08 スキル合体
「ねえねえ」
俺がスキルボードを見ていると、いつの間にかミスラがやって来ていた。キメラは未だ幻影と戦っている。
「下手に動くと危ないぞ。俺がそっちに行ったのに」
「その氷の近くの方が安全だから」
「氷?」
俺はヤギが魔法で作りだした氷の塊を見る。
確かに人一人は十分隠れるぐらいの大きさではあるが、隠れるだけなら周りに木だっていくらでも生えている。
「ヘビはね、獲物の体温を感じ取って位置を把握するんだよ。だから、氷の冷気に紛れてこっちの位置が分かりづらくなるはず」
「へー、物知りだな」
「えへへ、知ることは好きだから」
さすがは好奇心の神と行ったところか。しばらくはここが安全地帯になりそうだ。
「それでさ、さっき言ったこと覚えてる?」
「さっき?」
「スキルのステータスを見てみるってあれ」
そうだ。その話の最中で、キメラが現れたんだった。
「今のままだと、あいつ倒す前に私たちがやられちゃうよ」
「それは俺も思ってた。よし、少しでも可能性のあることはやってみよう」
俺は【サンダー】に【なんでもステータスオープン】を使用する。
するとスキル欄とは別に、もう一枚のステータスボードが宙に現れた。
「おお、スキルにもステータスオープンできるんだな」
名前:サンダー
系統:雷系魔法
属性:雷
有効属性:水・鉄
減退属性:地
スキル説明:
魔法で作った雷を対象に落とす下級魔法。主に攻撃に使用されるスキル。
消費魔力は少ないが、威力も最低クラス。使用者の魔力によって威力が上下する。
水や鉄は電気を通しやすいが、大地にはエネルギーを分散され効果が十分に発揮できない。
乾燥、低温の状況下で威力が若干上昇する。
ウィンド系、ファイア系、アイス系魔法及び各種剣技とスキル合体させることができる。
「うぅん、乾燥と低温で威力が上がると言っても、若干かあ……」
ヤギの魔法の氷を利用しても、どれほどダメージが増えるだろうか。
「ねえねえ。このスキル合体ってなんだろ?」
「スキル合体? ほんとだ、書いてあった」
威力、上昇というワードに魅かれて、下に書いてあった解説が目に入っていなかった。
でも本当に、スキル合体って何だ?
「ミスラもスキル合体がなんなのか知らない?」
「うん。初めて聞いた」
神族、それも知ることが好きな好奇心の神が知らないと言うことは、スキル合体とはやはり一般的な能力ではないのだろう。
「ウィンくんってウィンドもファイアもアイスも使えたよね! ね!」
「う、うん」
またミスラが顔を近づけてくる。
「せっかくだからさ、やってみようよ。スキル合体!」
「やってみたいのはやまやまなんだけど、スキル合体自体初めて知った能力だし、どうやって使っていいか分かんないよ」
「ウィンくん、私ね、ずっと自分に自信が持てなかったの」
「んえ?」
突然の告白に、俺は言葉を詰まらせる。
「持って生まれたのは好奇心なんてよくわからない加護の力で、逆作用能力も相手の目をくらましたり惑わしたりする力ばっかり」
「う、うん」
「でも、ウィンくんはそんな力も上手に使いこなして見せた。さっきは、君のおかげでアミルちゃんも無事に返すことができたんだよ」
「でも、やったのは目くらまし程度で」
「そう。それがすごいんだよ。私ではきっと役に立たないって思って、スキルを使いもしなかった」
【幻影の霧】も逃げるだけなら有効なスキルだ。でも、あの時使わなかったのは、そんな理由があったのか。
「だからね、君ならできるよ。絶対に!」
ミスラが真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。言っている内容は気休めでしかないのだが、彼女の口から発せられる言葉には、なんだかやれそうになる力が込められていた。
「うん……やらなきゃ、勝てないもんな」
スキル合体がどんなものか分からないし、それが成功しても勝てると決まったわけじゃない。でも、やらなきゃ絶対勝てない。
俺は覚悟を決めた。
「がぅぉぉぉぉ!」
幻影と戦い苛立ちが最高潮に達したと言わんばかりに、大気も震えるほどの咆哮をキメラは放つ。
「なんか、嫌な予感するね」
「ああ」
そしてそれはすぐに現実のものとなる。
ライオンは先ほどのように大きく息を吸うと、石化のブレスを吐き出した。
さっきと違うのは、それを何度も向きを変えて吐き出したことだ。
俺たちのいる方にもブレスを吐いてきたが、氷の塊のおかげで直撃は避けることはできた。
だが、氷の塊は岩に変わり果てる。氷がなくなったため周りの温度はみるみる上がり、ヘビの頭がこちらの位置に気付いてしまった。
「ウィンくん、私信じてるからね!」
そう言ってミスラは、短剣を抜いて元氷塊から飛び出した。
「しゃぁ!」
それに反応したのはやはりヘビ頭だ。魔法の霧を裂いて、ミスラに襲い掛かる。
「やっ!」
ミスラは頭を下げて毒牙をかわす。
霧はブレスですっかりかき乱され散ってしまっていた。しかし、ブレス乱射のせいでライオン頭は息を切らしている。
しかも特に何をやったわけでもないが、胴体がつながっているヤギの方も舌を垂らして荒い息を吐いている。
それに対しヘビの方は元気なので、胴体と尻尾は別の内臓で動いているようだ。
体力の残っているヘビは再三ミスラに攻撃を仕掛ける。ミスラはヘビの攻撃を短剣で捌いたりかわしたりしているが、胴体の方が体力を回復させたら完全に分が悪い。今のうちに、合体スキルを使ってみせなければ。
キメラ亜種の弱点は雷と風。【サンダー】と【ウィンド】を合体させられれば、与えられるダメージも増えるはずだ。
でもどうやって合体させるんだ? スキルを同時発動させる?
いや、複数のスキルを同時発動させるだけなら、高レベルの冒険者ならできることだ。それをわざわざスキルを限定して、合体とは書かないだろう。
それに合体の条件が同時発動なら、俺の技術ではできない。
雷と風、合体しろ、合体しろ、合体しろ……。
「あっ!」
ミスラが短い悲鳴を上げる。
見ると、石化した草につまづいて、動きが止まっていた。
その隙をキメラは見逃さなかった。
迫る毒牙。ミスラは一歩足を踏み出すが、かわすにはもう一呼吸遅い。このままでは確実に、ミスラはヘビの牙に捕らえられる。
「くそっ! でろ! 合体! 合体スキル! 【サンダーウィンド】!」
その瞬間、雷を纏った暴風がキメラに向かって放たれた。
「がぐぅおおぉぉぉぉう!」
「んぼばぁえぇえぇぇ!」
ミスラに向かっていたヘビもまた、電流と風の渦に巻かれて動きを止めていた。
スキル名は二つ合さっただけだが、明らかに効果が違う。
「わあわあわあ!」
ミスラは慌ててその場から離れる。もうちょっとスキルの効果範囲が広かったら、ミスラも巻き込まれていたところだ。
「すごい! ぶっつけ本番でここまでできるなんて、ウィンくん、すごいよ! 」
ミスラは驚きつつも喜びの表情を浮かべる。
だが、ミスラ以上に俺の方が驚いている。
本当にいきなりだった。いきなり、頭の中に今までにない知識が目覚めたのだ。
それは、新しいスキルを習得した時に近い感覚だ。理屈ではなく、もはや知識として頭の中に刻まれる。
魔導力学だとか小難しい理屈はいろいろとあるのだろうが、発動の仕方だけがはっきりと理解できるのだ。
「ぐ、がが……」
魔法の嵐が治まると、そこには暴風に体を切り裂かれ電熱に焼かれて煙を上げるキメラがよろめいていた。
明らかにダメージの色が濃い。【サンダー】単発とは、威力が段違いだ。
やった!
俺は拳を突き上げた。
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