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爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第2章 修練の時
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ぶかぶか


 翌日、一希はいつものジャージ姿で大机に待機した。


 新藤は十二時過ぎに帰宅し、入ってくるなり一希に向かって何やら包みを(ほう)った。不意を突かれたが、何とかキャッチする。


 透明のビニール袋。中身の明るいオレンジ色には十分見覚えがあった。


「作業服、ですか?」


「何か別のもんに見えるか?」


「いえ……」


「一五二センチなんてサイズはないそうだ。これが最小だと。それでも在庫はなくて取り寄せになったがな」


「あ、私……の⁉」


「それに着替えて半までには戻ってこい」


「はい。ありがとうございます!」


 部屋に駆け込んで興奮を(しず)めつつ、目の前のオレンジ色を見つめる。本物の作業服だ。夢にまで見たこの業界の象徴。粛然(しゅくぜん)とした思いで封を切る。


 さっそく着替えてみると、確かに(たけ)も幅も一希には大きい。(そで)と足元をたっぷり折り返さないと動きにくかった。


 土間に戻ると、新藤が露骨に顔をしかめる。


「やっぱ無理か……でかすぎるな」


「本当の現場に出るときには袖と(すそ)は確実に切らないといけませんよね。でも、普通に手を動かす分には何とかなるんで、今日のところは……」


 新藤は首を横に振る。


「だめだ。これならお前のジャージの方がまだましだ。着替えてこい」


「……はい」


 一希はつい、しゅんとする。


「特注はバカ高いからな。受験のときには買ってやる」


「わあ、本当ですか! ありがとうございます!」


 特注を手配させるとは我ながら()()()()だ。少しでも早く自分で稼げるようになって恩に報いるしかない。


「それまでは手持ちのジャージで我慢しろ」


「はい。あの、先生、これって私がいただけるものですか?」


「ああ、残念ながら返品はできんそうだ。一着だけにしといて正解だった」


「わかりました。ありがとうございます」


 このとき、部屋に戻る一希の頭には、ある考えが浮かんでいた。




 ジャージに着替え直した一希を待っていたのは、大きな爆弾の模型。住み込み前に遠隔操作を指示されたときとはまた別のタイプだ。


「ザンピードですね」


「ああ」


 海中に設置または投下され、主に船を標的とするいわゆる機雷(きらい)の一種。海に近いこの町では、これが誤って陸上に投下され不発弾となった例が高頻度で見つかる。この模型の全長は二メートルほどありそうだ。


「補助士になって最初のうちの実務といったら、探査か道具渡しだ。その時点で処理士たちにいい印象を植え付けておけば、後の仕事が格段に取りやすくなる」


 春休みにOB訪問をしたとき、処理士から指名を受けられると強い、という話は聞いている。逆に、あいつはだめだという噂が一度立てば大打撃を受けるはずだ。


「道具渡しはデトンとザンピードが中心になるから大体パターンは決まってるが、場合によっては機転も必要になる。まずは一個やってみよう」


「はい。よろしくお願いします」


 一希は気を引き締めた。いよいよ新藤の実技指導が始まるのだ。




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