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05 これで私たち、アステルだね!

 村までの道は緊張しっぱなしだ。後ろを何度も振り返り、キメラが追ってこないかを確認した。

 遠くから悔しそうな唸り声は聞こえてきたが、奴が姿を現すことはなかった。


 やがて村の入り口へと差し掛かる。村の男たちが、俺たちを待っているのが見えた。

 村の人達は緊張した面持ちで俺たちを迎えたが、アミルちゃんの姿を見て安堵に変わる。


「アミル! 森なんかに行っちゃだめだろぉ!」


 おじいさんが泣きながらアミルちゃんに抱きつく。


「ごめんなさい……でも、お薬ないとお父さんの傷治らないから……」


 そしてアミルちゃんは、少ししか取れなかったと申し訳程度の薬草を差し出した。この量だと、大怪我を治療するには遠く及ばない。


「お前が無事ならそれでいい。あいつだって、それを望んでる」


 おじいさんはアミルちゃんの頭を優しく撫でた。


 薬草と言えば。

 俺は村に置いておいた荷物入れから、午前中に取った分の薬草を取り出した。これだけあれば、大怪我でも一人分の治療には足りるだろう。


「助かりますが、これはあなたの収穫物では?」

「気にしないでください。結局、必要な人が使うことに変わりはないんですから」

「では、ありがたく使わせてもらいます。これは少ないですが代金です」


 お金を差し出すおじいさんに、俺はそんな物はいいと断ったが、孫も助けてもらった上にただでもらってはこちらの恥になると無理矢理お代を握らされてしまった。


 薬草を抱えると、おじいさんもアミルちゃんも俺たちに何度も頭を下げながら、家へと戻っていった。


 これでアミルちゃんの件は解決したが、根本的かつ一番大きな問題が残っている。


「あいつ、どうしようか」


 それはミスラも思っていたようで、小声で俺に話しかけてきた。


「逃げられたとはいえ、だいぶ村の近くまで来てたからな」

「だよね。きっと、追いかけてくるだろうね」


 ミスラの心配も当然だ。視力が回復したら、逃がした獲物を追ってくる可能性は大きい。


「それにしても、なんでこんな所にキメラなんて」


 ミスラは疑問を口にする。

 俺もそれは感じていた。


 キメラは合成獣。人間の手によって合成されたものがほとんどだ。

 たまに人間の元から逃亡したり捨てられたりと、何らかの理由で野生化するものもいる。キメラは他の種と交配することで、その種の特徴を取り入れた子孫を残すこともできる。

 とはいえ、キメラを合成できる技術力を持った人間や施設は限られているので、野生種だとしてもこのようなところに現れるのは珍しい。


「確かにそれも気になるけど、今は対処法を考えないと」

「そうだね。戦えるのは私たちだけだもんね」

「それはそうなんだけど、俺たち二人の戦力じゃ厳しいな」


 さっきは尻尾のヘビだけにやられそうになった。【フラッシュ】の目くらましは奇襲攻撃だ。二度目は通用しないだろう。残念だが、現状では二人だけで勝てる手が思い浮かばない。


「あの、もし戦うんだったら俺たちも」

「おう。木こり仕事で鍛えた身体だ。多少は役に立つと思うぜ」


 悩んでいる俺たちを見て、村の男連中が声をかけてきた。確かに逞しい体つきはしているが、あのキメラ相手じゃ犠牲者が増えるだけだろう。


「ありがとうございます。でも、私たちに任せてください」


 ミスラが笑顔で答える。根拠はないが、どこか頼もしく見える顔だ。


「そうですね。皆さんは、もしものために村の守りを固めてください」

「まあ、あんたらがそう言うならまかせるけどよ」


 俺もそれに続いて笑顔を見せた。ミスラほど上手に笑えなかったが、それでも村の人達には納得してもらえた。


 任せろとは言ったものの、さてどうしたものか。キメラ亜種の能力値を思い出すが、俺の攻撃やスキルじゃ、あいつの防御力を上回って致命傷を与える術がない。


「ねえ。もしよかったら、なんだけど」

「なに?」

「私のアステルに入らない?」

「アステル? 君、アステルに所属してるの?」


 なら、近くに仲間がいるかもしれない。アステルの団員なら強い人も多いだろう。これは希望が見えてきた。


「所属してるって言うか、私がアステルマスターなの」

「え!?」


 アステルマスターとは、神であるのと同義だ。自分をアステルマスターだと言った少女は、普通の女の子にしか見えない。アステルを束ねるような神だとは、まるで思えなかった。

 まあ、見た目だけならザンギルも人間と変わりなかったし、逆に人間が神を特別視し過ぎてるのかもしれない。


「じゃあ、他にもアステルの団員がいるんだね。その人達と一緒に戦えたら勝てるかもね」

「その……メンバーは私だけで……えへへ」


 ミスラは先ほどのように、困った顔で笑う。


「ああ、地上に降りてきたばっかりなのか」


 ザンギルも、降りてきたばかりの時はアステルのメンバーをかき集めていた。俺を団に誘うぐらいに。


「え、へへ……二年目……」

「え?」

「地上に降りてきてから、二年目なの……」


 二年目で、まだアステルメンバーがいない?

 そう言えば、思いだした。この二年間、アステルランキング不動の最下位、ハズレ女神のアステルの噂。

 ハズレスキルと呼ばれた俺は、勝手にハズレ仲間と親近感を持っていたが、こんな所で出会うとは。


「私が司るのは【好奇心】なんだけど」

「好奇心?」

「うん。アステルに入ってくれた人は前にもいたんだけど、加護の恩恵が全然ないってみんな他のアステルに移っちゃって」


 確かに刃物の神と違って、好奇心の神と言われてもどんな能力か想像しづらい。


「そのうちハズレ女神って噂が立っちゃって、加入してくれる人自体いなくなっちゃって」


 ハズレ呼ばわりだけじゃなく、境遇も俺と似似てるんだなあ。


「わかった。アステル入るよ」


 ここでハズレどうし俺たちが出会ったのも、運命なのかもしれない。ならば俺は、この運命に従おう。


「ほんと!? あ、でも、役に立たないと思ったら、すぐやめていいからね」


 ザンギルと比べると、なんと言う自信のなさ。ハズレハズレと言われ続けて、そうなっちゃったんだろうなあ。俺なら分かる、その気持ち。


「まあ、やめたりはしないけど、キメラを倒すには少しでも可能性を上げた方がいい」

「だよね、だよね! えへへ、じゃあ、契約しよ!」


 俺は自分のフルネームを教え、ミスラと手を重ねながら目を閉じる。


「我、【好奇心】の神ミスラ、汝、ウィン・ステレイト、交わりし運命の星の元、共に新しき道を歩まんことをここに誓う」


 ミスラが契約の言葉を唱えると、重ね合った手がぼうっと温かく光った。

 俺にとって二度目のアステル契約だが、ザンギルとの時とは契約の言葉が違っていた。ザンギルは「新しき道」の部分が、「戦いの道」みたいな言葉だった。

 司る事象によって、そこら辺は変化するんだろうか。でも、俺にとって「新しき道」の方がしっくりくる。


 それに、今回の契約の儀式の方がずっと温かみを感じた。


「ふぅ、これで契約完了。これで私たち、アステルだね!」

「これからよろしく」

「えへへ、こちらこそよろしくね」


 ミスラは満面の笑みで俺を見つめてくれた。

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