第11話 鉱山の怪物-2
「おりゃぁ~~~っ!!」
間一髪、コブラナイ弐号とリーダーは、縦坑の中に引っ張り込まれた。
倒れたリーダーが起き上がって、坑道の方を見ると、ファイアーワームの黒い体が通り過ぎていった。熱風が入って来たので、慌てて扉を閉めた。
「大丈夫か?」
そこには、第6階層のアトレー達を探しに来たボブがいた。彼がコブラナイ弐号とリーダーを、縦坑に引っ張り込んだのだった。
「助かったよ、ボブ。アトレーはどうだった?」
「……ファイアーワームにやられた後だったよ……」
ボブは悲痛な表情で言った。
「くそっ……!」
「アトレー かわいそう……」
「悲しむのは後にしろ。早く上に上がるんだ」
ボブは二人の背中を叩いて、発破をかけた。他の作業員はすでに、地上に向かって梯子を上がって行っていた。ボブはリーダーを先に上げて、コブラナイ弐号を抱えて、最後に上がって行った。
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坑道の壁が崩れた所に、アメジストの結晶がたくさん転がっていた。
ミミィが大喜びで拾ってますよ。連れて来た甲斐があったね。
あたしが喜ぶミミィを見て、ほっこりしてると、コブラナイ達が、さっきからヒソヒソ話をしてた。
「なに?」
「ナナミィ したで アクシデントがあった」
「まじゅうが でた」
魔獣ですと~~?
地下に向かって意識を集中すると、いやな感じがする。これは魔獣の気配だ。
「もう ましたまできてる」
「フンッ! あたしがやっつけてやるよ!」
そう言って、口の先から小さく炎を出した。
「ムリ ほのおがきかないまじゅうだから」
なんですと~~~!?
「ここのいりぐちをふさいで たてこもる」
そう言って、コブラナイ達は、坑道の地面から土を盛り上げだした。土を自在に操れるのは、コブラナイの便利な能力です。
あたし達のやり取りを聞いてたミミィが、不安そうな顔をしてる。
「大丈夫だよ、心配しないでミミィ」
あたしはミミィの頭を撫でながら、優しく言った。
「ああ、ナナミィさん、無事でしたね。早く皆さんを呼んで来て、戻りますよ」
誰か来た。と思ったら、事務員のカトリさんだった。
あれ? なに? 剣なんか持ってるよ。
「魔獣が出たって本当だったの?」
「え? 知ってたの……、ああ、コブラナイが探知したのね」
「それで、ここの坑道をふさいで、中に避難するんだけど……」
あたしは、ふさぎかけた坑道を指して言った。
「成る程、ここならヤツも入って来れないわね」
「もうそこまできた」
珍しくコブラナイが、めっちゃ焦ってた。
「はやく こっちにきて」
しまった、のんびりしすぎたか?
坑道の先から、大勢の人が駆け足してるような音がしてる。
これって、足がたくさんある魔獣なの?
地下にいて、足がたくさんあり、さらに炎に強いと言えば、ファイアーワームぐらいしか思い付かない。なにそれ? ドラゴンピンチじゃん。
坑道がふさがるまで、なんとかしなくちゃ。
「カトリさん、先に入っていて」
と言って、彼女を押し込んだ。
「ちょっ……あなたも一緒に来なさい!」
土の壁はどんどん高くなり、もう人が通れないくらいになった。
完全にふさがる前に、中の声がかすかに聞こえた。
「もう一度開けなさい…… 」
「ナナミィ~ ナナミィ~~ うわ~~ん… 」
ミミィが泣いてた。
あの子を泣かすなんて許せん!
絶対倒してやる!
「リゲイル!」
ナナミィ変身だ!
一瞬で人間の姿になりました。
人目が無いのと時間も無いので、下着は無しで行きます。
あたしは魔力を、体の中心に集めた。炎が効かないなら、魔力を直接ぶつければいいのだ。魔力弾の使い方は、ちゃんと教わってきたのよ。
至近距離から喰らえば、ファイアーワームといえど、大ダメージだろう。
ダメでも、相手がひるんだ隙に、逃げる事も出来る。
ヨシッ! 完璧な作戦だ!
目の前の坑道はカーブをしていて、先が見通せないです。
あたしは、恐怖心を押し殺して、前を睨んでた。
そして、それはあらわれた。
ラビエルからもらった魔獣図鑑に載ってたけど、実際に見ると、恐ろしい姿をしてた。そして大きかった。
魔獣と目が合った時、不思議な事が起こりました。
頭の中に、声…というか、思いのようなものが入って来たのです。
『…ハラガヘッタ、コノママデハ シンデシマウ、オオ!……エネルギーノツヨイ エモノダ、コレデ シナズニスム……』
はっきりとした言葉じゃないので、意訳してみると、こんな感じですね。
うん、知った事じゃないね。
ミミィを泣かせるヤツは許さないからね。
魔力弾、発射だ。
のどの中を魔力の固まりが移動して行き、口から勢いよく飛び出しました。
それがファイアーワームの顔面を直撃。
ズドーーンと、轟音がして、ファイアーワームは地面に叩き伏せられた。
これはやばい。坑道が揺れるぐらいの衝撃があったよ。
この攻撃じゃ、落盤が起きかねない。ミミィ達が埋まってしまうよ。
それにファイアーワームは頑丈で、あまりダメージが無いみたい。
どうする、あたし。
例の図鑑の内容を思い出そう。
こいつは、溶岩からの熱エネルギーで生きてるはず。今はエネルギーが、補給出来てないんだ。そう言えば、温度が低い場所じゃ、動けなくなるって書いてあった。
なら、外に出してしまえばいいんだ。
あ。でもまって、外にはパパや鉱山の社員さんがいたんだ。このまま外に出したら、皆を襲っちゃうよ!
あれ? 手詰まりなの?
いや、もっと遠くならどう?
ヒメランサとの中間にある、平原ならいいかも?
でも……どうやって運ぼう……
テレポート……は、できないし
ぶら下げて飛んで……もムリか……
あ! これって、討伐隊案件じゃないの?
さっそくラビエルに連絡だ。
あのブレスレットに魔力を流して、ラビエルのドヤ顔を思い浮かべた。
もしもし、魔獣が暴れてるよ。どうにかして。
ウサギがポンッ
「呼ばれて飛び出てジャジャジャ…… うわぁ!」
そうだね、いきなり目の前にファイアーワームがいたら、そうなるよね。
っていうか、なんだそのネタ。
「……という訳で、ファイアーワームを遠くに運んでほしいの」
「う……うむ、分かった。それにしても、よくコイツを気絶をさせたな……」
「え? これ気絶してるの?」
虫は分かり辛い。いや、コイツが昆虫なのかも、分からないけど……
「って事は、ファイアーワーム戦闘不能で、あたしの勝ちなの?」
「何を言う。目を覚ませば、また襲って来るぞ」と、ラビエルがあきれ顔。
ごもっとも。
「で、どこに持って行く?」
「ヒメランサの方にあった、平原あたりかな?」
「ああ。フニクラ平原か。あそこなら周りに誰もいないな」
……あれ? 何かどこかで聞いたような名前だ……
さっき塞いだ土の壁が崩れて来ました。中から慌てて崩してるみたいだ。カトリさん達が出て来る前に、ドラゴンに戻らねば。早く早く。
「リゲイル」
戻るあたし。間に合った。
「ナナミィさん、無事ですか~!」
「ナナミィ~~~っ!!」
カトリさんとミミィが飛び出して来て、あたしに抱きついた。
「さっき凄い振動があったけど、ファイアーワームはどうなったの?」
「あ~……それは……ほら、この女神の使徒様が倒して下さったのよ!」
「え? あ! ラビエル様!」
びっくりするカトリさん。
「は? 我が輩が?」って、あんたも驚いてどうするの。あたしが倒したなんて、言える訳ないでしょうに。
「そ……そうなのだ。我が輩がやっつけたので安心せい!」
さすがは使徒様、理解が早くて助かる。そして速やかに移動だ。
「後始末をしなくてはならないので、魔獣は持ってくぞ。それと、この娘にも用があるので、連れて行くぞ」
カトリさんとミミィの目の前で、あたしとラビエルとファイアーワームがぱっと消えた。……ように見えた事でしょう。
あたしがいなくなった後で、ミミィが泣いてなきゃいいけど……