表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第1章 弟子入り
10/114

テスト


 入った瞬間、目の前の光景に目を見張った。


 コンクリート造りの土間に、鉄の(かたまり)のようなもの。直径五十センチ、長さ二メートルほどあるだろうか。古峨江(こがえ)では幼稚園児でもこれが何だか答えられるし、その危険性を教え込まれている。


「あの、これ……」


「心配いらん。模型だ」


「一トン、ですか?」


「一応そういうつもりではある」


 スム族が投下したデトンの模型。実物大だが、目が慣れればはりぼてなのがわかった。これなら重さも大したことはない。


 しかし、信管などの可動部はなかなかリアルに再現されているようで、学校で使うちゃちな模型とは似ても似つかなかった。


 この模型を中心とし、(まくら)ほどの大きさの麻袋(あさぶくろ)が円状に配置されている。土嚢(どのう)に見立てているのだろう。


「土嚢の高さは実際には三メートル。このデトンは信管に問題があって遠隔抜きになるという設定だ」


――遠隔抜き……。


 安全化するには信管を抜く必要があるが、信管が長くて重い場合などは、途中で傾くと引っかかって抜けなくなる。そういうケースでは危険回避のため、仕掛けを使って離れた場所から操作する。


「遠隔設定をやってみろ」


「え? あ、私が、ですか?」


「他に誰がいるんだ」


「あ、すみません」


 やってみろと簡単に言うが、そういう手法の存在をかろうじて知っているだけで、まだ計算法や設定法を習ったわけではない。雑用のつもりで来た一希は、思いがけぬ展開にごくりと(つば)を飲む。


――これ、テストなんだ。新藤さんの……。


 助手になりたいならこれをやってみろと、チャンスをくれているのだ。


「見ての通り、危険性はない。ただし、すべてが本物で活性状態だという前提で作業しろ」


「はい」


 つまり、ちょっとした衝撃で爆発しうるという想定だ。


「その箱の中身は好きに使っていいぞ」


 麻袋のそばに、プラスチックの箱が二つ。中にはあらゆる道具が詰め込まれている。


「あの、本物だと思って、とおっしゃいましたよね?」


「ああ、そうだ」


「本物だったら、遠隔抜きを試みて、万一途中で信管割れとか、やっぱり抜けないとかで爆破に切り替えた場合、ここで爆破することになると思うんですが」


「そうだな」


「本当なら屋外で、風向きを確認して、半径一キロとかを立ち入り禁止にして、土嚢の周りにも防護壁を……」


「立ち入り禁止措置は済んでるという前提だ。環境、気象条件も整ってると仮定していい」


「あの、この状態からってことですか?」


「どういう意味だ?」


「仕掛けがもう組み立ての途中、に見えるんですけど」


 箱の中の部品は一見バラバラだが、二つ三つがすでに組み合わされているものや、中途半端に引っかかっているものもある。


「つまり?」


「たしか教本では、まず部品を一つひとつ確認するっていう……」


「必要な手順だと思うんなら実行したらどうだ?」


「はい。すみません、手袋をお借りしても……」


 箱の中には見当たらない。


「どんなやつだ?」


 摩擦と破片の両方に耐えれば一種類で済む。


「Bの……四十を」


「四十は今切らしてる」


「じゃあ、三十台のどれかで……あとベチレジンをいただけますか?」


「なるほど。コーティングして代用するってことだな」


「はい。まあ、時間はかかっちゃいますけど……」


「あ、四十あったわ。これ使っていいぞ」


 新藤が足元の段ボール箱から手袋を取り出し、一希はそれをはめる。


「あの、ちょっと気になることが」


「何だ?」


 一希は右手に滑車、左手にワイヤーを持ち、新藤に見せる。


「どうかしたか?」


「これ、たしか大陸またぎの組み合わせで使っちゃいけないんじゃ……」


 与えられた滑車とワイヤーの生産地が一致しない。これも教本での自習レベルの知識で、確信はない。


 新藤は後ろの棚から別の滑車のケースを取ってきた。


「これでいいか?」


「あ、あと……」


「何だ、まだ何か文句があるのか?」


「この信管って、抜いた後は廃棄ですか? それとも、何かこう、将来のための資料とかに……」


「抜きのセットアップと何の関係がある?」


「ワイヤーの長さがちょっと足りなさそうなので、破損が生じてもいいなら上から吊るのをやめて、抜けたまま落とす手もあるかなと……」


 新藤の肩がすっと下りた。


「もういい」


「えっ? ちょ、ちょっと待ってください。すみません、今始めますから……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ