38 何度でもやるぞ!
俺は再び魔力の刃を構成する。
「危ない、ウィンくん! 【アイス】!」
「え!? うおっ!」
ミスラの声に、俺はのけぞり距離を取る。ブンと風を切り、金属の拳が目の前をかすめていった。
ミスラが牽制してくれなければ、顔面を殴りつけられていただろう。
攻撃力500。まともに喰らえば一撃で戦闘不能、下手をすればあの世行きだ。
クリーンヒットだけは避けなければ。
「ていっ! たぁっ!」
そんな相手にも、リーデは肉薄して戦い続ける。
彼女は怖くないのだろうか。
いや、怖くてもやるしかないんだよな。
俺は甘えていた自分の気持ちに活を入れ、人型ゴーレムに斬りかかった。
「うおおおおぉ!」
自分の中の恐怖を振り払うように、雄叫びを上げる。
その勇ましさとは裏腹に、俺の一撃はまたも受け止められてしまった。
しかし、今回はこれが狙いだ。
人型ゴーレムは握った剣ごと俺を振りまわそうと力を込める。
その瞬間、俺は魔力の供給を止めた。
一気にに抵抗がなくなったため、ゴーレムはよろける。
強靭な足腰で踏ん張るのでそれも一瞬だが、リーデはその隙を見逃さなかった。
「でぇい!」
人型ゴーレムの肩に、再び大振りの一撃が叩きこまれる。
それでも奴の外装は固い。未だに傷はつけられていない。
「何度でもやるぞ!」
リーデが俺と目を合わせる。瞳には力強い光が宿っていた。
一回二回いい攻撃が入ったぐらいで、倒せる相手でないのは分かっていたことだ。
俺もこんなことぐらいで折れてるわけにはいかない。
俺は三度魔力の剣を構成した。
人型ゴーレムが俺の攻撃を受けようとしたり、剣を掴んで力を込めた時に刃を消してバランスを崩させる。その隙にリーデが強力な一撃を見舞う。
これが奴と戦うために俺が考えた作戦だ。
作戦というと大げさだが、ジ・Aがインプットされたこと以外は対処できないと言っていた通り、人型ゴーレムはその後も何度だって同じ手に引っかかってくれた。
ガギィン!
リーデの剣が肩に叩きこまれる。これで六回は当てたはずだ。
普通の人間が相手ならば、六回全てがクリーンヒットになっていい一撃だった。
「ここまで硬いか!」
普通の人間ではないゴーレムは、いまだ健在。傷もつかなければ動きも鈍っていない。
さすがのリーデも、言葉に苛立ちが混ざる。
無理もない。魔力剣を使った俺のフェイントにかかっているとはいえ、こちらの攻撃などものともせずに強力な一撃を返してくるのだ。
攻撃が当たらなくても神経がすり減らされる。
ミスラが要所要所で気を逸らせてくれるので、かわせている攻撃も多い。
こちらは疲労が出始めているのに、ゴーレムの方は体力切れが無いのだから厄介だ。
このままじゃ、俺たちの方が先に音を上げることになる。
「これで、どうだぁ!」
リーデが七回目の斬撃を入れる。
人型ゴーレムから、ガギョっと今までとは違う音がなった。
肩口をよく見てみると、わずかだが傷が付いている。
同じ場所を根気強く狙った成果が出た。
「まだ浅い!」
確かにまだ小さな傷だが、これで希望が出てきた。
そこに気の緩みが生まれたのだろうか。人型ゴーレムの手刀が、リーデの剣を弾き飛ばした。
「しまっ」
体勢を立て直すよりも早く、人型ゴーレムの拳がリーデに迫る。
「うおぉぉ!」
俺は横っ飛びでリーデに飛びついた。
二人してごろりと転がる。
「いてて、大丈夫かリーデ」
「ああ、すまない」
攻撃はなんとかかわせたようだ。
だが、リーデの下敷きになった形の俺は、すぐに動けない。
ミスラも攻撃スキルを仕掛けるが、奴はそちらに見向きもせずに俺たちへ迫ってくる。
「リーデ、これを使え」
「ああ」
リーデの方がすぐに立ち上がれる。俺はリーデに魔力剣を渡した。
「使い方は」
「大体わかる。任せろ」
リーデは言葉通り、魔力の刃を簡単に生成してみせた。
「はっ!」
リーデは立ち上がりざまに人型ゴーレムに斬りかかる、と見せかけ刃を消し去る。
「!?」
手刀を空振りした人型ゴーレムは、一歩余計に踏み込んだ。
その横を素通りし、背後からリーデは剣を振り下ろす。
ガチガチガチっと金属音と破裂音が混ざったような音が鳴る。見れば、ゴーレムの肩から火花が散っていた。
「やった!」
思わずミスラが声を上げる。
だがまだ致命傷ではない。痛みも感じていない人型ゴーレムは、リーデに向き直り拳を振りまわした。
俺たちに背中を向ける人型ゴーレム。肩に大きな傷が開き、内部の部品が見えていた。
「これならどうだ、【サンダー】!」
魔法の雷が人型ゴーレムに降り注ぐ。
ゴーレムは、がくがくと震えた。明らかに今までとは違う反応。
それでもサンダー一発では沈まない。
今度は俺へと向かってくる。
「私のことも忘れるな!」
背後でリーデの上位雷スキルが炸裂する。俺のサンダーなんかとは比べ物にならない放電が、人型ゴーレムを襲った。
「!? !!」
人型ゴーレムは大きく震えながらも、リーデへと向き直る。
しかし、今までの素早い動きではない。もはや隙だらけだ。
「おおおお!」
俺はリーデの剣を拾い上げ、肩の傷口に差し込んだ。
「これで最期だぁ!」
ゼロ距離からの渾身の【ボルトスラッシュ】。
電撃が人型ゴーレムの内部に直接迸る。
必死にもがくが、すでにダメージが蓄積していたようだ。俺を振り払うほどの力が出せていない。
電撃が治まるころには、体から煙を上げてピクリとも動かなくなっていた。
「や、やった……のか……?」
俺たちは油断なく人型ゴーレムを取り囲む。
しばしの沈黙が流れるが、ゴーレムは立ち尽くしたままだ。
「やったね! やったんだよ!」
ミスラが喜びの声を上げる。
そこでようやく、俺もリーデも深く息を吐いた。
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