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45 見捨てられた人々を助けるために(第一部完結)

「う~ん」


 太陽の光を浴びて、ミスラが伸びをする。


「太陽を見ていないと、時間の感覚が狂うな」

「そうだね~」


 太陽は傾いてきているが、早朝に神域(ダンジョン)に入り、まだ日のあるうちに出てこれた。

 半日程度しか神域(ダンジョン)にいなかった割に、ずいぶんと久しぶりに地上に出た気がする。


「これが、外の世界なのですね」


 俺たちと一緒に神域(ダンジョン)から出てきたシルヴィが、興味深そうに辺りを見回す。

 生まれたばかりの彼女にとって、全てが初めて見るものだ。物珍しいと思うのも当然だろう。


「日が暮れる前に、一度シトゥマに戻るとするか」

「そうだな。今からなら、日のあるうちに戻れそうだ」


 俺たちはリーデに言われた通り、最寄りの町であるシトゥマへと戻った。

 魔法の明かりで照らした神域(ダンジョン)とは違い、日の光が溢れる地上は歩いていても緊張感はない。

 町へと戻る道のりも、シルヴィはあれやこれやを見ては、(感情は乏しいながらも)楽し気に声を上げていた。


 そして、シトゥマの町で一晩を過ごし、翌朝。


「私はこれを【灰の書】に届けてくる」


 リーデがマギニウムを掲げる。彼女が無事に届けてさえくれれば、完全に目的達成だ。


「じゃあ、ここでお別れだな」

「私たちが【灰の書】まで行くわけにはいかないもんね」

「協力者とはいえ、構成員でもない人間は連れていけないからな」


 【灰の書】は秘密主義だ。拠点は公にされていない。トビーのことは心配だが、俺たちがついて行けないのも仕方ない。


「その代り、トビーのこと頼んだぞ」

「ああ、それは任せておけ。私の方でしっかりと責任もって対応する」


 リーデのことだ、信用していいだろう。


「それと、オズのこともわかったら教えてね」

「ああ。奴はお前たちにも因縁のある相手だからな」


 トビーの件だけじゃない。キメラ亜種を野に放って、関係ない人を危険にさらした。あれは死人が出ていてもおかしくない状況だった。

 そんなことを平気でやってのけるような奴を、放っておけるか。


「ああ、あと、ギルドの方には依頼完了の報告を入れておく。町に戻ったら、報酬を受け取っておいてくれ」

「そう言えば、これってギルドから受けた依頼だったんだよね」


 すっかり忘れていたが、依頼と言う体裁でリーデから仕事を受けたのだった。


「リーデから報酬をもらうのは、気が引けるな」

「気にするな。依頼を出したのが私でも、報酬を出すのは【灰の書】だ」


 リーデがにやりと笑う。

 そういうことならば、ありがたく頂戴するとしよう。


「トビーやオズの件で、また会うこともあるかもしれない。それまで、元気でな」

「うん、リーデもね」

「すぐに会えるといいんだけどな」

「道中、お気を付けて」


 俺たちはリーデに手を振って、彼女と別れた。

 さあ、俺たちも懐かしの我が町へと帰ろう。




 それから数日、俺たちは無事に拠点である町に帰っていた。


「おいおいおい、【灰の書】から依頼完了の報告を受けてるぞ」


 ギルドに入った俺たちを迎えたのは、いつも嫌味な受付の親父だった。

 だが、今日はどうも態度が違う。


神域(ダンジョン)探索の依頼をこなすなんて、あんたら実はすごいアステルだったんだな」

「そんなすごいことはしてないよ」

「いやいや、そんな謙遜しなさんなって。神域(ダンジョン)探索だぞ?」


 まったく謙遜はしていない。探索と言っても、ジ・Aのおかげでほぼ迷わずにマギニウムを手に入れられた。最後の人型ゴーレムも、倒したのはシルヴィだし。

 まあ、全く危険がなかったわけでもないが、神域(ダンジョン)攻略したぞ! と胸を張って言うのも少し違う気がした。


「ん? その娘は新しいメンバーか?」


 俺たちの後ろで、ギルド内を見回すシルヴィを、親父が目ざとく見つける。

 ギルドにも行ってみたいと言ったので、連れてきただけで新メンバーと言うわけではない。


「まあそれはいいとして、これが今回の報酬になる」


 親父がカウンターに小さな袋を置く。

 小さいながらも、袋いっぱいに硬貨が入っているのは、外からでもわかった。


 報酬のためではないとはいえ、人助け優先で仕事自体が見つからないことが多い俺たちアステルには、正直ありがたい。


「今回の報酬、十万ドガだ。確認してくれ」

「はいはい、十万ドガね……え? 十万!?」

「いま、十万って言った!?」

「あ、ああ。なんだよ、聞いてなかったのか?」


 考えてみたら、報酬なんてもらえなくても当たり前ぐらいで考えてたから、いくらか聞いていなかった。


「あの、十万ガルドルというのは?」

「十万ガルドルって言ったら、俺たち三人が一年遊んで暮らしても、まだまだ余るぐらいの金だ」


 シルヴィに説明して、自分でも改めて額の多さに驚いく。

 俺は慌てて袋を開けると、中に入っていた硬貨は全て金貨だった。


 小さい袋だったのでそこまでの報酬は期待していなかったが、中身が全部金貨ならば十万ガルドというのもうなずける。


「すごいね……」

「ああ……いくらなんでも、もらいすぎだろう」

「なに言ってんだあんたら、神域(ダンジョン)探索の依頼ならこれぐらいはもらって当然。相場で言えば、ちょっと安いぐらいだ」

「そうなのか?」

神域(ダンジョン)内部で手に入れたお宝を、依頼主とどう分配するかでも結構変わってくるけどな」


 思い返せば、リーデはマギニウム以外の宝は特に興味を示さなかった。【マギグラディオ】も、結局俺がもらっちゃったしな。

 マギニウム以外の物は俺たちがもらっていいってことで、相場より少し安かったのか。


「それで、あんたら次の依頼は決まってるのか? よかったら俺がお勧めの仕事まわしてやるよ。ほら、この街じゃ珍しい、貴族からの依頼があるんだ」


 今までとの態度が信じられないぐらい、親父は積極的に俺たちに仕事を進めてくる。だが。


「いや、俺たちはそう言う誰もがやりたいような仕事じゃなくて、誰からも見向きもしてもらえない仕事をしたいんだ」

「そうだね。本当に困ってる人。お金が無くて依頼もできない人達のお願いを」


 俺たちはきっぱりと言ってやった。


「な、なんだそりゃ? 【灰の書】の依頼を受けたとか、神域(ダンジョン)探索を成功させたとか言えば、金やポイントになる仕事がわんさか入ってくるんだぞ?」

「だから、俺たちを動かすのは金やポイントじゃない」

「うん。私たちは困った人達のために動く」

「こんな方たちだからこそ、ワタシもついて行くと決めたのです」


 親父は全然わからないといった風に、ぽかんと口を開いたままだった。

 別に、誰かにわかってもらいたくてこういう仕事の選び方をしているわけじゃない。俺たちがしたいから、しているのだ。


 まだどこかで、依頼も出せずに困っている人がいるはずだ。そんな人を探すために、俺たちはギルドを後にした。

 そう、見捨てられた人々を助けるために。




<第一部 完>

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