から随分と離れた場所にいるようです。

 まあ、その方が都合がいいんだけど……


「さて、どのへんに降ろせばいいか……」

 なんて、のんきに眺めていたら、ファイアーワームが気が付いて、空中で暴れだした。いくら暴れても、長い図体がグネグネするだけだよ。

「こんなに暴れてるけど、大丈夫なの?」

「ああ、問題無い。神通力でちょいと、つまんでるだけだからな」

「ふ~ん、ならいいか。……あれ? 熱い?」


 なんだか熱くなって来た。ファイアーワームをよく見てみれば、体の周りが『かげろう』のように、揺らめいている。それどころか、白いモヤまで出て来た。

 さっきまで暴れてたのが、急に大人しくなったと思えば、高熱であたし達を焼き殺そうとしてるんだ。

 ドラゴン相手に、なんて無駄な事を。ドラゴンは300度ぐらいまでなら、耐えられるのです。熱いと感じるなら、300度近いんだろうか?

 そんなん余裕だね、って思ってラビエルを見たら、バリアを張って、なんか苦しそうにしてる?


「あっ! そうか、ラビエルはこの熱さには、耐えられないんだ!」

「な……なんの……こ……これひしき……た・た・たえれらえ……うげぇ」

 あかん。言ってる意味が分からんし、口から変な汁が出てる~!


「もうそいつ、早く下に降ろしなさい!」

 言うが早いか、ファイアーワームが落下して行った。

 あたしは、ラビエルを抱え、ファイアーワームを追って急降下した。


 ファイアーワームは、ドスンと鈍い音を立てて、草原に落ちた。

 死んだのかと思ったら、まだ動いていた。なんてしぶといヤツだ。

 発熱は収まらないのか、周りの草が燃えているよ。草原の近くには森があるし、このままじゃ山火事になってしまいます。早く消火しなくては……


 うん? 消火? そうか! この手だ! あたし頭いい~~


 あたしは、ファイアーワームから充分に離れた場所にある、大岩の上に降り立った。この辺りには岩が点在していて、ヤツが襲って来ても、岩を盾にする事が出来る。


 ラビエルを岩の上に寝かせて、人間の姿に変身した。


 これから使うのは水の魔法。

 あたしは両手を前に出し、合掌します。体内の魔力を集中、両手を通じて手の平に流すと、ぼうっと光りだして来た。そして、指先を合わせたまま、手の平を離すと、その間に光りの玉が現れたのです。

 でも、この光りの玉を、相手にぶつける訳じゃありません。この魔法は、物理法則に干渉する魔法なんです。


「ヴァルナ」


 あたしが唱えたのは、水を意味する、真なる言葉。

 それは、この空にある水分を、一気に大量の水に変える言葉です。


 何もない空間から、滝のように落ちる水。

 いったい何百個のバケツを引っくり返したのか。

 超高温のファイアーワームに接触した大量の水は、一瞬で蒸発・膨張。

 つまり、水蒸気爆発を起こしたのです!

 ドーム状の衝撃波が発生し、轟く爆音!!

 草原の火事も鎮火出来たし、大成功でしたね。



 ファイアーワームは、体の表面がボロボロになってるけど、まだ生きてる。

 本当にしぶとい。

 でも、今いっきに熱を奪ったので、もう間のなく終わる事でしょう。


 それより、心配なのはラビエルだ。

 口から舌をだらんと出したまま、気絶してます。変な汁だと思ったのは、お昼ご飯を嘔吐したものだったみたい。熱中症にでもなったのかしらね。熱中症なら水をかけて体温を下げればよかったはず。

 バケツ1杯分の水を作ってかけた。

 が、あまり良くなったようには見えなかった。


「ちょっと、大丈夫?」と言って、ラビエルの体を揺すってみた。女神様の使徒だから死んだりしないよね? 病院に連れて行った方がいいかな? でも、まだここを離れる訳にはいかないし…… どうしよう……

 ああ、そうだ。ペギエル様に連絡しよう。あの方ならば、なんとかしてくれそう。


 あたしはブレスレットに向い、ペギエル様に届くよう、祈るように呼び掛けた。

「あ……あの、ペギエル様。ナナミィです。ラビエルを助けてほしい……」

「ハイハイ、分かってますよ」

 うわぁっ! ペンギンがいきなり横にいたぁ!


 使徒様って皆テレポートが出来るの? 心臓に悪いよぉ……

 ペギエル様はブレスレットから小さな瓶を取り出した。それはもしかして、回復ポーションとか言うやつ? 細長くて先が尖ってるけど、折り取ってストローを刺して飲ませるのかな?


 で、そのポーションを、そのままラビエルの頭にブッ刺した。


「えぇ~~っ!? 飲ますんじゃなくて刺すの??」

 なんという暴挙! このペンギン恐いよぉ……

「これは使徒用の回復薬だから、ドラゴンの頭に刺したりしないので安心して」

 と言って、ニヤリと笑ったペギエル様が、少し恐かったのは内緒だ。


「さて、これで大丈夫ね。それであれ、どうします?」

 ペギエル様の視線の先にいたのは、瀕死のファイアーワームだ。

 よく見たら、さっきまで赤かった目が、今は青くなってる。


 その時、再び不思議な事が起こった。

 あたしの心の中に、ファイアーワームの気持ちが流れ込んで来たんです。



 穏やかに生活していたのに、理不尽に追い出され、攻撃され……

 彼が感じているのは、怒りや憎しみじゃなく、悲しさ、無念さだった。



 胸が痛んで、涙がこぼれてきました。

 さすがにもう、これ以上は……


「……助けたいですか?」と、ペギエル様は溜め息まじりに言いました。


「え? それは、どういう……」

「討伐と言っても、別に殺す必要はないのですよ。それに、おあつらえ向きに、近くに火山もありますし、そこに連れて行けばよろしいでしょう」

「かざん……? も……もしかして……、ヴェスヴィオ火山?」

「あら? 知ってたのね?」

 フニクラ平原と聞いて、フニクリ・フニクラを思い出した。火山に登るための登山鉄道の事で、その火山こそが、ヴェスヴィオ火山なのです。こんな一致ってある?

「いえ、前世の世界にも、同じ名前の火山があったので」


 なんかもう、色々怒ってたけど、どうでもよくなって来た。


「この子を助けますか?」

「……そうですね、助けてあげたいです」


 ヴェスヴィオ火山までは、ペギエル様がファイアーワームを移動させて下さいました。上空から大きな火口をのぞけば、真っ赤な溶岩が溜まってるのが見える……

 地獄の釜の中とはよく言ったもんだ。その釜の中に、黒い物が動いてるけど、あれってファイアーワームなの?


「では、この子をあそこに入れてあげましょう」

「もうすでに、別のファイアーワームが住んでるみたいですが、けんかになったりしませんか?」

 あんな所で暴れられたら、噴火しちゃうんじゃないの?

「大丈夫でしょう。ファイアーワームは、縄張りを持たないし、本来は大人しい性格で、争いを好みませんので」


 火口の中に降ろされたファイアーワームは、溶岩の中にもぐって行きました。熱エネルギーを補充すれば、一週間あまりで、元に戻るそうです。


 初討伐任務は、魔獣を退けたと言う事で、まあ成功なのかな?



 あたしがドラゴンの姿に戻った頃に、ラビエルが目を覚ました。

 頭にポーション刺したままだけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ