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42 あなたたちの世界が見にいきたいです

「これからなんだけど、シルヴィはどうする? 私たちに付いてくるか、それともここに残るか。どっちを選んでも、私たちはシルヴィの考えを尊重する」


 考えてみたら、シルヴィがここに残るという選択肢もあったんだ。

 やりたいことを見つける手伝いをするとか言っちゃったけど、もしここに残るって言われったらどうしよう。

 俺とミスラも、いったんここに留まるべきだろうか。


「ワタシは、あなたたちに付いて行きたいです。あなたたちの世界が見にいきたいです」


 シルヴィは即答した。俺たちとしても、そう言ってもらえればありがたい。


「ならば、早々にここから出よう。私も、このマギニウムを届けなければならないからな」

「そうだね。トビー君も待ってるし」


 そう。俺たちの本来の目的は、マギニウムを【灰の書】に渡し、トビーや他の人体実験の犠牲者を元に戻すこと。

 しんみりと、感傷に浸っている暇はない。


「はい。ワタシもここを出ます」

「それなら、準備をしないとだね」

「準備、と言いましても、ワタシにあるのはこの体だけです。このまま出てもらっても大丈夫ですよ」


 俺たちはシルヴィのために持っていける物がないか、全ての部屋を一通り探す。

 ステータスオープンを使って調べてみると、ジ・Aがシルヴィのために残したという小箱が見つかった。


 来たるべき時に開くと説明書きされていた小箱を持って、俺たちはこの隠し部屋から出ることにした。


「お父様。シルヴィは、みなさんとともにここを出て、外の世界で生きていきます。ワタシが何をしたいのか、何をするべきなのかはまだ分かりませんが、それが見つけられるよ見守っていてください」


 シルヴィは少しだけ部屋の中を振り返ると、吹っ切れた表情で俺たちの後へと付いてきた。


神域(ダンジョン)から出ると言ったものの、ここがどこだかわからないな」


 大通りまで戻ってきて、リーデが唸った。

 落とし穴にはまった時点でマッピングどころではなかったし、その後はジ・Aの案内で歩きまわったりで、もはや方向感覚もない。


 【なんでもステータスオープン】を使って、地道に出口を探して歩くか。


「それなら、ワタシに任せてください」


 長丁場になりそうだと思ったが、シルヴィが一歩前に出た。


「出口までの道のりがわかるのか?」

「はい。ワタシには、この島の地図が記録されています。最寄りの出口まで案内します」

「それは助かるな」


 ジ・Aがシルヴィに与えた最低限の知識には、この島の地図情報も含まれていたのか。

 俺たちはシルヴィの案内で、出口に向かって歩きだした。


 これならすぐに出られるだろう、などと思っていたのは甘かった。

 二十分ほど歩いて到着した出口は、落下の際に埋もれてしまって地上へと出られなくなっていた。


「こんなことになっているとは、想定していませんでした。すみません……」


 シルヴィは申し訳なさそうに頭を下げる。


「シルヴィのせいじゃないよ」


 すかさずミスラがフォローした。

 地図のデータはこの島がまだ空の上にあった時のものだろうからな。強いて言うなら、運が悪かっただけだ。


「しかしこの様子だと、どの出口がまだ生きているかわからないな」

「一個一個潰してくとなると、時間もかかるけど、それしかないか」

「だったら、私たちが入ってきた出口からでるのは?」


 ミスラの提案に、なるほどと頷く。

 俺がステータスオープンで調べた時に、名前が出ていたはずだ。でも、調べた直後に落とし穴にはまってしまって、俺は何番出口かすっかり忘れている。


「確か、十八番出口だったよね」


 名前を表示できたのなんてほんの一瞬だったのに、ミスラはよく覚えていたな。


「十八番出口はどうだ? ここから遠いか?」

「そうですね……ここまでと同じペースで歩けば、三十八分と言ったところでしょうか」


 それぐらいなら全然許容の範囲内だ。

 俺たちは全会一致で十八番出口を目指すことにした。


 ライトで照らしながら、通路を歩く。ジ・Aが片づけたようで、ここの通路にも残骸や白骨は落ちていない。これだけの範囲を片付けるのに、彼一人でどれだけの年月を費やしたのだろう。


 時に何か起きるようなこともなく、三十分ぐらいは歩いた。

 そろそろ外に出られると思ったが、正面からガチャガチャとこちらに向かってくる音が聞こえてくる。


「またか……」


 俺たちは剣に手をかけ、警戒体勢をとった。

 通路の奥を睨みつけていると、そこから現れたのは第六世代、人型ゴーレムだった。


「よりによって、一番厄介な奴が出てきたな」


 俺たちもさっきの戦いで消耗している。暴走状態じゃないことを祈るばかりだ。


 だが次の瞬間、俺のその期待は脆くも打ち砕かれた。

 接触するまで二十歩以上距離があると思っていたが、人型ゴーレムはその間をほんの二歩で詰めてきた。


「はやいっ!」


 リーデは何とか反応して剣を抜いたが、俺は状況すらつかめていなかった。


「てい!」


 リーデは人型ゴーレムに突きを喰らわす。

 その一撃は鋭かったが、人型ゴーレムは手首を返し、手の甲でリーデの剣を弾き飛ばした。


「なっ!?」


 その流れで、人型ゴーレムはリーデの胸に掌底を当てる。


「かはっ、あ、はっ」


 リーデは息苦しそうに呻くと、数歩後ずさってどさりと倒れた。

 俺たちの中で一番の接近戦力であるリーデが、たったの一撃で沈められた。こんな奴を、俺とミスラで止められるのか。


「……」


 人型ゴーレムは格闘の構えを取りながら、こちらに向きを変える。

 隙がまるでない。同じ第六世代でも、さっきのゴーレムとは動きが段違いだ。


 こいつはおそらく、戦闘情報が欠落していない。本来のパワーに格闘技術が合わさった強敵。

 完全な第六世代は、ここまで強かったのか。

 ここまできて、あともう少しで外に出られるというのに、俺たちは外に出られないのか!?


「ウィンくん」


 ミスラを見ると、緊張した面持ちで剣を構えている。

 だめだ、俺がこんな弱気でいちゃ。

 この通路なら大技も使えるはず。ウィンド系の合体スキルで吹き飛ばしてやる。


「!」

「がっ!」


 だが、俺がスキルの発動をするより早く、ゴーレムの拳に殴り飛ばされていた。

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