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第114話 バハムート参戦と決着

 ムート君が人質に取られ、あたしは操られた村人に取り囲まれています。

 体格の大きなイワノフさんに、ガッチリ捕まえられて身動き出来なさそうなムート君ですが、案外に余裕な顔をしているよ。


 取り囲んでいる人達を見てみれば、レイラもナイフを持って威嚇して来る。

 ウェンディゴの奴、村に入ったわずかの時間に、みんなを洗脳したんだな。この村の全員が敵になったという訳ですね。


「さあ、君達もウェンディゴ様のしもべになるのだ」


 そうイワノフさんが言うと、彼の後ろからウェンディゴが姿を現した。どこから出て来たのかと思ったけど、霧でスクリーンを作り、その後ろに隠れて背景の曇り空に融け込んでいたんだ。こいつ、地味に有能だな。


「ねえ、ムート君。それでやられたりしない?」

「大丈夫だよナナミィちゃん。イワノフさん程度の力では、僕を押さえておけないよ。それに、普通の剣で僕の体を斬る事は不可能だしね」

 ああそうでした、バハムートの生まれ変わりのアリコーンであるムート君を傷付けられるのは、ワイバーンぐらいのものでしょう。


「俺をその程度とは、大きく出たな」

 イワノフさんは、その太い腕に力を入れて、ムート君の首を絞めた。

 でもムート君は涼しい顔。

 喉元の剣の刃を掴んで、握り潰してしまいました。

「なっ!?」

 驚くイワノフさんの腕を掴み、「ほいっ」と言って放り投げた。

 そして振り返って、ウェンディゴに向けてドラゴンブレスを発射!

 ブワァ~~っと吐き出された炎は、ウェンディゴを包み込んでいった。


「グワァ! きさま、ただの人間じゃないな~!」

 ウェンディゴがしゃべった~~!

 まあ、魔物なんだから、言葉を話せても不思議じゃありませんが……

 ただの人間じゃないってのは、剣の刃を握り潰せる少年なんて、普通じゃありませんからね。ドラゴンブレスの方は、魔法で出してるって勘違いしてそうだ。


「ムートさん、やっちゃえ~~!」

「よ~~し、リゲイル!」

 リリエルちゃんに乗せられたムート君は、着ていた防寒着を脱いでブレスレットにしまい、一気にバハムートに変身した。

 ウェンディゴは目の前の少年が、巨大なドラゴンに変わってビックリした。


 バハムートは一足飛びに詰め寄ると、右ストレートを放った!

 だがウェンディゴは、体を反らしてパンチをかわした。そして自分の長い腕を伸ばして、バハムートに掴み掛かった。


 バハムートはサイドステップでかわして、左フックを繰り出した。

 パンチはウェンディゴの横っつらにヒット!

 ウェンディゴはよろけつつも、後ろに下がって攻撃をしのいでいた。


 よく見るとバハムートは、ウェンディゴを人のいない方に誘導していました。奴が村人を盾にしないようにです。

 ウェンディゴはバハムートの攻撃を防ごうと、魔法で尖った氷を作り出し、自分の手前で高速で回転させ、氷のシールドにしていた。

 当然のようにバハムートは、ブレスで氷のシールドを吹き飛ばそうとします。


 ウェンディゴは、氷のシールドが役に立たないと見ると、クルリと向きを変えて逃げ出そうとした。

 しかし、その先には……


「どんぐり砲発射ですぅ」

 リリエルちゃんがウェンディゴの後ろに転移していました。

 命中したどんぐりが爆発し、ウェンディゴがよろめいた。


 バハムートがそんな隙を見逃すはずがありません。体を回転させつつ飛び上がって、尻尾をウェンディゴの後頭部に叩き付けました!

 さらに、体が前のめりになった奴のみぞおちに、パンチをズドンと決めた。


 ウェンディゴは、腹を押さえて撃沈。


 体の大きさはウェンディゴの方が大きいけれど、バハムートの方が戦闘力が高いのです。当然の結果ですよ。

 操られていた村人達は元に戻ったのか、訳が分からずキョトンとしてる。

 村中に充満していた、ウェンディゴの気配が消えて行きました。

 あれは、村人を操っていた魔力だったみたいです。



「待たせたな七美! 我が輩が来たからにはもう大丈夫なのだ!」

「私が、やっつけてやるわよ!」

 ようやくやって来たラビとミミ。

「おっそ~~い!」

 あたしは二人の頬を掴んで、グリグリしてやった。

「「あぁ~~痛い痛い~~!」」

 ラビとミミは涙目でジタバタしてたよ。

「これは、ペギエル様の説教確定だな」

「「ひぃ~~……」」

 二人はガクブルになってた。



 それから、ポチャリーヌと冬の精達も合流しました。


 ウェンディゴはロープで拘束して、ポチャリーヌの持っている、アンチ・マジックフィールド・ジェネレーターで魔法を封じられています。これは、狭い範囲だけに作用する改良版だそうです。大きさも半分位になっていて、持ち運びも楽です。


 とは言え、相手の魔法を封じている間は、こちらの魔法攻撃も無効化されていますがね。ただし、ドラゴンブレスは魔法では無いので、ちゃんと使えます。

 ウェンディゴが暴れても、あたしがブレスで燃やしてやるよ!

 ちなみにバハムートになっても寒さが苦手で、ムート君は元の人間の姿に戻っています。さっきまでは興奮していて、寒さを忘れていたんだって。


 では、これからウェンディゴに尋問です。

 答えによっては、討伐しなければいけませんからね。


「お前はどこから来た? ここに来た目的は何だ? キリキリ吐け!」

 ラビエルが、座らされたウェンディゴの鼻先に浮かんで尋問した。

「……フン」

 まあ、素直に言う訳がありませんよね。

「じゃあ説得するしかないな。七美!」

「ホイきた」

 と言ってあたしは、ブレスを勢い良く出してやった。以前に比べ魔力が上がったので、かなりの威力の炎が出せます。

 あたしのブレスの熱で、ウェンディゴがびびっていたよ。


「わ……分かった、炎はやめてくれ……」

「うむ、素直が一番だ。では話せ」

 あたしの説得が効いて、ウェンディゴは今までの事を話しました。

 それによると……


 ここより50kmほど離れた場所にいたウェンディゴは、なぞの魔物に襲われて住処を追われたそうです。かなり強い魔物で、しかも姿を隠していたので、正体が不明だそうだ。ウェンディゴより強いって事は、Sランクの魔物なのかな。


「そうして新たな住処を探していたら、獣人の女に出会ったのだ。いや、あれは魔物かもしれんがな。その女に、この村の人間共を操って支配すれば、いい縄張りになると教えられたのだ」

「その女は何者なのだ?」

「体の毛は黒く、キツネのような大きな耳と尻尾をしていた。魔力が我を上回っていて、魔物と言うよりは魔人という雰囲気だったな」


 どうやら、キツネの獣人の女が黒幕なんだな。

 近頃多いな、黒幕。


「そのキツネ女が共犯者なのだな。そ奴が居た場所を教えるのだ」

「……そ……それは……」

 なぜか言い淀むウェンディゴ。

 キツネ女の事を言うと、死ぬ呪いでも掛けられてるのか?


「知りたきゃ、もっかい捕まえてみるんだなぁ!」

 と言うが早いが、ウェンディゴはロープを切ってしまった。切れたと言うより、ボロボロに千切れた感じです。

 その欠片を持ってみたら、凍っていました。

「しまった! 奴め、自分の腕の温度を下げていたのか」

「えぇ? 魔法は封じられているのに?」

 近くにいたフローズンが驚いていました。


「グフフ。そのドラゴンのお嬢さんが、ブレスを使っていたからな。魔法はダメでも、魔力自体が使える事は馬鹿でも分かるぞ!」

 つまり、体内の魔力を使って体温を下げて、ロープを凍らせて切ったんだ。このジェネレーターの欠点は、魔法は封じられても、スキルは使える事です。

 ウェンディゴのスキルは、体の温度をコントロール出来る事なんだな。


 ウェンディゴは立ち上がり、逃げようと走り出した。

「そうはさせないわよ!」

 ミミエルがウェンディゴの前に立ち塞がった。いや、そんな小さな体では止められないだろうよ。

 ウェンディゴは、ミミエルをひょいっと掴み上げてしまった。


「おっと、それ以上動くとコイツを握り潰すぞ」

 それを聞いて、みんなは動けなくなった。こいつの腕力ならば、小さな使徒は潰されてしまうでしょう。

「よ~~しそれでいい。では我はここを去るとしよう。しかし安心するなよ、『姉御』に力を貸してもらい、この村の全員と使徒共を葬ってやろう!」

 そう言い放つと、ウェンディゴはカカカと笑った。


 なに『姉御』って? ポチャリーヌみたいな、ナイスバディのお姉さんなの?

 あたしがアホな事を考えてるうちに、ウェンディゴはダッシュで逃走した。

「ああ~~、ミミエルがあ~~」

 ラビエルが情け無い声で、右往左往してた。

「早く追わなきゃ!」

「僕がもう一度バハムートで……」


 その時、捕まっていたミミエルが片腕を出して、ひょいっと動かした。よく見ると、その指からは光る糸が出ていて、ウェンディゴの反対側の腕に付いていました。

 あれナニ? って思ったら、その腕が自分の頭をガッチリと掴んだ。


「な? なんだこれは? グワァ!」


 腕に力が入り、ウェンディゴの首がボキリと折れた。

 それでも腕は止まらず、頭を握り潰してしまったのです!

 ウェンディゴは倒れて、ミミエルは脱出してた。


「フン! 私が弱いと(あなど)ったわね」

 あの光の糸はミミエルの能力だったようです。いつもは人形を操っているけど、生物の体の一部も操れるとは知らなかった。

 それにしても、スプラッタな!


「何で頭を潰したのだ、これじゃ『姉御』とやらの情報が取り出せないぞ」

 ポチャリーヌが、ウェンディゴの死体を見て文句を言ってた。

「しょうがないじゃない、逃げられたら厄介な相手なのよ」

 ミミエルも文句を言ってた。確かに、あのままじゃミミエルが危なかったので、しょうがない事でしたね。

 ……あれ? そう言えば使徒は、死んでも使徒転生で復活出来るのだった。慌てる必要は無かったね。

 今回は、ミミエルのお手柄になりました。


 さてその後はというと、感謝した村人がお礼に、あたし達にご馳走を振る舞ってくれました。

 イワノフさんは、平身低頭あやまっていたよ。



 これにて討伐任務は完了です。

 冬の精と村人は和解し、洞窟の施設は修理するそうです。

 これから冬の精が雪を降らせて、この地域は銀世界になって行くのでしょう。


 あたし達が帰る前に、冬の精とレイラさんがお見送りに来てくれました。

「ありがとうございました。これでまたフローズン達とも仲良く暮らせます」

「また来てね~」

「今度はみんなで、雪玉をぶつけ合おうぜ~」


 ……むちゃ言うな。

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