表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第2章 修練の時
25/114

菊乃


「んでも、まーさか女の子とはねえ。あいつも(すみ)に置けんわいな」


「あ、えっと、何というか、そういう個人的なあれは……全然ないですから、本当に」


 慌てて言い()えたが、


「そりゃあどうだか」


と、取り合わない。


「あ、そうだ、菊乃さん、腰の調子はどうですかって先生が」


 菊乃は手の甲でポンポンと叩きながら、


「こーれはもう、しょうがないのねえ、ときどきしくしくね」


「痛むんですか?」


「もう何年も。でーも、まだまだ歩けっからよ。逃げ切れると思いなさんな」


 勢いよく杖を振り上げる菊乃に、一希は噴き出した。


「新藤先生、よくいらっしゃるんですか?」


「いんや、ここんとこ、ちーとも。あたしほったらかし」


 すねる菊乃を、


「仲良しなんですね」


と冷やかしてやる。すると、唐突に菊乃がのけぞり、(のど)を鳴らして激しく息を吸い込んだ。何かの発作だろうかと一希は慌てたが、どうやら彼女流の笑い方らしい。馬のいななきのような笑い声をヒンヒヒンヒと響かせてようやく落ち着くと、勝ち誇ったように告げる。


「仲良しさあ、そりゃああんた、おっぱいしゃぶらした仲だもの」


――えっ⁉


 その光景を想像しそうになり、寸前で振り払う。まさかまさか。お婆さんが面白がって冗談を言っているだけに違いない。何しろ、新藤の母親は早くに亡くなっている。父親の隆之介がインタビューで公言していた。


 菊乃は一希を座敷に座らせると、壁を伝うともなしに軽く叩きながら裏の小部屋に引っ込み、慣れた手つきでお茶とお菓子を出した。


 腰を下ろすと、弟子入りの経緯や日々の居候(いそうろう)生活に始まり、一希の出身地や年齢、学歴、家族構成まで深々と掘り下げる。遠慮のない物言いには人によっては抵抗を感じるかもしれないが、一希にとってはむしろさっぱりと心地よかった。その点は新藤とも共通している。


 気付けば一時間以上も長居し、あやうく肝心のお菓子を忘れそうになってケラケラ笑われた。菊乃が匂いを頼りに自分で焼いているという自慢の柚子煎餅を一袋おまけしてくれた。




「先生、戻りました」


「おお」


「すみません、遅くなっちゃって。これ、買ってきました。お煎餅一袋はおまけですって」


「ということはお前の分だ」


 新藤は煎餅一袋を一希に渡し、残りの一袋をさっそく開けながら座敷の時計を見やる。


「随分と引き止められたな。まあ気に入られるだろうとは思ったが」


「楽しかったです。時間が経つのも忘れちゃいました」


「そりゃよかった」


 煎餅を一枚くわえて何やら分厚い本に目を落とした新藤に、


「菊乃さん、素敵な方ですね」


 探りを入れてみるも、


「素敵か。ものは言いようだな」


()()ない。


「電球は玄関に出しといてくれ」


 いつもの調子で言い、新藤は読んでいたものの続きに再び没頭した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ