埋葬
まもなく、康雄が皆を集めて地図を広げ、行き先を示した。右折すべき交差点の名を復唱し、それぞれの車へと散る。
一希は荷台の新藤に「じゃあ出ますね」と声をかけ、運転席に乗り込んだ。まさかこのハンドルを自分が握ることがあろうとは……。座席をぐっと前に出し、ミラーを調節する。荷台に座った新藤の後頭部がちらりと見えた。
助手席には菊乃の妹。菊乃とは正反対といってもいいぐらいに、無口でおとなしそうな女性だ。墓地への道中はずっと、涙ながらにお経のようなものを唱えていた。
山あいのこぢんまりとした墓地に夕暮れが迫る。墓穴の準備を済ませて待機していた長男利雄の夫婦が、皆に手短に挨拶した。
車から降ろされた菊乃は布にくるまれただけの状態で、竹で編んだ小さなベッドのような台に寝かされた。それを関係の近い順に取り囲み、墓地の管理人を兼ねているお坊さんがごく簡単にお経を唱える。
ものの二分程度でそれが終わると、ついにお別れの時間だ。花を飾ることもないし、思い出の品や本人の宝物も登場しない。墓に入るのは故人本人と、その体を覆う布一枚だけ。
長男が場の面々を見渡し、顔が見えている間に最後の別れを告げるよう促す。菊乃の弟妹がそばに寄って手を合わせ、周りの皆もそれに続く。
人の群れが遠ざかった後、綾乃が跪いて菊乃の髪に触れ、何か声をかけたようだ。息子たちからも「お母ちゃん」、「母ちゃーん」と涙声が上がる。新藤だけが無言で地面に膝をついたままだ。
一緒に育った菊乃の子供たちと同じ輪の中にはいるが、一人だけ違う空気をまとっているように見える。血がつながっていないから仕方ないのだろうか。
まもなく綾乃が一歩下がり、菊乃を男手に委ねた。長男、次男、三男が菊乃の体の下にロープを渡す。肩の辺りと腰と足の三箇所。
準備が整うと、長男が新藤の方を振り返った。「建一」と省略形で呼ばれた新藤は、しかし動かなかった。その両手が土を握り締め、細かく震えていた。「母ちゃん行っちまうぞ」との長男の声に、新藤はただ小さくうなずいた。
菊乃の顔がついに布で覆われる。三男の昭雄が涙を拭いながら歩み寄り、新藤の腕を取って立ち上がらせた。ロープを握るのは、康雄、昭雄、新藤の三人。
「お前、母ちゃん落っことすなや」
と、康雄が新藤の背中をさする。「せーの」で菊乃の体は持ち上げられ、皆が合掌する中、穴の中へ下ろされていった。一希の位置からは穴の中は見えないが、大人の背丈を超える深さはあるはずだ。底から一メートル弱の高さまでは幅が狭く、遺体はその中に納められる。
お坊さんの指示に従いながら、男たちは中間地点の段差部分を足場にして無事に菊乃を底に到達させたようだ。「元気でな」という康雄の場違いな別れのセリフを最後に、足場にしていた部分に細い木の板が順に渡される。その上から土を被せて埋葬は終わりだ。
年長者たちを除けば、土葬には初めて立ち会う者がほとんどのようだった。取り囲む輪の外側の方にいる者たちは皆、興味津々といった体で覗き込んでいる。
この国では、生きていたときと同じ姿のままほぼ直接地中に埋めるという埋葬法を、好ましく受け止める者は少ない。あるいは単純に、それがワカの世界では特殊であるせいだろうか。
一希は自然と両親のときのことを思い出していた。自分の親が土に埋められるところを見るのは確かにショックだった。何か残酷なことをしている気にさせられた。
しかし、後から考えてみれば火葬だって同じことだ。火葬炉に入れられて扉が閉まれば、燃やされる姿を見ずに済むというだけ。生きた人間にはとてもできない扱いを遺体にはせざるを得ない。それが世の常なのだ。
忠晴はスムだったが、火葬にされたと風の便りに聞いた。叔父たちがそういう主義だったのか、遺体の状態のせいかはわからない。




