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爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第1章 弟子入り
18/114

就寝


 国民は当初、スム族の技術の再利用に抵抗を示した。


 スムは工業、科学、医療などあらゆる分野で圧倒的な技術力を誇る。しかし、法整備を待たず水面下で発明を進める彼らの貪欲(どんよく)さを、ワカ族は良く思っていない。加えて、兵器に使われていた技術なら再利用先も兵器だろうという誤解も障壁になった。軍は軍で、爆弾の解体はリスクが高すぎると懸念する。


 隆之介は各所に働きかけ、地道に賛同者を増やしていった。その末に民営化が実現されたのだ。


「解体したくても、軍にいちいち施設を借りるんじゃ大変ですよね」


「それもあるし、爆発の可能性が十分残ってる爆弾なんか、一刻も早く手放したいってのが普通の感覚だ。他に手段がないなら別だが、現場で爆破しちまえば(こと)は簡単だろ」


「確かに……」


「それをわざわざ大仰(おおぎょう)な照射装置を持ってって鎮静化して、一つひとつ丁寧に掘り出して、細心の注意を払いながらバラバラにする。客観的に見りゃ物好きもいいとこだ。部品はそれなりにいい収入源にはなるが、危険の程度に見合うと思うかどうかは本人次第だし、実際、数こなしてなんぼの世界だからな」


 つまり、数をこなせるスピードがなければ割に合わないことになる。




 新藤は黙々(もくもく)と部品の山を(くず)していく。いつもの流れなのだろう。迷うことを知らぬ両手が、まるで機械のように淡々と正確に作業を続ける。その手元はいつまで見ていても飽きることがなかった。


 そう、断じて飽きたわけではないのだが、いつしか一希の(まぶた)は重くなっていた。朝が早かったから、と心の中で言い訳するが、それは新藤も同じだ。


「あの、いつも何時頃お休みに……」


 時刻は十一時を回っていた。新藤は手を休めず、声だけを返した。


()()()なんて決まりはない。その時々だ」


 じゃあ今日は、と聞きかけたが、寸前で自制する。どうせうるさがられるだけだ。


 外殻(がいかく)が右、信管が左、ネジが手前、起爆心棒(きばくしんぼう)が……。


 部品を振り分ける新藤の手を凝視(ぎょうし)しているうちに、あやうく船を()ぎそうになる。と思ったら、もう漕いでいたらしい。新藤が手を止めてにらむ。


「あ、す、すみません。ちょっとボーッとしちゃって……」


「何の真似(まね)だ。我慢大会か?」


「すみません、本当に」


「すみませんじゃない。何の真似だと聞いてるんだ」


「いえ、何でもありません。もう大丈夫です」


「はったりはやめろ。眠いならなぜ寝ない?」


 それは、新藤の手を(わずら)わせておいて自分が先に寝るわけにはいかないからだ。しかし、新藤は一希が遠慮しているとは思いもよらないらしく、本気で困惑していた。


「あの部屋に何か足りないもんでもあるのか? 布団と枕とカバーはやったよな?」


「あ、はい、大丈夫です。全然足りてます。あの、お邪魔になってもあれなので、お言葉に甘えて今日はこれで失礼します。ありがとうございました。お休みなさい」


 ぺこりと頭を下げて退散する一希の目には、首をかしげながら作業に戻る新藤が映っていた。


 一希は寝る前に何かできることはないかと頭をひねり、新藤が夜食に食べる可能性を考えて豚汁を温めてやり、鍋のまま置いておいた。


 ようやく気が済んで(とこ)()いたときには、夜這(よば)いの可能性を心配することなどすっかり忘れていた。




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