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第101話 狙われた魔王

 ラスランド伯爵と部下達一行と、トクダ王とポチャリーヌは伯爵の屋敷に転移して来た。転移陣から出たラスランド伯爵は、トクダ王に対して、慇懃無礼(いんぎんぶれい)に頭を下げた。


「我が領地にようこそ。ここが新たな王都になる街ですぞ」


 そう言うと、部下にあごで合図をした。

 部下達はトクダ王の後ろから剣を突きつけて、国王を歩かせて行った。ポチャリーヌも黙ってその後に付いて行った。


(国王は大丈夫なのでしょうか?)

 ポチャリーヌの頭の上で、フワエルが声をひそめて聞いた。

(国王に国民の前で、国王交替の発布(はっぷ)をさせたいでしょうから、それまでは殺されたりしないはずですわ。でも、その後は……)


 ポチャリーヌはそれ以上言わなかったが、ラスランド伯爵が国王となれば、トクダ王の一族郎党は、皆殺しにされる可能性が高いのだ。

 こんな所まで付いて来たのも、前世で女王だったポチャリーヌには、他人事とは思えなかったからだ。

 反乱を起こされたり、クーデターを起こされた事が、彼女にもあったのだ。


(フフフ、伯爵の奴にどうやって地獄を見せてやろうか……)

 酷い事を考えているようだ。



 トクダ王は屋敷の一室に監禁されてしまったが、ポチャリーヌはラスランド伯爵に連れられて、訓練場に入って行った。

 ここは警備兵や部下達の為の訓練場で、攻撃魔法にも耐えられる程の強度を持っているのである。そこの真ん中に立たされたポチャリーヌの四方に、アンチ・マジックフィールド・ジェネレーターが作動状態で置かれた。むろん彼女の魔法を警戒してである。


「物々しいですわね」

「なに、万が一の用心の為だよ。それよりもだ、君はいったい何者なんだね?」

「え? さっき説明した通りですわ。アリエンティ家三女の……」

「そっちじゃない。邪神の名前を知っていたし、ただの貴族令嬢ではないのだろう?」

 ラスランド伯爵がそう問いただすと、伯爵の部下達は、ポチャリーヌに剣や槍を向けて突き出して威嚇した。


「……ああ、そう言えば私達の事は、伯爵レベルまでは通達が行っていないのですね? それじゃあ知らなくても、しょうがありませんわね」

 ポチャリーヌはため息をついて、哀れみを込めた目でみつめた。


「なっ!」

「いい気になるなよ!」

「何様のつもりだ!」

 ポチャリーヌの物言いが気に触ったのか、伯爵の部下達が色めき立った。

「そう、私はただの貴族令嬢にあらず。女神様の討伐隊の一人なのです!」

「な、なんだってぇ~~!」

 ビックリする一同。


「しかしてその実体は……!」

 そう言うとポチャリーヌは、リュックをおろし、着ているドレスを魔法でブレスレットの中に移動させて全裸になった。

「リゲイル!」

 そして、かつての魔王の姿に変身するのだ。

 大きくなった体の為に、ブレスレットから大人用の服を呼び出して身にまとった。それはハンターが着るような、動き易い服装だった。この間わずか2秒、練習の成果である。


「魔王ポチャリーヌ・ガブリエラ3世じゃ!」

 ババ~ンと見栄を切るポチャリーヌ。


「へ……変身だと? それに『魔王』とは何なのだ?」

 少女から大人の女性に変身したポチャリーヌを見て、ラスランド伯爵達は言葉を失ってしまった。

「フフン、みなビックリしておるな。ナナミィの『魔法少女に変身だ!』っていうのは、まさにこんな感じなのだろうて。くせになりそうだな」


「まて、なぜお前は魔法が使えるのだ?」

(わらわ)があんな物を放っておくはずもなかろう? コッソリと壊してやったわ。ジェネレーターなど、作動してなければ魔法掛け放題だぞ」

 それを聞いた伯爵の部下がジェネレーターを確認すると、いつの間にか内部がボロボロになっていたのだ。

「何だこれは?」

「ま、しょせんは機械だな。扱う者に知識が無くては、ただのガラクタにすぎん。それには、対魔法防御すら装備されておらんからな」

 慌てる伯爵の部下を見て、不敵に笑うポチャリーヌだった。


「ホレ」

 彼女は、頭からはずした丸い飾りをポイッと投げた。それは落ちる寸前に、元の羊の姿に戻った。

「やっと戻れたのですよ~」

「私もババ~ンと、正体をあらわすのですぅ」

 それを見たリリエルも、リュックから出て来て、フンスっと胸を張った。

「さあ! 私を見てビックリしやがれですぅ!」

「いや、お主は可愛くて、ほっこり癒されてしてしまうだろ?」

「じゃあ、癒されやがれですぅ!」


「あなた達、早く国王を助けましょうよ……」

 フワエルは、自分が何とかしなければと、焦っていた。

(わらわ)の真の力を感じて、恐怖するがよいぞ~~!」

 と言ってポチャリーヌは、魔力を一気に上げた。Sランクレベルの魔力は、普通の人間にも影響を与えるのだ。ラスランド伯爵達も、ポチャリーヌの大きな魔力のおかげで動けなくなっていた。


 しかしこの行動が、のちに大変な事になろうとは、今は誰も予想だにしていなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 みんなでショゴスをボコれば勝てると思った途端、奴は飛び道具を使って来ました。自分の体液を弾丸のように飛ばして来たのです。

 ポチャリーヌがいないので、バリヤーが使えず、バハムートのブレスだけが頼りです。ブレスの熱で、飛んで来た液体が蒸発させるのです。


「大した事ないな。このまま魔力弾を叩き付けてやっつけるのだ。さあ、七美よ、我が輩の体を抱きしめるのだ!」

「言い方がやらしい!」

 あたしは、ラビエルの頭を引っ(ぱた)いた。

「先輩、下心丸出し」

 ミミエルは、ジト目でにらんでいた。

「女性陣は厳しいなぁ……」

 バハムートはしみじみ言うのだった。


「まあ、冗談はさておき、ショゴスはさらに魔力が減っているわよ。あの液体攻撃は魔力をたくさん使うようで、今の魔力値は19000になってる」

「おお! ならば討伐完遂まで、あと少しであるな!」


 ラビエルは勝利を確信してるけど、あたしとしては心配です。こうやって喜んでいて、いきなり逆転! なんてのは、ありがちな話ですもんね。

「いやいや、こんな時ほど慎重に行かなきゃだよ。勝って兜の緒を締めよとも言うじゃない? まだ勝ってないけど」

 うん、良い事言ったなあたし。

「ですよねぇ。奴は減った魔力を補おうと、我々を捕まえるかもしれません。ここは慎重に高度を取って……」

 バハムートも慎重さを説いてるけど、ラビエルったら……

「そんな事を言ってたら勝機を逃すのだ。突撃だぁ~~!」

 と言って突っ込んで行った。

「このバカ~~~!」

 ミミエルも後を追って行ってしまった。

 どうするよコレ?


 あたしとバハムートも、仕方なく後を追いましたともさ。ラビとミミがやられる未来しか見えないし。

「ムート君、ショゴスに捕まる前に、あの二人を捕まえちゃって」

「そ……そうだね」


 でも、幸運な事に、二人が捕まるなんて事にはならなかった。

 ショゴスが逃げて行ったからです。


 いえ、逃げると言うより、慌てて引き返して行きました。

 どうして?


「あれ? ずっと先の方でポチャリーヌの魔力を感じるよ」

「この先と言えば、ラスランド伯爵の領地だよね?」

「ポチャリーヌって、今王都にいるんじゃないの?」

「……もしかしてショゴスは、ポチャリーヌの魔力に惹かれて行ったのでは……」

 あたしはハッとしてバハムートを見た。


「「大変だ~~~~!」」


 ポチャリーヌがショゴスに狙われてる!

 あたしとバハムートは大慌てで、ラスランド伯爵の領地に向けて飛んで行った。ショゴスより先にたどり着かねば!

「ナナミィちゃんは僕に掴まって! その方が速いよ!」

「うん!」


「あ~~、まてまて、我が輩が転移で運んだ方が早いぞ」

 ですよねぇ……


 あたし達4人は、ラスランド伯爵領に転移して行きました。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「クソッ。オレはAランクハンターだぞ、こんな事でビビッてたまるかよ~」

 ハンターのドワイエは、無理矢理足を動かして前に出た。そして腰の剣を抜き放ち、切っ先をポチャリーヌに向けた。

 彼以外のハンターや魔導士も、攻撃態勢を取ってポチャリーヌに相対した。

 家令のキザルはラスランド伯爵を庇いながら、訓練場の出口の方に連れて行った。


「ほう? この(わらわ)に挑もうとは、なかなか度胸があるの~、お主ら」

 ポチャリーヌはニヤリと笑い、ゆっくりと周りを見回した。


「ポチャリーヌったら、魔力の質がナナミィさんとは違って、凄い圧なのですぅ」

 リリエルが真剣な顔で呟いた。

「それより、誰もワタシ達を注目してませんのですよ……」

「それはちょっと困りますぅ。私達がいる意味が無いのですぅ」

 使徒が二人も居て、事態の収拾が着けられない事に焦るフワエルだった。


「来るが良い。(わらわ)はナナミィやムートと違って、平気で人を殺せるからな。心して掛かって来るのだぞ」

 などと格好を付けているポチャリーヌのブレスレットに、着信があった。

「なんだ? 今取り込み中なのだが」

『ちょっと、大変なのよ! ショゴスがそっちに向かって飛んでいっちゃたのよ!』

 ブレスレットからは、ナナミィの慌てた声が聞こえた。

『ポチャリーヌの大きな魔力に惹かれたみたいなの~~』

「なんと!」

 ポチャリーヌは通信を切ってから、ハンター達に話し掛けた。

「聞いたか? 大変な事になったぞ。ショゴスの奴がこちらに向かっておるそうだ。早く街の住人を避難させないと、みんな死んでしまうぞ」


「それは好都合だなぁ。イイダ、カンザキ、お前ら魔導士で邪神を操って、この獣人の女と使徒達を殺すのだぁ!」

 出口付近に居たラスランド伯爵が叫んだ。伯爵は部下の魔導士二人に、ショゴスをコントロールさせるつもりなのだ。


 しかし、ラスランド伯爵は、勘違いをしている事には気付いていなかった。いや、ここに居る全員が知らなかったのだ。ショゴスを操れるのが、イチモクレンだけである事に。

 そのイチモクレンは、すでに逃げてしまっていたので、事実上操れる者が居ない状況なのであった。

 今やショゴスは、誰に操られるでもなく、自分の意志でポチャリーヌを目指しているのだ。


「ワ……ワタシ達を殺すなんて言ってるのですよ」

「え~~? そんな事は不可能なのですぅ」

 フワエルは慌て、リリエルは呑気に答えていた。

 魔導士のイイダとカンザキは、ショゴスを支配するべく、服従の魔法の準備を始めていた。


「以前より魔力値が下がっているとは言え、さすがに邪神のパワーは凄まじいな。これほどだと、普通の人間にも感じられるだろうて」


 ポチャリーヌの言葉通り、徐々に強くなって行くどす黒い魔力に、ラスランド伯爵と彼の部下達も恐怖で体を硬直させるのである。

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