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爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第2章 修練の時
51/114

リスク


「ちなみに、ここでの非常時にはこれを使う」


 新藤が指差したのは、すぐそばの壁に設置された白い電話機のようなもの。作業時の新藤の背後にあたり、腰の高さより少し下になる。


「発信専用の電話だ。受話器を外すと自動的に埜岩(のいわ)の緊急用番号にかかる。発信元は向こうでわかるようになってるから、最悪しゃべれなくても受話器を外したままにしとけば爆弾専門の救護要員が来る」


 先日、一希が合格通知とともに受け取った『不発弾処理補助士業務細則』にも、陸軍が立ち会わない業務における事故発生時は、救急隊ではなく陸軍に通報すること、とあった。陸軍が立ち会わない業務とはすなわち、探査やオルダ解体だ。


 怪我人の救護にあたる者は必ず防爆衣を身に着け、付近にある活性の爆弾をまず禁戒半径外に移動させることも規定されている。


「この受話器を外すことができない状況は想定されてないんですか?」


「想定するとすれば、複数人での作業が理想的ではあるな」


「そうですよね」


 新藤がいつも一人で処理室にこもっていることが、一希は少なからず気になっていた。自前の処理室を持っている処理士など全国的にも(まれ)だろうから、明確な規則がないことは想像がつく。そこは処理士個人の裁量に任されているということだ。


 新藤は受話器に目をやり、しばし考え込む。


「俺はもう意識までなくなってりゃ運の尽きだと思ってきたが……お前が一人で作業するようになったら考えた方がいいかもしれんな」


 少なくとも補助士であるうちは、一人で作業することはないわけだが……。


 爆弾に触れているときに爆発が起きれば、防爆衣に守られず手袋だけに覆われた両手は吹き飛ぶおそれがある。その状態で意地でもこの受話器を()り落とすという覚悟が、果たして自分にあるだろうか。


 いや、やるしかない。何が何でも。忠晴の体が(たて)になって救ってくれた命を、そう簡単に諦めるわけにはいかない。


 その後の解体は同じ作業を繰り返すだけだからと、一希は見学を続ける代わりに安全化済みの爆弾での練習を命じられた。ただし、いつもの大机ではなく、処理室の作業台でだ。隣では新藤が本物を着々と解体している。


 作業内容自体はこれまでの練習と同じだが、一希は経験のない緊張感と(たたか)っていた。これが本物だったら、気を抜けば冗談抜きで死人が出る。それを実感させるのに十分な空気がそこにはあった。




 それからというもの、タイプの異なるオルダが届くたびに新藤が解体を実演してみせ、その後一希が同じ型を不活性版で復習するパターンが続いた。


 今日も新藤が子爆弾の入ったプラスチックケースを持ち帰り、台車に載せて処理室へと運ぶ。いつもの光景だ。


「今から解体、ですか?」


「ああ。やってみるか?」


「えっ⁉」


 思わず声が裏返る。


「おなじみの典型ストロッカだぞ」


 一希が練習してきたオルダの中でも、一番回数を重ねているのがこのタイプだ。それは、そもそもの絶対数が多いからでもある。


「やってみるって、補助じゃなくてその、つまり……」


「解体をだ。オルダ解体の補助なんて仕事は理論上にしか存在しないからな。練習にもそろそろ飽きたろ。お待ちかねの本番だ。感謝しろ」


「あの、でも中級レベルで活性の解体作業って、あり……ですか?」


「もちろんすべては俺の責任で行う。しかし監督下であれ何であれ、解体を丸ごと補助士にやらせるってのは明確には認められてないグレーゾーンだ。だからまあ、くれぐれも口外しないという条件付きにはなるが」


 一希がどこかでうっかりしゃべろうものなら、全面的に罪を(かぶ)るのは新藤だ。そんなリスクを(おか)してまで一希にやらせる理由はただ一つ、一希を成長させるためでしかない。


「わかりました。ありがとうございます。やらせてください」




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