第1話 ドラゴン転生する
あたし、ナナミィ・アドレア、14歳。
ドラゴン族の女の子です。
あたしが住んでるトリエステは、女神ディアナ様の統治する世界で、いくつかの国に分かれており、「人間」「獣人」「ドラゴン」の三種族が一緒に暮らしてます。
そこは優しい女神様のおかげで、約800年にわたり、戦争も内乱も無い、平和な時代が続いてます。ゆえに軍隊は存在せず、それぞれの国には、警備隊や近衛隊といった、警察のようなものしかありません。
国同士の揉め事なんかは、女神様が仲裁してくださいますし、小さな事件なんかは女神の使徒様が解決してくれます。今となっては、戦争と言う概念すら忘れ去られたほどです。教科書のどこを見ても、戦争だの世界大戦なんて物騒な言葉はありません。
あたしはまだ女神様に会った事はないけど、ツノと翼のある白馬の姿をしておられるそうです。神様が人の姿じゃないのは変な感じですね。
ドラゴンといえば、大きな怪獣みたいなのを想像するけど、トリエステのドラゴン族はもっと小さく、大人のドラゴンでも体長4mほどです。子供のドラゴンはさらに小さく、あたしも体長は2mぐらいで、身長は1.5mです。
顔も丸っこい感じで、特に女性は鼻先も短いので、爬虫類的な印象は薄く、とても可愛らしいですよ。
ドラゴンは魔物の仲間ですが、高い知性を持つ生物に進化する際に、体が小さくなっていったようです。
小さいといっても、ちゃんと空も飛べるし、炎も吐けますよ。まあ……ゴジラみたいに強力なパワーはありませんが……
小さいおかげで、ドラゴンにも市民権が認められていて、街で暮らせたり、学校に通ったり出来ます。
そういうわけで、3つの種族が仲良く暮らす世界ですが、やはり種族間の軋轢と言うか、差別とかの問題はあるんですよね。特にドラゴン族は人口が少なく、弱い立場なのです。ドラゴンが立入り禁止の場所もあるなんて、ちょっと納得できないですよね。
とは言え、さすがに火気厳禁の場所じゃあしょうがないけど……ね。
そんな世界に、あたしは住んでいます。
あたしが12歳の時に、ひとつの転機がありました。
お友達と一緒にピクニックに行った時、森の中で魔獣に襲われたのです。その魔獣は大きな熊のような姿で、名前を『ズウー』と言いました。
ズウーは湖のほとりでお弁当を食べていたあたし達を襲って来ました。あたしや他のドラゴン族の子は、ドラゴンブレスで反撃しましたが、まだ子供の力じゃ倒せるはずもありません。
そんな時、一人のハンターが助けてくれました。
近くにいたハンターが、魔獣に襲われているあたし達を見掛けて、駆け付けてくれたのです。
「君達大丈夫か? 俺が牽制してる間に早く逃げろ」
「は……はいっ」
ハンターはあたしの前に立ち塞がってくれました。
あたしの前には、頼もしい大きな背中がありました。
それを見た時、あたしは激しいデジャヴを感じたのです。
この光景を昔見た事があると……
そして、全てを思い出したのです。
自分が前世で人間の女の子であった事を。
前世での名前は「星野七美」17歳。日本で女子高生やってました。
どういう理由で死んだのかは、はっきり覚えてないのですが、最後の記憶は、ペットのうさぎと遊んでるところでした。
トリエステでドラゴンとして生まれ、12歳になったある日、自分が人間だった事を思い出したのです。
なぜ男性の背中で思い出したのかは謎ですが……
それまでに感じていた違和感、いまいちドラゴンの生活に馴染めないのも、何かを忘れてるような感覚も、すべて腑に落ちました。
そしてこの世界は、前世のあたしから見たら、異世界であったのです。
それから2年がたち、14歳になりました。12歳までは普通にドラゴンとして暮らしていたおかげで、特に問題なく生活してます。
前世の記憶があると言っても、学校の成績が多少良くなるといった程度で、たいしたアドバンテージにはならなかったです。だいたい高校生の知識程度で、勇者になったり魔王になったり、世界を支配したりなんて出来ませんて。
そもそも勇者も魔王も、この世界にはいないのですが。
せいぜい自分のデザインした服を作るぐらい。作ると言っても、あたしのお裁縫の能力じゃ無理なので、知り合いのお針子のお姉さんに作ってもらってるんだけどね……
この世界じゃ、ドラゴンも服を着てます。本来は必要が無いのですが、ファッションとしてや、仕事のために服を着る事はあります。
いつも着てるのはピンクのワンピース。ブラウスにフリルを付けて、スカートっぽくしてあります。人間が着るようなワンピースだと、ドラゴンには似合わないからです。想像してみてほしい、もしTレックスがドレスを着たら可愛いだろうか?
でもトリエステのドラゴンの女性は、愛嬌があるので、恐竜みたいに恐くないですよ。
元人間で今はドラゴンのあたしの生活は、これからどうなっていくのだろう?
自分の存在が世界の命運を左右する……、なんて事になったりするのかな?
・・・
さて、ドラゴンと言えど、あたしの生活は普通の14歳女子と変わりありません。
今日もお隣の女の子、ミミィと手をつないで登校します。
ミミィもドラゴンですが、まだ7歳なので空が飛べません。なのであたしが一緒に学校まで歩いて登校してます。
かかえて飛んで行けば、早く学校まで行けるけど、さすがに毎日じゃ面倒だからね。
いつも通り、ミミィとお話しながら、学校までの道を歩いて行きます。
「それでね、お兄ちゃんがミミィに奇麗な石をくれたんだよ」
あたしを見上げながら、ミミィが嬉しそうに言った。
彼女の兄はあたしのパパと同じ鉱山で働いていて、お土産に奇麗な結晶の鉱石を持って来てくれるそうです。
「ふふん。あたしは鉱山の中の穴場を知ってるから、奇麗な宝石採り放題よっ」
「え~~。ナナミィずる~い」
「今度いっしょに採りに行こうか」
「うんっ! 約束だよ」
宝石と言っても、水晶みたいな物で、そんなに高価な物じゃないけどね。よくパパと一緒に鉱山に行ってた時に、仲良くなった鉱夫の人達が色々教えてくれたんです。
なんて話をしながら歩いてると、頭の上から……
「おはようナナミィとミミィ。そんなにのんびり歩いてると遅刻するよ?」
空を飛んで学校に向かう、いとこのウサミィだ。あたしより1つ年上で、今日はノースリーブのブラウスを着てます。
ちなみに、ドラゴンの女性の名前には、小さい「ィ」を入れる決まりになってます。なんでも人間や獣人には、ドラゴンの男女の区別が付けづらいらしく、名前で区別がつくように200年ぐらい前に決められたそうです。
なので、アリスとかヴァネッサとかはダメな訳で、逆に男性は「ィ」が使えないのです。
などと解説している時間は無いので、あたし達は急いで走って行った。
あたし達の通う学校は、トリエステの国のひとつ、リュウテリア公国の地方都市ドラゴニアにあります。名前からも分かるように、かつてドラゴンがたくさん住んでいた地域です。
そこにあるブレア学園は、初等科から高等科まであり、全学年がひとつの校舎におさまってます。あたしは中等科2年生で、ミミィが初等科1年生です。「初等生・中等生」であって、「小・中学生」とは言いません。ついぽろっと言ってしまうので、注意が必要なのです。
「よ~し、セーフ!」
「? セーフってなぁに?」
「え? あぁ……、間に合って良かったってコトよ」
思わず前世の言葉を口にしてしまったが、何とか誤摩化せたようだ。
学校の門をくぐって、校舎に向かう途中に、獣人の男の子に声をかけられました。
「やあナナミィ。今日もぎりぎりだったね」
彼はウリル。犬型の獣人で、2歳年下の12歳です。見た目が柴犬みたいで、可愛くてモフモフなのです。さっそくモフろう。
「お早う~ウリル~。今日もフワフワねぇ~~」
モフモフ
ドラゴンにモフられて、尻尾を振ってるワンコ。
前世では柴犬を飼ってたので、なつかしくて初対面でモフってしまってから妙に懐かれ、毎朝ウリル君の頭をなでなでしてます。
「またそんなことやってる。あんた達仲いいね」
とウサミィが、ちょっと呆れた口調で言って来た。
「そう言えば、中庭に植える花を用意できた?」
あ~……忘れてた。ウサミィに言われるまで、すっかり忘れてました。ドラゴンの女の子達で、中庭の一角に花壇を作る事にしたんだった。
「どうせなら自分の好きな花を植えない? ナナミィは好きな花とかは無いの?」
「え? う~ん、そうね……ヒマワリが好きかな」
あたしは何気なく答えた。
「ヒ……ヒマ……な~にそれ?」
ミミィが不思議そうに聞いて来た。
「黄色くて、大きな花よ」
「へぇ~」
なんて話をしてたら、ウリルがあたしの手からするりと抜けて、「そーか、ナナミィはヒバワリが好きなのか」と言ってさっさと校舎に入って行った。
うん? ヒバワリじゃなくてヒマワリだけど?
この時、あたしには知りようが無かったのです。
昔を思い出して言った一言で、あんな事になるなんて……