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爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第1章 弟子入り
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一流


「一トン半って、かなり大きいですよね」


「それなりにはでかいが、型は典型的だそうだ」


「それをわざわざ新藤さんほどの方に連絡してきたのって、避難範囲を調整するためですか?」


「そういうことだ。現場が商業地域のど真ん中だからな。決して珍しい話じゃない」


 一希は大きくうなずく。


 さっきの話だと、埜岩(のいわ)の担当者が算出した避難範囲が半径一キロなのだろう。しかし、陸軍としては安全を最優先しながらも、現場がオフィス街となれば、避難の範囲や時間は最小限で済ませたいはず。


「避難のせいで営業時間が減って、苦情が来たりするからですよね?」


「そうだな」


「何年か前、大きなデモがありましたもんね。営業妨害の分、税金で補償しろって」


「国にとっても頭の痛い話でな。補償は現実的じゃない。かといって、見つかったもんは放置できんし、避難させなけりゃ怪我人が出るかもしれん。ただ、安全に避難人数を減らせるなら話は別ってことだ」


 目安となるオフィス街方向の避難範囲を、六割にまで減らしてくれる救世主。それが新藤だ。作業時間も他の処理士より短いはず。


 新藤に期待されているのは、いわゆる爆風域転向。爆弾を布置(ふち)する向きや防護壁の設置方法を調整し、万一の場合の爆風域を操作する技術だ。


「爆風域転向って、計算の正確さも必要だし、実際の配置もその通りじゃなきゃいけないから……責任重大ですよね、普通の安全化以上に」


「そりゃそうだ。だから追加料金を取る」


「南は六百っておっしゃってましたけど、その分、北が伸びる可能性はあるんですよね?」


「伸びるのが普通だ。ただし北側は過疎エリアだからな」


 電話しながら地図を見て、素早くその判断もしていたのだろう。さすが業界ナンバーワン。


「いつなさるんですか? この件」


「まだ決まったわけじゃない。必要なら折り返し電話がくる」


「誰に発注するかをあちらが検討してるってことですか?」


「そうだ。割増を払う価値があるって結論が出ない限り、俺の仕事にはならん」


 電話の相手は今頃、しかるべき人物にかけ合っているのだろう。


 やはり、学校で学べることなどたかが知れている。駆け出しの補助士が実務の裏事情まで把握している必要はないが、理論を(おおむ)ね理解している一希の興味は、現場へと強く吸い寄せられていた。




 かの内戦に早くから関心を抱いたのは、家庭環境のせいだろう。


 一つの家族に二つの血。異なる血の間に和を思い描くことは、この国の大多数にとって難しい。父と母が別々の血を持っていることは、決して外で口にしないようにと教えられた。


 実は、一希が小学校に上がる頃には、従兄の忠晴との縁談が持ち上がっていた。あの事故の少し前のこと。


 一希から見た忠晴は、小さい子みたいにすぐ得意になるし、ろくに話を聞いてくれないし、物の扱いも荒っぽい子。しかも従兄妹(いとこ)同士なのに、なんで結婚なんか、と一希は反発を覚えた。


 親たちが二人をくっつけようとしたのも血のせいだろうと、今なら想像がつく。父の弟である叔父の一家は、そろって純血のスム族だ。そこに生まれた忠晴が嫁探しに苦労することを見越して、一希に目を付けたに違いない。


 一希の両親とて、スムを父親に持つ一希の将来に不安があったはず。叔父はスム族の多い藁志ヶ谷(わらしがや)という田舎町で建設会社を(いとな)んでおり、地元ではちょっとした権力者。忠晴はその跡取(あとと)りだから、そこへ(とつ)がせれば将来は安泰、ともくろむのも親心だ。


 だが、跡取りは死んだ。嫁になるはずだった従妹(いとこ)が悲運を呼び込んだせいで……と、あの家族はきっと今も信じている。




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