共有財産
「お前、身長はいくつある?」
「はい?」
「背丈はどれぐらいだと聞いてるんだ。難しいか?」
「あ、一五二センチ、ですが……」
「ふーん」
一希が呆気に取られている間に、新藤は仕事に戻ったらしい。気付けば処理室の使用中を意味する赤いランプが点灯していた。
土間のカレンダーを見ると、今日の欄に漢字の「冴」、そして菱形で囲まれた「ス」の文字。「冴」は冴島が入居する日という意味に違いない。
菱形の「ス」は処理室で今やっている作業のはず。おそらくオルダ爆弾の一種であるストロッカの解体だろう。この壁のすぐ向こう側なのに見学できないのがもどかしい。
土間の棚の一角には、一希が扱う書類や文具を置くスペースが設けられた。「お前の棚」として与えられたそのエリアから、昼間説明を受けた新藤の作業記録ノートを取り出し、大机で広げてみる。
お世辞にも達筆とは言えない走り書きだが、内容はかなり几帳面に記録されていた。合同で作業をした処理士や補助士の名前と等級のほか、当日の天候、作業の所要時間、もろもろの特記事項。これを読むだけでも勉強になりそうだ。
しばらくすると、ガコン、と音がして処理室の扉が開き、新藤が現れた。
「あっ、お疲れ様です」
新藤は一希の方へちらりと視線を投げ、そのまま廊下に上がっていく。トイレかと思いきや、聞こえてきたのは引き戸の音。さては台所か。
行ってみると、台所のテーブルからおにぎりを立ち食いする新藤がいた。
「あ、豚汁温めましょうか?」
「いや、いい。すぐ戻る」
「もしかして、昼間私の相手をしてくださってたせいで作業が遅れてたりします?」
「お前の相手も予定の行動だ。要らん心配をするな」
あっという間におにぎり二つを平らげた新藤は、首を傾けて蛇口から直接がぶがぶと水を飲み、再び廊下に出ていった。
「あの、お風呂はいつ頃入られますか?」
「知らん。適当だ」
「適当……えっと、今晩はお入りに?」
「仕事が終わる時間にもよるな」
新藤はなぜそんなことを聞くのだと言いたげな様子で付け足した。
「沸かす必要はないぞ」
それはわかっている。長いこと沸かしていないのは昼間掃除をした時点で明白だった。ちゃんとしたシャワーが付いていたから、新藤は行水程度で済ませているのだろう。
「あの、すみません、お風呂のことなんですけど」
処理室の扉を開きかけていた新藤が面倒臭そうに振り向く。
「何だ?」
「私も、その、使わせていただいていいんでしょうか?」
新藤の太い眉が、これ以上ないほど中央に寄った。
「使わなきゃどうするっていうんだ? 銭湯にでも通うつもりか?」
「一応、そういう状況も想定してはいます」
新藤は盛大にため息をつき、上がりかまちを指した。
「いいか。ここからこっち側のものには勝手に触るな。例外はさっき作ったお前の棚と……電話とソファーだ」
「はい」
「そこの机は空いてればあっち半分は使ってかまわんが、俺が空けろと言ったらすぐ空けろ」
「はい」
「奥の四畳半はお前の部屋だ。中にあるものはお前の私物と見なす。逆にいえば、俺が必要とするものはお前の部屋に置いておくな、ってことだ」
「はい」
「座敷は戸が開いてるときは使ってかまわん」
「はい」
「他は全部、共有財産だ」
「えっ?」
「今言った以外の場所とそこにあるものは俺とお前の共有財産とする。それでいいか?」
「あ、はい……あの、ありがとうございます」
顔を上げたときには新藤の姿は扉の向こうに消え、赤いランプが点いていた。




