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爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第1章 弟子入り
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任命


 新藤は早くも部品の回収にかかろうとする。一希は食い下がった。


「せめて牽引(けんいん)側のセットだけでも……」


「もういいと言ってるだろ。悪いが、実技には最初から期待してないんだ」


「えっ? でも、設定しろって……」


土橋(どばし)の言う通りだな」


「土橋って……土橋先生、ですか?」


「ああ。お前がどんな生徒か、電話で聞いた。口答えばかりでいつまで()っても前に進まん奴だと嘆いてたぞ」


 確かに思い当たる(ふし)はあるが……。


「すみません、決して口答えしてるつもりはないんです。本当にわからなくて……単純なことならまだいいんですけど、ほら、例外とか変則的なこととか、いろいろあるじゃないですか。じゃあこういう場合はどうなんだろう、こないだのあれとは違うのかなあ、っていう純粋な不明点を確認したいっていうか……」


「お前にとっては純粋な疑問かもしれんが、誰も口にしない疑問をたった一人がぶつければ、『素直じゃない』とか『面倒な奴だ』と思われるのが世間じゃ普通なんだ」


 確かに、「細かいことは気にしなくていい」、「難しく考えるな」、と教師からたしなめられるのは小学生の頃からだ。疑問を放置できない自分の性質があまり普通でないことは、薄々(うすうす)自覚していた。


 新藤の目がまっすぐこちらを見る。そして、まさかの宣告。


「お前は向いてない。今すぐ中退しろ」


「えっ⁉ ちょっ、ちょっと待ってください!」


 慌てふためいた一希は新藤に駆け寄り、ぺこりと頭を下げた。


「すみません。これからはちゃんと……黙ってやります。質問もしないようにします……なるべく」


 すると、頭上から新藤の声が降ってくる。


「質問をするなと誰が言った?」


「え?」


()()()()(うと)まれると言っただけだ。あいにく俺は世間代表じゃない」


「はあ……」


 一希は理解しかねた。


「早川は悪い学校じゃないが、人間には向き不向きがある。お前にとっては時間と金の無駄だ。今すぐ辞めてうちに来い」


「え……今、何て?」


「お前の望みを叶えてやる」


「えっ? 本当ですか⁉」


「ただ働きの使いっ走りに任命する。感謝しろ」


「あ、でも、学校を辞めるというのは……」


「学校で学べることは全部俺が教えてやる。雑用の報酬の代わりだ。質問はしたいだけいくらでもしろ」


――えっ、……えっ?


 思ってもみなかった事態に、腰が抜けそうになる。


「ただし、俺の小間使(こまづか)いは忙しいぞ。公民館と食堂の仕事も辞めてもらう」


 そこではたと気付く。その二つが、今の一希にとっては収入のすべてだ。


「あの……先日、親の貯金なんて言いましたけど、実は大した額じゃなくて」


 よく考えたら、学校を中退するとなれば今の寮にも住めなくなる。


 新藤は麻袋を回収しながら、ついでのように言った。


「奥の四畳半を空けてやる。広くはないが、今が寮なら大差ないだろう」


「えっと、それって……」


――ここに住む、ってこと⁉


「贅沢はできんが、生活費は丸ごと面倒見てやる。その代わり、お前がやると言ったことは全部こなしてもらうぞ。荷物運びに片付け、帳簿管理、留守番、掃除、洗濯、お使い、だったな?」


――そんなに言ったっけ? すごい記憶力……。


「気に入らないなら無理にとは言わん」


「いえ、とんでもない! お願いします! やらせてください!」


「よし。まずは学校とアルバイトを辞めてこい」


「はい!」


 一希は、夢ではないのかと(まばた)きを繰り返した。望みを叶えるどころではない。はるかに上回る展開だ。


「よし、準備ができたら電話しろ」


 新藤はメモ帳に番号を書きつけ、ちぎって一希に渡した。


「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします!」


 新藤建一郎の電話番号。電話帳から控えてあるし、とっくに暗記してもいる。しかし、改めて本人の直筆(じきひつ)で受け取ることには予想以上の感慨があった。




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