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爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第1章 弟子入り
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前進


 車を車庫にしまったところで再び電話が鳴り、新藤は母屋へと戻る。


「はい新藤」


 一希は入口で聞き耳を立てた。


「三十日水曜日の十四時……」


 新藤が壁のカレンダーに目をやる。あれこれ書き込まれているが、丸だの四角だの、記号ばかりで何のことやらさっぱりわからない。


 新藤は三十日水曜日のところに「14」と書き入れ、二重丸で囲んだ。


浜岡(はまおか)? ああ、二月の五百んときの。まあいいんじゃないか? ……ああ。了解。じゃ」


 新藤が電話を切る。一希が尋ねる前に答えが与えられた。


「仕事だ」


「今度は何ですか?」


「建設用地の探査だ」


 新藤は、ふと気付いたように一希を見やる。


「なぜわかった? さっきのデトンとは別件だと」


「だって、あれは街中(まちなか)ですよね? 放置しとくわけにいかないし、距離短(きょりたん)のことでお財布と相談してる人たちが、処理士の選定から三週間も警備を続けるとは思えないし……わざわざ新藤さんを呼ぼうかってぐらいだから、処理前にどこかへ移すのも無理ってことですよね?」


 一希の眉間に新藤の視線が刺さる。


「学校は早川だったな?」


「はい、四月入学の冴島一希と申します」


「ん?」


 新藤は何やら考え込む。そして唐突に、


「お前、他もあたってんのか?」


「あ、はい、他の処理士の方も訪ねてはいるんですけど、なかなか取り合ってもらえなくて」


「そりゃそうだろう。無資格で助手にしろってのは相当図々(ずうずう)しい話だからな」


 いや、そんな議論にすら至っていない。「女が進むべき道じゃない」、「どうせ続きやしない」、「まさか本気じゃないだろう」……。彼らは一希が資格を取って出直しても同じ反応を返すに違いない。


 そういえば、新藤からも最初は門前払いを受けたが、それは一希の性別が理由ではなかった。


「実は、もう一人だけ好感触というか、まともに相手してくださった方がいて……今は役に立てないけど、実習の段階になったらまたおいでって」


「ほう」


「それと、試験に受かったら、現場を見学できるように軍の方にもかけ合ってくださるって」


「補助士になった後の見学なら、よっぽど素行(そこう)が悪くなきゃ断られる方が珍しいぞ。ま、俺は気に入らん奴はいくらでも断るがな」


 新藤とは真逆(まぎゃく)といってもいいほどに、終始にこやかな人だった。が、それは言うまい。


「質問とかよもやま話でよければいつでも電話くれって。しかも奥さんもいい人で、お夕飯までごちそうになっちゃって。それがまた珍しいやらおいしいやらで」


「腹ボテの奥さんか?」


 新藤の眉が上がる。


 しまった。名指しするつもりはなかったのに、しゃべりすぎた。


檜垣稔(ひがき みのる)か。そりゃこの上ない好感触だったろう。あいつの紳士っぷりは有名だからな」


「バレちゃいましたね、すみません。檜垣さんの紳士ぶりをお伝えしたかったわけじゃないんですけど、話を聞いてくださる方自体が貴重なので、つい嬉しくて」


「奥さん元気そうか? そういやしばらく会ってないな。そろそろ予定日近いんじゃないか?」


「早ければ来週中には生まれるそうですよ。そっかあ、奥様とも交流あるんですね。檜垣さんといったら、新藤さんと一二を争う超一流処理士ですもんね」


「お前も一応、この世界の勢力図ぐらいはわかってるみたいだな。しかし、そんな好感触の檜垣様でも、無資格でうろちょろされたところで何も与えてやれないってことだ」


「わかってはいるんですけど、授業を受けてても、私はこれをどこでどんな風にやるんだろうって、なかなかイメージが湧かないんです。教本を読めばわかることばかり聞かされて、読んでわからなかったところは教官に聞いてもわからないし……」


 新藤は、腕を組んでしばし(ちゅう)を見つめた末、


「木曜の夕方は暇か?」


「あ、はい!」


 新藤建一郎がかまってくれるなら、いつだって暇だ。


「素人にできる手伝いがある。ただでいいならやりに来い」


「本当ですか? ありがとうございます!」


 一希が深々と頭を下げている間に、新藤はさっさと引き戸の向こうに消えていた。




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