第六話 ルシファンブルク強襲編-6
「──その通りです」
アナスタシアの後方にある茂みから現れたレンゲイは、彼女の言葉に同意しながら その隣に歩み寄る。次いで現れる二人の赤髪は、夜の闇にあって灯火の様に目を引いた。
「レンゲイ……リナリアとアキレイも。大丈夫なの? あなたたち」
「レンゲイのおかげで、兄はもう大丈夫です」
「幻も消え城内を一掃してきた。半壊してしまったがな」
「貴様……ら」
自らの暗躍が露見し、その当事者たる隊長格が勢揃いすると ゲイジュは僅かに後退りをするも、レンゲイの声がそれを制し 音もなく暗闇を裂く種子が、ゲイジュの身体へ撃ち込まれる。
『花葬輪廻』
「ぐっ……なんだコレは!!!!」
「逃げてもいいぞ?だが、ゆっくりと貴様の命を吸いながら体内で花が咲き、やがては身体を貫き 内臓をぶちまけて出てくる。そして吸った命を使い治癒をし、また体内で花を咲かせる……徐々に弱まる治癒の力。最後は死がお前を待つ。輪廻の花が黄泉への手向けだ。
ゲイジュ ……貴様、苦しまずに……死ねると思うなよ」
静かな、しかし鬼気迫る声でレンゲイは語り、それを受けてゲイジュは取り乱したように声を上げる。
「許さない、許さない、許さなぁあい!!! ぁあ!! ロージア様!! ロージア様!! お助けを どうか私をお助けを!!!!! 見ているのでしょう!!?!?」
踵を返し、泣き叫びつつ樹海を駆け抜けるゲイジュ。遠ざかっていくその背を見ながら、リナリアはレンゲイに目を向けて問い掛ける。
「追う?」
「どうせ数刻の命です」
「アナスタシア。お前の隊の副隊長だ。始末をつけるんだ」
「元より そのつもりよ」
アキレイから投げ掛けられた言葉に、アナスタシアは静かに応えた。
そして時は巻き戻り現在。単身ゲイジュ討伐に向かったアナスタシアは、事を終えて三人の元へ戻って来る。
「アナスタシアさん」
「終わったのか?」
最初に気づいたのはレンゲイ。次いでアキレイがアナスタシアに声を掛けるが、リナリアだけは事態を受け入れきれずにいた。
「私……まさかゲイジュが……ゲイジュが……」
「リナリア……少し、ことの顛末を話すわ。
私は奴から、鞘花への異常なまでの執着心と野心を感じてた。ずっと警戒していたの。そして先のニヘルダム合同作戦のとき、おそらく奴は他者から鞘を奪う方法を発見した。そしてラミオラス帝国と共謀し、二刃花隊 隊長キスツスと
副隊長を殺害した──あの作戦は見事だったわ。分からなかった。防げなかった。レンゲイ……本当に……」
「キスツスがやられる作戦です。誰も防げないでしょう……」
「ええ。本当に用意周到ね。奴は私を嵌める為に、幾重もの罠を仕掛けた。女、子供、老人、国中の土地……更には二刃花隊にラミオラス帝国の兵を忍ばせて、情報を撹乱していた」
敵国と共謀したゲイジュが綿密に練った策を語るアナスタシアの表情からは、忸怩たる思いが滲み出ており、続いてリナリアが実行された内容を口にする。
「そしてゲイジュは銀狼の力でアナスタシアさんの幻を見せ、レンゲイの隊を撹乱した」
「そうみたいね……現実より強い説得力を以て 脳を錯覚させる強力な一振り……」
「目で見てるはずなのに、匂いや音さえも錯覚しますからね……」
「でも、ゲイジュはどうやってキスツスさんから鞘の力を?」
使用者と強く紐付いている力を奪った事に対してリナリアが疑問を口にすると、アキレイが鞘花についての説明を始める。
「鞘花になる方法は大きく分けて3つだ。1つは"ダンジョン化"。鞘花が死んだ時に鞘は霧散し、世界のどこかに迷宮が生まれる。その迷宮の奥底にて、刀は次に収まる鞘を待つ」
次いでレンゲイが語る。
「2つ目は"継承"。鞘花自身の意思により、新たな鞘花に鞘を託し
継承後、鞘花は結晶化して死ぬ」
最後にアナスタシアが語る。
「3つ目は "発現"。詳細はまだ不明だが、何らかの影響、環境により新たな鞘が生まれ、鞘花となる」
「でも、その方法だと……」
三人の鞘花による説明を受けたリナリアは、それらとゲイジュの動きを照らし合わせて首を傾げる。その反応に頷くアナスタシアは、その疑問に対して回答した。
「ゲイジュはどれも該当しない。奴は4つ目を発見した」
アナスタシアの言葉に、レンゲイとアキレイも驚きを隠せず、彼女へ向き直る。
「4つ目があるんですか?」
「聞いたことはない……」
三人が注目する中、アナスタシアはゲイジュが取った方法を告げる。
「強制解除……これは秘匿すべき外法。コレを話すには、まだ調べることが沢山あるが……強制的に鞘を奪う方法よ。」
外法という響きと、容易には口に出せない内容である事に息を呑む三人だったが、ややあってレンゲイが問い掛ける。
「奴は……奴は死んだ後にダンジョン化したんですか?」
「鞘は霧散し、奴自身も地中何万キロと沈めてやったが、分からない」
そう答えるアナスタシアだが、当時の状況を振り返り、内心で自問する。
(奴は鞘が霧散してから すぐには死ななかった。果たしてダンジョン化はしたのか?)
「強制解除……か……俺たち鞘花にとっては危険な話だな。アナスタシア、詳しく調べといてくれ。そして、この事に関し箝口令を敷く」
「そうですね……それに、もう一つ気になる事が」
「そうね。ロージアとは一体……」
「それは千刃会議の時に話そう。城の建て直しが終わり次第、飛び回ってる隊長格全てを強制招集する」
「癖の強い隊長たちが集まるのかぁあ……はぁ」
兄の言葉にゲンナリとした表情を浮かべるリナリア。その反応を横目に、レンゲイは 可及的速やかに行うべき行動を語る。
「今はそんなことよりも、キスツスの隊葬の準備をしないと」
「えぇ、そうね。」
「城の片付けもあるしな」
「兄さんが半分壊したんでしょうが!」
「だから、うちの隊が率先してやるしかあるまい」
「もう──!」
「私は、強制解除について もう少し調べてみる」
「片付けと隊葬が終わったら、二刃花隊の連中にロージアを探らせる。キスツスたちの為に
あいつらも頑張るだろうよ」
「そうですね……」
「俺たちの戦いはまだ終わってはいない。次の戦いまで気を抜かない方がいい」
「でも、今晩はもう寝よう! 私、疲れちゃったぁ!!」
「フフッ、相変わらずですね。リナリアさん」
「はぁ……」
深刻な雰囲気を壊す声高な就寝宣言。その発言にレンゲイは笑い、アキレイは頭を抱える。
「ではではぁ──これにて解散!!」
解散の合図で兄弟は並んで歩き始め、二人もその場を後にしようとした時、アナスタシアはレンゲイに歩み寄り、小声で問い掛ける。
「レンゲイ、ちょっといい?」
風に揺れる木々の音に遮られ、先を歩く二人には届かない小さな声。レンゲイの顔に、にわかに緊張が走る。
「まさか……」
千刃花〜帝国特務戦闘部隊〜
ルシファンブルク強襲編(完)




