第四話 ルシファンブルク強襲編-4
──アナスタシアサイド──
二人が離脱したのを見届けるアナスタシアは、アキレイに目を向けて窘る様に声を掛ける。
「気付くのが遅い」
「ああ。レンゲイから報告を受けた俺の隊と
三刃花隊は、秘密裏にお前を調べていた。が
それも全てミスリード……まんまと騙されたってワケだ」
「いいえ。私の事を考えて、秘密裏に動いてくれてたのは分かってる。だけど少し遅かったようね」
「許せアナスタシア。この借りは返す」
「いらないわ。返された試しないもの」
「フッ……言ってくれる」
ゲイジュの策に嵌められた事を認めて素直に詫びるアキレイと、それに応えるアナスタシア。その遣り取りは、単なる隊長同士とは違う、気の置けない間柄である様にも見えた。
「さて、実際この場に10機しかいないわ。ほかの場所も、見えてる数と実際の数は大きく異なる」
「ああ。これは銀狼の光の力だ。通常の術と比較して より精密に、より現実的に幻を映し出す。正直、俺の目には まだまだ魔進が沢山見えている」
「おっかしぃいいなぁぁ!! なんでアナスタシアが見えてるんだぁ? 何度やってもお前の周りだけ光が曲がらない……一体……ナニヲォォシタァア!!!!」
未だに銀狼の影響下にあるアキレイに対し、明らかに影響を受けていないアナスタシア。
その様子にゲイジュは疑問を投げかけるも、アナスタシアは冷めた目を向け吐き捨てる。
「呆れるわ。あなた……この数年、私の何を見て来たの?」
「そうやって、お前 いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもォォォオ!! 俺を見下すのがムカつくんだよぉお!!」
激昂するゲイジュからの殺気を感じ取り、アキレイはアナスタシアに声を掛ける。
「アナスタシア!!!下がれ!!」
「違う!! 私じゃない!! アキレイの方!!」
「何!?」
銀狼により乱れた感覚は 魔進からの攻撃に対する認識を歪め、警告を発したアキレイは死角からの痛烈な打撃を受ける。
「アキレイ!!!」
「グッッ」
「ただの陸上戦闘魔進だと思うなよ……対鞘花戦闘魔進KARE8は
八人の隊長を殺す為に殺傷力を上げた、我が国最高傑作だ!! 貴様らに鞘花としての資格などない!
何が千刃花だ!! その気取った部隊名も、全て……全てぇぇ!! 終わらせてやる!! 死ねェエ!! 千刃花!!!!」
「アキレイ違う!! そっちじゃない!!!」
「分からん……一体……どっちだ……」
「こっちだよ」
「グァァァア!!!」
アナスタシアが声を掛けるも、正確な認識が出来ないアキレイは翻弄され、立て続けに痛打を喰らっていく。
「トドメだ……やれ! KARE8!!
──ん!? ウグッッッ身体……が……重い……これは……まさか」
『黒の審判』
「指定した範囲内の重力場を自在に操作する。そして その影響で歪んだ空間は、光さえもあなたが思うように曲がらない。今までは私の周りだけを操作していただけ。それをこうやって」
「何!? KARE8が!! 動かない!!」
「あなたもよ」
「アギッ」
魔進によるアキレイへの猛攻は続き、ゲイジュは畳み掛ける様に指示を出すも、突如として不可視の重圧に身体の自由を奪われる。
アナスタシアは、自身が有する鞘の能力による物である事を告げ、アキレイを襲う魔進の動きをも封じてみせると、続いてゲイジュ自身へ向けた重圧を強めた。
「軽い……これで見えたぞ。お前さえ見えれば
攻撃が当たる!」
「さ……せ……る──早い!!」
「ォォォオ!!!!」
『炎蛇招来・八岐ノ咆哮!!』
真紅の炎より八つの巨大な蛇が生まれ、咆哮を放つ。魔進へと向けられた灼熱の咆哮は 頑強な機体を襲い、崩れ燃え尽きるそれは灰になっていく。
「カ、KARE8が!! 灰に……うっ……ギヤァォァ!!!! 熱い!!熱い!!」
「さすが鞘花の肉体を手に入れただけはあるな……燃えがイマイチだ……」
「グッ……熱い……熱い……熱いよォォォオ!! クソがクソがクソがぁ!! しかぁし!! アキレイ!! その傷では貴様はもう動けまい!! そしてぇえええ! 黒の審判は長くは使えない。知ってるぞ……知ってるぞ!!!」
「……奴の言う通り、黒の審判を使った後は 鞘を一旦納めなければならない。だから、残りの時間を使って 奴をこの場から離す。銀狼の影響しない遠くまで! アキレイ! 熱風を起こして!!」
「させるかぁああ!!」
『十六夜魔天楼!!』
離脱を試みるアナスタシアを逃がさぬ様、ゲイジュは銀狼を横一閃に振り抜くと、刀の軌跡に合わせて 半透明のカーテンが徐々に広がっていった。
「邪魔は──何!? 重力場が弱い? 長く使いすぎたかっ!!」
「なんだコレは!! グッ──な……何ィィイ!? 塔の上に立っている!!」
対応を試みるアナスタシアの能力は 想定した出力に及ばず、銀狼の影響を受ける二人の視界は 先程まで居た廊下の風景から 高くそびえる塔の上に変わり、ゲイジュの嘲笑う声が響き渡る。
「お前の重力場より強い光を作り出した……余興は終わりだ。俺はどこにいるかな? そこから一歩でも動けるかヌァア?
怖いだろぅ!? 怖いだろオオオウ?」
「所詮は幻だ!」
「ほう……」
「なんだこれは!! 視界が……世界が回ってルウゥ……景色が走馬灯の様に……」
「これは……た、立てない──グハッ!!!」
アキレイの言葉に口角を上げるゲイジュが指を鳴らすと 術中にある二人の視界が歪み、平衡感覚は狂い、まともに立つ事すらままならない。その光景を見て歪んだ笑みを浮かべるゲイジュは、アキレイの眼前に立つと刀を振り上げ、斬りかかる。
「どんなに俺の周りの重力場を重くしようが、術者さえ弱まれば重力場は軽くなっていく。貴様らの所まで這っていく時間さえあれば、幻を見せて刀で斬れるんだよぉぉお!! ウラララララァァアィィイ」
「グアッ!!!」
「終わりだぁあ!!」
現状に対応しきれないアキレイは されるがままになり、声高にトドメを宣言するゲイジュが より強烈な一太刀を浴びせる為に刀を振りかぶり、まさに斬りかかろうとした時、アキレイは にわかに周囲の景色が変わり始めた事に気付く。
「!? コレは!? 幻が消えていく!! いや、光が呑まれていく!!」
「アナスタシア!!!貴様!!」
『黒渦の陣』
「この陣の内では、お前の作る光も この世界の光も 全て吸収される。お前はもう無力だ。」
「空間系 侵略領域の技を2つ同時に発動させるだ……と!? 一体、どこにそんな力が!! 空間系を二重詠唱するなど、出来るはずがない!!!!」
「見誤るなよ。私は千刃花七刃花隊 隊長アナスタシア。お前とは、生まれた時から格が違う──アキレイ!!」
「なん、だと!?」
「お前はぶっ飛ぶんだよ!! 燃え盛れ!! 紅大蛇!!!!」
『黒是波無』
「うおおおおおお!!!」
アキレイの雄叫びと共に紅蓮の炎が巻き上がり、アナスタシアが展開する結界に身体の自由を奪われたジュダスを襲う。
「クソヤロォォォ!!!」