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第118話 ジョッカ様が来た!

「リヒテル様すみません、ナナミィさん達とはぐれてしまいました~」

 スピネルは通信機を使い、リヒテルに報告をしていた。

「どうしましたスピネル? はぐれる程複雑な坑道じゃありませんでしょう」

 リヒテルが(とが)めるように言った。

「そうなんですが、ちょっと目を離した隙に、未調査区域に入ってしまったようでして……」


「ああ……やっぱりなぁ。探検とか言ってたし、皆で勝手に探索でもしてるのだろう」

 ナナミィの性格をよく知ってるラビエルは、力無く言うのだった。

「ふむ、なるほど、未調査区域の方に居るみたいだね。……これは、坑道より離れた場所に居るようだね」

 ポニエルがブレスレットのサーチ機能で、ナナミィ達の居場所を探すと、空中に映し出した四角い画面に赤い点で示された。

「そんな所に空間なんて無いはずですが? まだまだ未知の部分がありそうですね」


 画面を横から見ていたリヒテルは、しみじみと言うのだった。この世界での遺跡の発掘には、常に未知の罠や未知のテクノロジーとの遭遇の連続だからである。

 ここも1100年前に作られた、魔導師ジャハ・オリスの研究所の中枢かもしれないので、どこかに隠し部屋があっても不思議じゃないのだ。


「しょうがないな~、我が輩が行ってこよう」

「ダメだよラビエル君、君は調査隊の護衛が仕事だよ。ナナミィ達の事は、スピネルさんに任せとけば大丈夫だよ。それに、お目付役も居るしね」

 その場を離れようとしたラビエルを、ポニエルが止めた。

 調査隊にはリヒテル一人ではなく、他に5人の学者や役人が居たのだ。役人と言っても、歴史遺産や文化を管理する文化庁から派遣されて来た人達である。


「う……そうでありますが……。お目付役とはムートの事でありますか?」

「いや、そうじゃないよ。まあ、本人からのたっての願いで、彼女達の面倒を見てもらうのだけどね」

 と言いつつ、少し困ったような表情のポニエルだった。


「どうやら使徒様の方で何とかしてもらえるみたいなので、スピネルはそのままこちらに合流してくれますか?」

「は……はい」

 通信を切ったスピネルは、探索に必要な装備を取りに、洞窟の外にある事務所に戻って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「この向こうに、キラキラしてる物がたくさん出て来る所があるで」


 タケゾーの説明によれば、ここより広い空間があり、そこには赤い結晶の鉱石が採れるそうです。

 赤いと言うと、ルビーかな? ガーネットかな? それとも未知の宝石なんだろうか。これはミミィやウサミィに、いいお土産が出来るな。ぜひとも行ってみなくては。


「じゃあそこに行こう」

「よしきた」

 と言う訳で、次の目的地が決定しました。


 ……でも、あたしは気付かなかったのです。恐怖が近付いている事に……


 ズルズルと嫌な気配がして来た。

 恐る恐る後ろを振り返ると……そこには……!



「は~い、こっちに注目~。この先は私が引率するわよ~」


 呑気な声が聞こえたけど、そこにいたのはでっかいヘビだった!

 3mはあるヘビが頭を持ち上げて、こちらを見ていたのだ!

 言葉をしゃべっていたって事は、このヘビ魔物なの?


 もうダメ、これ以上冷静ではいられない。

「きゃっ……」

「あ~~待って待って! カドゥエル様だから! 使徒様だから~~!」

 あたしが悲鳴を上げようとしたら、ムート君が慌てて口を塞いだ。

「ムグゥ~~……」


 ハッ! よく見たら、カドゥエルのジョッカ様だった。


「いやねぇ、初対面じゃあるまいし、悲鳴なんて失礼しちゃうわ~」

 と言って、拗ねてみせるでっかいヘビ。悪夢か?

「いや、あのその……なんでここに?」

「あなた達だけじゃ不安だと言うので、面倒を見てほしいってポニエルに頼まれたのよ~。まあ、私が優秀だからよね~」

 などと自慢げに話すジョッカ様。


(多分だけど、ナナミィちゃんと仲良くなりたくて、ポニエル様に無理を言って、ねじ込んだんじゃないかな?)

(そう言えばこの前も、任務に参加させろとゴネてたね)

(ナナミィちゃんは大丈夫なの?)

(使徒様なら、なんとか大丈夫……)

 セネカとウリルは討伐隊の事は知らないので、ひそひそ話になります。


「分かりました、お願いシマスね」

「まっかせて~~」

 首を振り回して喜ぶジョッカ様。ヘビって器用だな。


「すげ~な~ナナミィ、ジョッカ様とも知り合いなのか?」

「そうだね~すごいね~~」

「こんなトコに使徒様が来て下さるとは、ありがたやありがたや~」

 セネカとウリルとタケゾーがなんか言ってるよ。


「じゃあ、赤い石が出る所だっけ? そこに行きましょ~」

 そして、なし崩し的にジョッカ様が仕切る事になりました。

 彼女を先頭に、みんなでゾロゾロ付いて行くけど、行き先を分かっているのかな?

「え~~と……、こっちなのかしら?」

 だめじゃん。



 結局タケゾーが先頭に立って、案内してもらいました。

 この穴も人工的に掘られた物なのか、昔の道具らしき物が捨ててありました。と言っても魔道具とかじゃなくて、普通のスコップやツルハシみたいな物だった。

 そんな穴を進んで来ると、さっきより広い場所に出ました。

 魔力ランタンをかざすと、確かにキラキラ光る結晶が、そこかしこにあります。

 広場の左右にも坑道があり、ランタンの光が届かないぐらい深くまで延びていますが、こっちはそこらじゅう崩れていて危険です。


 あたしはブレスレットにしまってある、ハンマーとタガネを取り出して採掘の準備をします。

「これって採ってもいいんだよね?」

 ここに発掘の責任者はいないけど、あたしは取り敢えず聞いてみた。

「いい~んじゃないの?」

 ジョッカ様がお気楽に言われました。

 うん。使徒様がいいと言ったので、問題無しですよね。ではさっそく採集だ!


「これは、魔晶石(ましょうせき)みたいだね。オリス魔導研究所で使う、魔晶石を採掘してた鉱山なのかな? だとしたら大発見だ!」

「「おお~~!」」

 セネカの言葉に、あたしとウリルは大興奮だよ。

 大発見……なんてロマンのある言葉でしょう。


 さっそく掘り出しました。こういうのはグレンジャー鉱山で慣れてるので、お手の物ですよ。岩の隙間に放射状の赤い結晶が挟まっていて、周りの岩ごと取り出します。そしてそのままブレスレットにしまって行きます。

 こういう鉱石は、結晶が付いている母岩ごと採った方が、格好いいのですよ。


「ここは魔晶石鉱山の跡なのかしらね?」

「そうだな……、鉱山にしては魔晶石が少ないから、廃鉱山なのかな」

 魔晶石を掘り出しつつ、あたしとセネカは周りを調べていた。

 ウリルとジョッカ様は、坑道の床にいる小さな生き物を追い掛けて遊んでいた。


「魔晶石が少ないんは、魔晶石を食べる魔獣が住んでるからだね。たまにここに食べに来るで」

「「へぇ~~」」

 タケゾーの説明を聞いて、セネカはメモを取っていたよ。

「それって石を食べる魔獣なんだね。大きなものなの?」

 床にいた生き物を指で摘みながら、ウリルが呑気に聞いていた。


「そうでんな、2mくらいあるかな。ああ、あんたが持ってるんが、そいつらの子供だよ。ここに居るちゅう事は、親も近くにいるね」

「そうなんだ~」

「いや待って。近くに魔獣がいるって?」

 あたしは魔獣の気配を探ってみました。すると確かに、たくさんの気配がしてる。さっきまでは魔晶石の採掘に夢中で、気が付かなかったよ。

 ウリルが持ってる魔獣の子供をよく見たら、丸い石のような体をしていました。

 こういう姿の魔獣を見た事あります。


「それ、ロックデーモンの子供なの?」

「違いますよ、こいつは『ロックイーター』ですな。鉱物が好物の大人しい魔獣ですよ。ただし、子供を守る時は凶暴になりますがね」

「そうなんだ~」

 と言いつつ、ロックイーターの子供を手の上で転がすウリル。


 いやな予感しかしません。

 暗い坑道の奥から魔獣の気配が……急速に近付いてる!


 そして、直径2mはある丸い岩が転がって来ました!

 それもいくつも!


「お約束だぁ~~~!!」


 映画で見たやつだ。洞窟にありがちな、丸い岩が転がるやつだ~~!

 岩じゃなくて魔獣だけど。


「全員退避~~~~!!」


 あたし達は全速力で坑道を走って逃げました。

 でもまだ追い掛けて来ます。

 ウリルは子供を置いて来たはずなのに、なぜ追い掛ける?

 ジョッカ様を見たら、頭にロックイーターの子供を乗せてた。


「ジョッカ様、頭に乗ってる~~!」

「なんだか懐かれちゃったのよね~~」

「返してきなさ~~い!」


 でも間に合わない。

 もう真後ろまで来てるぅ~~!


「しょうがないな。ホイッ!」

 振り返ったジョッカ様がそう言うと、転がる魔獣は見えない壁にぶつかったかのようにいきなり止まった。

 いや、本当に壁にぶつかったんだ。

 ドスンドスンと衝撃が伝わって来ました。

「大丈夫よ、バリヤーを張ったからね」

 どうやらジョッカ様が、激突寸前でバリヤーを張ってくれました。

 まあ、追われる原因は、ジョッカ様なんだけどもね。



 ジョッカ様が、ロックイーターの子供を返したら、素直に戻って行ってくれました。よかったよかった。


「じゃあ、つぎ行ってみよ~~!」

 探検再開です。

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