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爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第2章 修練の時
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助手


 一希は当初、住み込みという言葉を重く受け止めていなかった。職員室で教官たちに笑われるまで、相手が男であることすら意識しそびれていた。


 資格を取ったらすぐに活躍できるよう、今のうちに現場のことをもっと知っておきたい。その意欲だけに突き動かされて、尊敬する処理士の自宅に押しかけ、間借(まが)りするに至った。しかし、蓋を開けてみればそれはまぎれもなく、男性と二人きりで暮らしをともにすることだった。


 洗濯一つ取っても、家族でもない男性の汗が()みた衣類に触れることに、最初は何だか申し訳ないような気分になった。一希自身は新藤に恩義も感じているし、これからお世話になることもあってか、不快感は()かない。だが、新藤の方はどうだろう。


 下着などは女性に洗われるのを本人がいやがるのではとも思ったが、それだけ残すのも失礼な気がする。しばし考えた末に思い切って洗ってみたところ、特に(とが)められはしなかった。


 しかめっ面のイメージが強い新藤だが、決して気難しくはないことがわかった。仕事以外のことは(おおむ)ねどうでもよいらしく、家事や雑用のやり方は一切一希に任された。洗濯物の畳み方や食器棚の中身の配置も、一希流を黙って受け入れている。


 一希が加わったことによる生活面の変化にも丸っきり頓着(とんちゃく)しない。それどころか、新藤が見せた意外なまでの順応性に一希はかわいらしさすら覚えた。


 洗面所の床に積まれていた汚れた衣類は一希が用意したかごに入れるようになったし、洗面台に無造作に横たえられていた歯ブラシも、一希が空き缶を持ってきて立ててやってからはそこに立てている。


 扉を半開きにしたまま小用を足す後ろ姿を見かけることも、三日目にはなくなった。それでいて便座だけはいちいち下げない辺りが、師匠としての尊厳を主張しているようで笑いを誘われた。


 一週間ほど()った頃、なぜかたっぷりと水を吸った上で(しぼ)られた下穿(したば)きが洗濯かごに放り込まれていた。何らかの事情で本人があらかじめ手洗いしたものだろうか。


 嫁入り前の娘としては、見てはいけないものを見たような気になるが、新藤はそういったことをちまちまと隠す男ではないらしい。単に忙しいだけかもしれないが、ある種の(いさぎよ)さは、一希の目には男らしく映った。




 洗濯物を取り込み終え、新藤のカレンダーに目をやる。


――今日は五時頃まで現場、だったよね。


 大抵どこかへ寄り道をしてから帰ってくるらしいから、帰宅は七時近くになるだろう。いつもこれぐらいの時間に帰ってきてくれれば夕食のタイミングも見計らいやすいのに。


 初日から薄々勘付(かんづ)いてはいたが、新藤の食事は非常に不規則だった。家で細々(こまごま)とした作業をしているときは、ごく短時間の休憩がてら簡単なものをつまむだけ。休憩のタイミングも決まっていないから、毎回温かいものを用意してやるのは難しかった。


 いずれ食べるだろうと台所のテーブルに数品出しておいてやれば、それが何であれ黙ってつつき、処理室か大机に戻っていく。しかし、一希も新藤から仕事を与えられているため決して暇ではない。


 油断して料理を出し忘れていると、冷蔵庫に直箸(じかばし)を突っ込んで慌ただしくおかずを(むさぼ)る新藤に出くわすことになる。そんな日々を経て、一希は自然と「冷めてもおいしいもの」を中心に献立を考えるようになった。




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