クラスメイト
のどかなチャイムが、午前の授業終了を告げる。冴島一希はちょうど何度目かのあくびを噛み殺していた。
教本を読み上げるだけのつまらない授業。とっくに予習済みのことを単調な声で聞かされる身にもなってほしい。知りたいのは現場での実態なのに。
実をいうと、すべて独学することも考えていた。最終的に試験にさえ受かればいいのだから。
でも、訓練校に通うことで実習先を紹介してもらえるのは魅力だった。資格を取ってからも、同窓の先輩が面倒を見てくれる可能性がある。要するにコネ作りだ。ただでさえ女子というハンデがある中、みすみすチャンスを逃すわけにはいかない。
早川技術訓練校には、一希と同じ工業高校からも多くの生徒が入学している。女子の比率は高校時代よりさらに低い。中でも不発弾処理補助士養成科では、一希が初の女子生徒。
他の科には数人ずつ女子がいるらしいが、勉強そっちのけで婿探しをする娘もいると聞く。大抵は裕福な家の子だ。
学校側にも、女子は道楽気分というイメージがあるのだろう。教官たちが女子生徒に向ける目は、男子に対するものとは明らかに違っていた。
昼休みの学食。一希はクラスの男子たちを見つけて声をかけた。
「ねえ、ここいい?」
一瞬、戸惑うような沈黙があったが、高校で同級だった三上が隣の椅子を引いてくれた。
「ありがと」
席に着いて「いただきます」と言うなり、とんかつ定食をモリモリほおばる。そんな一希を眺め、一人が呟いた。
「授業中あんだけ食いついてきゃ、腹も減るよな」
「ん? あんだけって?」
「ほら、今日もやってたじゃんか。質問とか、訂正みたいのとか」
「ああ」
「教官ってそんなに現場経験ないだろうからさ。おとなしく教材通りにやらせてあげた方がいいんじゃないの?」
「うーん、でも、みんなわかるわけ? あれで」
「わかったふりしときゃいいんだよ、あんなもん」
「ほら、こないだの模型だってさ、持ってきただけって感じで、大して使ってなかったじゃない?」
「まあ、申し訳程度って感じではあったな」
「でも、学校じゃこれが限界なんじゃねえの?」
他の皆もうなずく。
「そうそう。現場出たらどうせ処理士に怒られるとこから始まるんだからさ。いやでも覚えるって」
一希たちが目指している「補助士」とは、不発弾処理士を補助する作業員。処理士になるには、まず補助士として実務経験を積む必要がある。
一希の出身校は、工業高校の中でも特に実習に強かった。それを三年間やってきたせいもあって、この訓練校の授業はもの足りない。しかも不発弾のこととなれば、幼い頃から関連書籍に触れてきた一希の好奇心は、もはや破裂せんばかりに膨れ上がっている。
学校が現役処理士の下での実習を世話してくれるのは、まだ数ヶ月先。それまで、理屈や一般論ばかりの教本を眺め続けるしかないのだろうか。
「それよりさ、そのジャージやめない?」
と、三上がこちらを指さす。
「えっ?」
一希が愛用している高校の指定ジャージ。胸に校章が入っている。
「とっくに卒業したんだし、もうちょい何か……色気とまでは言わないけどさ」
「朝、学校来る前にね、アルバイトしてるから。公民館のお掃除なんだけど、動きやすくて汚れてもいいとなると、ちょうどいいんだよね。ほら、三年しか着てないから大して傷んでないし」
「三年しかって」
皆は笑うが、一希は親なしの寮暮らし。貧乏性が染み付くのも仕方ない。
母が働いていた頃だって、贅沢ができる環境ではなかった。それに……。
あの事故以来、頼れる親戚も失った。縁を切られるのは無理もない。
まだたったの八歳だった忠晴は、爆弾好きな従妹と遊んでいるときに、爆弾に殺されたのだから。