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44 神よりも永い時を生きるということ

 光球は、じわじわと前へと進んだ。

 バチバチとスパークしながら赤い光を押し返していく。


「すごいすごい! このまま押しきっちゃえ!」

「はい、ミスラ」


 光球は少しずつ加速して、なおも前に進み続けた。


「!? !?」


 人型ゴーレムも足を踏ん張りながら体を前に倒す。どうにか押し返そうと、対抗しているのだろう。

 だが、光の球の前身は止まらない。人型ゴーレムまで、あと数歩というところまで迫る。


「いける!」


 みなそう確信したが、人型ゴーレムは最後の底力を見せた。


「! !! ! !」


 人型ゴーレムの背部がバクンと開く。

 開いた個所がギュゴゴと音を立てて、周りの空気を取り込み始めた。


「! ! !」


 光線を発射するガラス玉が、より一層赤く輝く。


「これは」


 光球と光線の接触面から発するスパークがより一層激しくなったと思うと、光球の前進が止まる。

 赤黒い光線は、先ほどの倍以上の太さになっている。その分威力も増したようだ。


 今度は光線が押し返す。今や光球は、シルヴィとゴーレムの中央辺りまで戻されてしまっている。


「大丈夫、シルヴィ?」

「はい。ワタシも全力を出します」


 シルヴィはそう言うと、広げていた左右の腕の幅を縮める。


「!?」


 腕の幅が縮まるにつれ、再び光球の前進が始まった。


「どーん」


 掛け声とともにシルヴィが両腕を前に押し出す。今まで少しずつ前進していた光の球が、一気に加速した。


「! !?」


 光球が光線を引き裂きながら、スピードを上げていく。

 今度ばかりは人型ゴーレムも押し返すどころではない。


「! ! ! ガジッ!」


 人型ゴーレムは光球に飲まれ、断末魔の替わりに短いノイズを立てる。

 光球はそのまま止まることことなく、通路の奥へと飛んで行った。


「う……」

「わぁ……」


 後の残されたのは、人型ゴーレムの両手と両足の先端部分だけだった。

 あれだけ頑丈だった第六世代の装甲が、光に触れた部分は全て消し飛ばされてしまっていたのだ。


 その威力に、俺たちは意味のある言葉が出ない。


 呆然とゴーレムの残骸を見ていると、通路の向こうから閃光が走った。


「なんだ!?」


 ドォォォォン!


 少し遅れて轟音も響く。

 さっきの光球が、壁にでもぶつかったのだろう。


「あぶない」


 シルヴィが障壁を張った直後、爆風が通路を駆け抜けていった。


「ありがとう、助かったよ」

「あ、でも、もう無理です」

「え?」


 シルヴィの言葉通り、前面に張られたバリアが力なく点滅する。


「爆風に備えてください」

「備えろって言われて」


 俺が言い終わる前に、バリアはふっと消えてしまった。


「もって、うわわ!」


 遮るもののなくなった俺たちを、、突風が襲う。腕で顔を覆いながら、身を低くして風をやり過ごす。

 少しでも気を抜けば体ごと飛ばされそうになったが、幸い風はすぐに止んだので、大事には至らなかった。


「大丈夫だったか?」

「うん、大丈夫」

「問題ない」


 ミスラもリーデも体を起こし、服に着いたほこりを払う。


「ごめんなさい。私の力不足でした」


 シルヴィが頭を下げた。


「いや、シルヴィがバリアを張ってくれなきゃ、もっとひどい目に合ってたよ」

「そうそう。シルヴィの方こそ大丈夫?」


 ミスラが、シルヴィの乱れた髪を整えながら尋ねる。


「はい。体に以上はありませんが、先ほどのアイン・ソフ・アウルで体内エネルギーの七割を消耗してしまいました」

「それって大丈夫なの? また眠っちゃったりしない?」


 もしそうなったら、二本分のマギニウムはもう残っていない。

 それにジ・Aもいない今、俺たちだけじゃシルヴィの起動方法が分からない。


「通常稼働には支障はありません。ですが、戦闘状態では最大出力の三分の一程度しか出すことができないでしょう」

「アインなんとかとか、バリアも使えないってことか」

「マギニウムを外部から補充すれば、すぐに再使用可能になりますが」


 俺はリーデの手に持たれたマギニウムに目をやった。

 もし、どうしても必要というならば、渡すしかない。


「あくまで、アイン・ソフ・アウルをすぐにまた使うなら、です。今の残存魔量だけでも、百年以上は通常稼働できるので、それをいただかなくても大丈夫です」


 俺の意図を読み取ったのか、シルヴィがフォローをする。

 まあ、こんな敵とそうそう何度も戦うことになるわけないしな。


 それに、シルヴィは普通の女の子として生きてほしいと言うのがジ・Aの願いだ。戦うこと自体、無縁の生活を送らせてあげなければ。


「百年か……普通の神の寿命だとしたら、短いな」


 神の寿命は人間の十倍。だとしたら、リーデが言うように百年では短い。

 ジ・Aの言い残した普通の女の子として生きてほしいとは、普通の『神』の女の子として、と言う意味だろう。

 彼の遺志に応えるとしたら、やはりマギニウムを与える必要があるのだろうか。


「それも、残存魔力だけで稼働するなら、という話です。ワタシは内部に発魔炉を内包しています。

「はつまろ?」

「はい。ワタシの稼働中は、この発魔炉が魔力を生産し続けます」

「なに!? そんな機能が……?」


 シルヴィの説明に一番食いついたのはリーデだった。

 ゴーレムにあまり詳しくない俺でも、魔力を生産し続ける機能がすごいことは分かる。俺より知識のあるリーデには、さらに衝撃的な情報のようだ。


「なので、発魔炉が破損しない限り、ワタシは稼働し続けることができるのです」

「すごい……」


 ミスラが声を漏らす。

 それも無理はない。シルヴィの言葉通りなら、彼女は半永久的に生き続けることができると言うわけだ。それは、神よりも永い時を生きるということ。


 それだけの寿命を持つシルヴィと、人間の俺が一緒にいられるのは、彼女にとっては束の間だけだ。その間に、彼女にどれだけのことをしてやれるだろうか。


「ですから、みなさんは気になさらなくても大丈夫です」


 シルヴィの声は、相変わらず感情を組み取りづらかったが、少しだけ明るく聞こえた。


「もうすぐ出口も近いです。先を急ぎましょう」

「そうだね」


 さすがにその後は、ゴーレムに襲われることもなく、十分もしないうちに、俺たちはシルヴィの案内を受けて無事外に出ることができた。

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