男の友情
「先生はどこで檜垣さんと?」
「俺が上級のときだ。あっちが処理士三年目だったか。ある現場でたまたま一緒になった」
「それがご縁でこんなに仲良く……」
「別に仲がいいわけでもないが、まあ腐れ縁ってやつか。その現場ってのは単純な五百の信管抜きだったんだが、終わった後に便乗案件があってな」
「便乗?」
「その日の朝に見つかった完全不活性の掘り起こしと積み込みだ。場所が近いし、せっかく面子がそろってるならついでに頼む、と」
「ついでって言ったって、今日の今日でそんな急に……」
「まあ何も準備がいるわけじゃない。それに当時の俺らなんかどうせ手足の数のうちでしかない若造だ。なのにあいつは、たった一人で軍の指揮官に盾突きやがった。ぶっ続けで作業をするのは危険だ、人間には休憩が必要だと」
「確かにそうですけど、勇気ありますね。埜岩に嫌われたら仕事が減るかもしれないのに」
「指揮官の方も民間人に強制まではできんが、当時はまだ労働基準なんかも曖昧だったからな。現場の裁量で予定よりも多くの作業を課すことは珍しくなかった。俺は余力もあったし、追加報酬はもちろん約束してくれたからむしろ続けたいとこだったんだが、面白いからあいつに加勢してみた」
思いがけず賛同の声を得た檜垣の方も、さぞかし面白かったろう。
「最終的には全員体力的にも問題ないってことでこっちが折れたんだが……全部終わって解散した後、補助士二人が俺らのところに来てな。勇気ある抵抗だったと称えられて、すっかり意気投合ってやつだ。日が暮れた野っ原で、いつまでも四人で取りとめのない話をした」
「へえー、そういう意味では貴重なひと声だったわけですね」
「まあな。一人で反対意見を述べるってのはリスクが高い上に無駄に終わることが多い。それでも相手や外野に聞かせることが何らかの意味を持つこともある。俺はそれをあいつから学んだ」
――腐れ縁、か……。
この世界の大先輩。憧れの二人の間をごく自然に流れる気負いのない友情は、一希には永遠に手の届かないもののように思えた。
男同士の絆と信頼。この二人はそれが特に強固なのかもしれないが、他の処理士や補助士たちの間にも、大なり小なり熱い結び付きがあるのではなかろうか。
そんな世界に加わろうとしている自分を今一度見つめてみる。異物として弾き出されないためには、平均的な能力レベルでは不十分だろう。周りに負けるわけにはいかない。意欲でも技能でも、そして体力においても。
夕方、自室に戻った一希はすぐにジャージに着替え、普段以上に熱心に筋トレに取り組んだ。