第三話 ルシファンブルク強襲編-3
──レンゲイサイド──
「くっ……おかしいですね……こんな数の魔進が、一体どこから……60体は居ますか」
先程まで居た場所を離れたレンゲイとゲイジュ。その眼前にもまた、魔進の集団がひしめいていた。夥い数の魔進の侵入に違和感を覚えるレンゲイに対し、ゲイジュが応える。
「そうみたいですね。隊長、いけますか?」
「神の刃を身に宿す僕ら鞘花の身体は
刀の鞘の如く頑丈です。
容易く傷付けることなど出来ませんよ」
「魔進の皆さーん、聞いてるかぁあ? ナーベルク帝国にはなぁ! 鞘花が何人いると思ってんだ!! ここはダリア城の ど真ん中だぞ!! ただで済むと思ってんのか!?
ってレンゲイ隊長……そもそも、あの魔進に人って乗ってるんですか?」
「乗ってませんね! なので手加減無用です!」
レンゲイはそう言うと、胸に手を当て口上を唱えた。辺り一面に暖かな光が差し込むように
次第に木々が生い茂る──
『『天輪・波濤・恵の鉤爪
芽吹・花咲・枯り落つ贄木
巡れ生命よ 深淵に染まれ!!!』』
『『散桜突刃・桜雌鹿』』
鞘を解放した直後、少し離れた場所にアナスタシアの姿を確認したレンゲイは、一瞬動きを止めてしまう。
「何!? アナスタシア……さん!?」
しかし、間もなくアナスタシアの姿は揺らぎ、霧散していく。
そして、事態に戸惑うレンゲイの背後から、銀色の刃が その腹部を貫いて現れた。
「レンゲイ!!」
二階の踊り場から息を切らしたアナスタシアが叫ぶ声がする。しかし、レンゲイが振り返ると 自身を貫いた者もアナスタシアだった。
「アナスタシア……さん……グハッッッ──血? 鞘花の身体を……貫くとは……まさか……グッ……貴様……その……刀は……」
銀色の刃が勢いよく引き抜かれると、傷口から鮮血を噴き出しながら、レンゲイは声を絞り出す。
「ゲイジュゥゥゥウ!!!!!!」
アナスタシアの姿が霧の様に消え
そこに現れたのは、不敵に嗤う七刃花隊 副隊長
ゲイジュ・アダミーシン・アダモフであった。
「まさか……キスツスを……僕の、ウグッ……人を……殺したのかァァア!! カハッッ」
レンゲイがブンッと拳を振るうも、またもや霧の様にゲイジュの姿が消え、その拳は空を切る。
「ヌフッ そぉっちぃじゃぁ!! なぁあぃよぉお! ヌフフフッッヌハハハハハッ!! レンゲイ……お前はよくやってくれた!! 本当に、笑いが……笑いがァァァァ止まらないヨォォォォオ!! バカみたいに動いてくれたおかげで、今日この日を迎えることが出来た!!」
ゲイジュは全く別の場所から現れ、瞳孔を開きながら叫んでいた。それを聞いたレンゲイは更に激昂していく。
「なん……だと!? ふざけるッッッ──」
「──あなただけ少し離れた所に飛ばす」
『黒是波無』
更に声を荒げるレンゲイの言葉を遮って アナスタシアは囁き、黒雛の能力により無重力の結界を展開。しかしゲイジュがそれを阻もうとする。
「させるかぁあ!! アナスタシ──くっ!?
十六壁の炎……これは」
「── 八岐ノ双璧! リナリア!! レンゲイを頼む!!」
「任せて!! レンゲイ!! アナスタシアさんの無重力結界でこのまま水平移動する!」
ゲイジュによるアナスタシアへの妨害は 駆けつけたアキレイが繰り出す炎の壁によって阻まれ、共に駆けつけたリナリアがレンゲイと共に離脱していった。
「リナリア……さん……キスツスが……」
「ええ。二刃花隊 隊長……キスツスさんの鞘をゲイジュが持ってた。あのクズ野郎……銀狼の力で、レンゲイや兄さん……そしてこの城みんなに幻を掛けて騙してた」
「リナリア……さん……僕ら……鞘花は……鞘が身体から無くなると…………」
「えぇ、分かってる。分かってるわよ。今はいい。アンタは桜雌鹿の力で傷を癒しなさい。今は兄さんとアナスタシアさんに任せるの」
「そう……ですね」