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爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第2章 修練の時
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願書


「ところでですね、試験の申し込みをできればそろそろ……」


「ああ、そうだ、昨日願書が届いたぞ」


「えっ? もう取り寄せてくださってたんですか?」


 ほれ、と茶封筒を手渡される。


「あ、ありがとうございます」


 さっそく封を切り、待ち切れずに中身を取り出した。が、日時の欄を見て首をかしげる。


――あれ? たしか一月二十二日だったはずじゃ……。


 三つ折りにされた要綱には、試験日が三月十九日と書かれている。変更されたのかと全体を読み直すと、一番上に太字で「不発弾処理補助士()()試験」とある。


「先生、これ中級の願書みたいですけど……」


「ああ」


 師匠の顔に驚いた様子はない。


「あの、私がまだ初級を受けてないのはご存じです、よね?」


「初級は受けなくていい。時間と金の無駄だ」


「え⁉ でも、初級を持ってないと中級って受けられないんじゃ……」


「よく読め」


 受験資格にもう一度目を通すと、「初級試験合格に相当する能力を有する者」とある。


「冴島一希は初級合格に相当する能力を有する。俺がそう書いてハンコを押せば証明書として認めると協会が言ってるぞ」


 恐るべき新藤パワーだ。飛び級なんて聞いたことがない。


「でも私、試験対策はまだ初級の分しか……」


「心配いらん。筆記での漢字の間違いぐらいは見逃してくれる」


 一希はもちろん漢字の間違いを心配しているわけではない。


「実技さえ完璧ならな」


 中級といえば実技試験。新藤が最初から実技の訓練にこだわってきたのは、この飛び級を(ひそ)かに計画していたからでもあるだろう。しかし、一希の現状が完璧なはずがない。


「筆記は一応これに目を通しておけ。まあ楽勝だと思うが」


 新藤が(かたわ)らの段ボール箱から取り出したのは、古びた中級の試験対策本だ。


「もらいものだが、一昨年(おととし)の版だから十分通用する。それから……」


 同じ箱から、新たに二冊の本が出てきた。


「一緒に入学した連中が今頃何をやってるか気になるなら、これを読んでみろ」


 手渡された本の表紙には見覚えのある字体で『図解で学ぶ不発弾処理』とあった。一希が唯一持っている『その一』と同じデザインの色違いで、『その二』、『その三』となっている。


「うちの学校の……」


 教本の続きだ。中を開くと、これまで新藤にさんざん叩き込まれてきた解体手順や爆破手法が、延々と説明されている。


「学校で学ぶことはお前には合わないと言ったろ。お前は頭では他の奴よりよっぽどわかってるくせに、その理論が実際の現場でどういう展開を見せるのか、細部に渡ってきっちりくっきり想像がつくまでわかったと言わない。だから土橋(どばし)が手を焼くんだ」


――確かに……。


「まず現実的な状況をイメージして、現物を見て、触って、それを理論と関連付けていく方がお前にははるかに効率がいい」


 確かに今三冊目のオルダの項をざっと読んでみると、パターンを変えて何度も挑戦した爆破処理手順がまざまざと思い出され、文字で言われていることもすんなり入ってくるようだ。


「お前は早川の卒業レベルを軽く超えてる。現時点で中級受験に足りないのはオルダ解体のバリエーションぐらいだ。お前なら本気でやれば残りの三ヶ月で十分達成できる。どうだ? 初級にするか中級にするか」


 オルダの解体。つまり、子爆弾を爆破する代わりに安全化する処理だ。これに限っては処理士の補助をするのではなく、最初から最後までを自分一人で行う。


 一希は最も典型的なストロッカの解体にようやく慣れてきたところだが、これを応用して他のタイプもマスターする必要がある。


 実際にはオルダを日常的に解体しているのは処理士でも少数だから、中級補助士がそんな仕事を与えられることはまずない。要するに、安全化の基本手順を理解している旨と手先の鍛錬(たんれん)の証明にすぎないのだが、何にせよ初級を取ってから本格的に取り組めばいいと思っていた。


「どうすんだ? やらんのか?」

 

「いえ、やります、中級。頑張ります……いえ、合格します」


「受験料をたっぷり取られるんだからな。落ちたら許さんぞ」


「はい」


 頑張ります、ともう一度言いそうになり、何とか飲み込んだ。意味を持つのは結果だけ。それを改めて(きも)(めい)じる。




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