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爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第2章 修練の時
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探査見学


 対岸では、補助士が探査を進めていた。その光景は海外の映像で見る地雷探査を彷彿(ほうふつ)とさせるが、この国の不発弾探査で想定されるのは、まずオルダの子爆弾。あとはせいぜい、五百キロ未満のマリトンという爆弾がたまたま地中深くまで埋まらなかったケースだ。


 地雷とは異なり、人間の体重だけで爆発が起きる心配はまずない。ただし、掘り起こすときに振動や衝撃を与えないよう注意が必要になる。


 途中、ピーピーピーという電子音が(かす)かに聞こえた。補助士が新藤に声をかけ、自作したらしき蛍光オレンジの旗を立てる。十五分ほど経ってまた一箇所に旗。


 新藤は直接手は下さず、車にもたれたままだ。補助士が旗を立てて合図したときにだけ、手元のメモ帳に何か書き込んでいる。


 必ず二人以上で行うこと。探査機が反応した場所に目印の旗を立てること。そのおおよその位置を毎回記録すること。いずれも処理漏れを防ぐための措置。忠晴の死が(のこ)した教訓だ。




 その後、電子音のない時間が延々と続いた。


――そうだよね。本当の現場ってこんなもんだよなあ……。


 リアルタイムで改めて見れば、ひたすら地味な作業だ。ドキュメンタリー番組などでクローズアップされるのは、主に大型爆弾の緊迫感あふれる処理現場。それに憧れてこの世界を目指す者もいるが、処理士や補助士がそんな劇的な場面にばかり出くわすわけではない。


 実情は探査に次ぐ探査。資格と技術が必要な割には発揮するチャンスが少ないと、早川技術訓練校のOBたちもよく(なげ)いている。


 忠晴を失い、その発端が処理士のミスだと知ったとき、一希はもちろん恨みを抱いた。だが、こんな単調な作業を繰り返していれば、人間誰しも気が(ゆる)む。単に「各自で気を付けましょう」では危険だ。不発弾処理協会によるルール化は英断と言えるだろう。


 予定範囲の探査を終えた補助士が、自分の軽トラから防爆(ぼうばく)ベストを取り出して着け、ヘルメットをかぶってバイザーを下ろした。新藤も自分の荷台からそれらを出してきて同じ格好になる。


――いよいよ掘り出すってことね。


 一希は双眼鏡をかまえ直し、目を()らした。補助士が工具箱を()げ、新藤とともに旗のところに向かう。補助士は一本目の旗を外し、ひざまずいて新藤の目の前でそろりそろりと土を掘り始めた。


 掘り出された何かを新藤が受け取る。彼らの扱い方からして、あれは爆弾ではない。


――ただの鉄パイプ?


 こういう爆弾ではないものが探知されることもよくあると聞く。


 そしてもう一本の旗。同じように補助士がそっと土を掘る。二人して穴を覗き込んだ後、次の動きに移った。


 補助士が工具箱から何かを取り出し、掘った穴の上に覆いかぶさるような姿勢になる。おそらく爆薬をしかけているのだろう。つまり、今度こそ本物の不発弾が見つかり、この場で爆破処理することになったのだ。一希はつい身を乗り出す。


 導火線を引っ張ってたっぷりと距離を取り、爆破準備が整ったらしい。


――よし、いよいよ点火。


 離れてはいるが、一希にも緊張感が伝わってくる。


 導火線に火が点いた。一直線に反対側の(はし)を指す小さな炎。それを待ち受ける爆弾。


 思わず身がまえた。七歳のあの日に間近で聞いた爆発音は、何日もの間、一希の聴覚や平衡(へいこう)感覚を狂わせたものだ。


 まもなく、先ほど旗が立っていた位置で小さな炎と白煙が上がり、一足遅れてパン、という音。


――えっ、これだけ?


 こうもあっけないものか。距離があるというだけで、まるで別物だった。人一人を一瞬でバラバラに吹き飛ばす殺戮(さつりく)兵器とは思えない。こんなおもちゃみたいなもののせいで忠晴は命を落とし、一希は一生消えない傷を負ったのだ。新藤たちにはどのように聞こえているのだろう。




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