表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/45

38 何度でもやるぞ!

 俺は再び魔力の刃を構成する。


「危ない、ウィンくん! 【アイス】!」

「え!? うおっ!」


 ミスラの声に、俺はのけぞり距離を取る。ブンと風を切り、金属の拳が目の前をかすめていった。


 ミスラが牽制してくれなければ、顔面を殴りつけられていただろう。

 攻撃力500。まともに喰らえば一撃で戦闘不能、下手をすればあの世行きだ。


 クリーンヒットだけは避けなければ。


「ていっ! たぁっ!」


 そんな相手にも、リーデは肉薄して戦い続ける。

 彼女は怖くないのだろうか。


 いや、怖くてもやるしかないんだよな。

 俺は甘えていた自分の気持ちに活を入れ、人型ゴーレムに斬りかかった。


「うおおおおぉ!」


 自分の中の恐怖を振り払うように、雄叫びを上げる。

 その勇ましさとは裏腹に、俺の一撃はまたも受け止められてしまった。


 しかし、今回はこれが狙いだ。

 人型ゴーレムは握った剣ごと俺を振りまわそうと力を込める。

 その瞬間、俺は魔力の供給を止めた。


 一気にに抵抗がなくなったため、ゴーレムはよろける。

 強靭な足腰で踏ん張るのでそれも一瞬だが、リーデはその隙を見逃さなかった。


「でぇい!」


 人型ゴーレムの肩に、再び大振りの一撃が叩きこまれる。

 それでも奴の外装は固い。未だに傷はつけられていない。


「何度でもやるぞ!」


 リーデが俺と目を合わせる。瞳には力強い光が宿っていた。

 一回二回いい攻撃が入ったぐらいで、倒せる相手でないのは分かっていたことだ。

 俺もこんなことぐらいで折れてるわけにはいかない。


 俺は三度魔力の剣を構成した。


 人型ゴーレムが俺の攻撃を受けようとしたり、剣を掴んで力を込めた時に刃を消してバランスを崩させる。その隙にリーデが強力な一撃を見舞う。

 これが奴と戦うために俺が考えた作戦だ。

 作戦というと大げさだが、ジ・Aがインプットされたこと以外は対処できないと言っていた通り、人型ゴーレムはその後も何度だって同じ手に引っかかってくれた。


 ガギィン!


 リーデの剣が肩に叩きこまれる。これで六回は当てたはずだ。

 普通の人間が相手ならば、六回全てがクリーンヒットになっていい一撃だった。


「ここまで硬いか!」


 普通の人間ではないゴーレムは、いまだ健在。傷もつかなければ動きも鈍っていない。

 さすがのリーデも、言葉に苛立ちが混ざる。


 無理もない。魔力剣を使った俺のフェイントにかかっているとはいえ、こちらの攻撃などものともせずに強力な一撃を返してくるのだ。

 攻撃が当たらなくても神経がすり減らされる。

 ミスラが要所要所で気を逸らせてくれるので、かわせている攻撃も多い。


 こちらは疲労が出始めているのに、ゴーレムの方は体力切れが無いのだから厄介だ。

 このままじゃ、俺たちの方が先に音を上げることになる。


「これで、どうだぁ!」


 リーデが七回目の斬撃を入れる。

 人型ゴーレムから、ガギョっと今までとは違う音がなった。


 肩口をよく見てみると、わずかだが傷が付いている。

 同じ場所を根気強く狙った成果が出た。


「まだ浅い!」


 確かにまだ小さな傷だが、これで希望が出てきた。

 そこに気の緩みが生まれたのだろうか。人型ゴーレムの手刀が、リーデの剣を弾き飛ばした。


「しまっ」


 体勢を立て直すよりも早く、人型ゴーレムの拳がリーデに迫る。


「うおぉぉ!」


 俺は横っ飛びでリーデに飛びついた。

 二人してごろりと転がる。


「いてて、大丈夫かリーデ」

「ああ、すまない」


 攻撃はなんとかかわせたようだ。

 だが、リーデの下敷きになった形の俺は、すぐに動けない。


 ミスラも攻撃スキルを仕掛けるが、奴はそちらに見向きもせずに俺たちへ迫ってくる。


「リーデ、これを使え」

「ああ」


 リーデの方がすぐに立ち上がれる。俺はリーデに魔力剣を渡した。


「使い方は」

「大体わかる。任せろ」


 リーデは言葉通り、魔力の刃を簡単に生成してみせた。


「はっ!」


 リーデは立ち上がりざまに人型ゴーレムに斬りかかる、と見せかけ刃を消し去る。


「!?」


 手刀を空振りした人型ゴーレムは、一歩余計に踏み込んだ。

 その横を素通りし、背後からリーデは剣を振り下ろす。


 ガチガチガチっと金属音と破裂音が混ざったような音が鳴る。見れば、ゴーレムの肩から火花が散っていた。


「やった!」


 思わずミスラが声を上げる。

 だがまだ致命傷ではない。痛みも感じていない人型ゴーレムは、リーデに向き直り拳を振りまわした。

 俺たちに背中を向ける人型ゴーレム。肩に大きな傷が開き、内部の部品が見えていた。


「これならどうだ、【サンダー】!」


 魔法の雷が人型ゴーレムに降り注ぐ。

 ゴーレムは、がくがくと震えた。明らかに今までとは違う反応。


 それでもサンダー一発では沈まない。

 今度は俺へと向かってくる。


「私のことも忘れるな!」


 背後でリーデの上位雷スキルが炸裂する。俺のサンダーなんかとは比べ物にならない放電が、人型ゴーレムを襲った。


「!? !!」


 人型ゴーレムは大きく震えながらも、リーデへと向き直る。

 しかし、今までの素早い動きではない。もはや隙だらけだ。


「おおおお!」


 俺はリーデの剣を拾い上げ、肩の傷口に差し込んだ。


「これで最期だぁ!」


 ゼロ距離からの渾身の【ボルトスラッシュ】。

 電撃が人型ゴーレムの内部に直接迸る。


 必死にもがくが、すでにダメージが蓄積していたようだ。俺を振り払うほどの力が出せていない。

 電撃が治まるころには、体から煙を上げてピクリとも動かなくなっていた。


「や、やった……のか……?」


 俺たちは油断なく人型ゴーレムを取り囲む。

 しばしの沈黙が流れるが、ゴーレムは立ち尽くしたままだ。


「やったね! やったんだよ!」


 ミスラが喜びの声を上げる。

 そこでようやく、俺もリーデも深く息を吐いた。

閲覧ありがとうございます!


ブクマ、評価をいただければ、とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ