母のように
学校での毎日は相変わらずぱっとしないが、一希は新藤に会える日を心待ちにしながら何とか持ちこたえていた。
今日は昼休みに入る前、生徒数人で備品を倉庫に運ぶよう指示された。授業に使った爆弾の模型と付属品だ。
重さなど知れているし、こういうときに怠けて「だから女は」と言われるのは癪なので、一希は率先して引き受けた。他に名乗り出たクラスメイトは三人。
道具を運ぼうとジャージの袖をまくっていると、
「お前いいよ。手、足りてるから」
と止められた。何となく予想がついていた展開だ。
「ううん、私もやる。どうせ暇だし」
「いや、なんか顔色悪くねえか?」
そこへもう一人が、
「そういや、さっきの休み時間、薬飲んでなかった?」
「ああ、あれはね。いつものやつで、大したことないの」
実は、今朝から生理痛がひどかった。幸い薬が効いて痛みは治まっているが、目まいやしんどさに変わりはない。とはいえ、そんなことでいちいち休んでいたらこの職業はきっと務まらない。
結局、制止を押し切って大きな道具箱一つを運び、呆れられた。
高校時代にも、体育の後片付けだの机の移動だのは、こちらの体調が良いときでも男子がやってくれる空気があった。「任せとけばいいじゃない」、と女友達は口をそろえる。
しかし、不発弾処理という過酷な世界を志すからには、必要以上に甘やかされたくなかった。母の姿を見てきたことも影響しているかもしれない。
世間では専業主婦が圧倒的に多い中、外で働きながら家のこともすべてこなす母を一希は尊敬していた。実質的には「女手一つ」に近かった。その傍らでは、特に何をするでもなく存在感の薄い父が、ただ息をしていた。
母はスムである父と結婚した時点で、実の両親も含め全親類から絶縁されている。唯一の頼みの綱が、あの藁志ヶ谷の叔父だった。子供同士を結婚させ、ますます強固になる家同士の絆を思い描いていただろう。
そんなときに起きたあの事故。
見舞いを装って一希の病室を訪れた叔父は、ぶっ倒れんばかりに頭に血を上らせ、あることないことまくしたて、挙げ句の果てに父に殴りかかって看護師たちにつまみ出された。
一希と両親は忠晴を弔うことすら許されず、門前で追い返された。
住んでいた曽呉李でもあらぬ噂が立って居づらくなり、母が仕事を得やすいようにという考えもあって、最寄りの大都市である古峨江に移った。この町で一希は、母がたった一人で奮闘する姿を間近に見て育った。
一希は、母に苦労を強いた上、ろくに助けてやれなかった。せめてこれからの人生を無駄にしないよう、全力で毎日を生きていきたい。




