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37 魔力剣【マギグラディオ】

 ゴトン。


 体に走った衝撃に、リーデは思わずマギニウムの入った筒を落としてしまう。

 ガラス張りの筒はそれなりの強度があるのか、落としたぐらいでは割れなかった。


「大丈夫?」

「あ、ああ、少し驚いただけだ」


 リーデは筒を拾い上げる。


「どうだ?」

「え?」

「だから、魔力の巡回は正常になったか?」

「今ので治る物なのか?」


 リーデは少し考えてから、魔力を練り上げた。

 体中から、白い靄のような物が立ち昇る。


「これは……魔力が体を巡っていく……」

「うむ。少し強引だが、マギニウムの高質量魔力を流して、断絶している魔力の回路を繋げてやったのだ。ただこの手段は使いすぎると逆に回路を傷つける恐れもあるから、そうそう何度も使えんのだがな」

「戦えるようになったなら、今はそれでいい」


 そういうことは先に説明しといてくれと思うが、リーデはあまり気にしていないようだ。

 体に魔力を流し、自分の動きを確認している。


 ガァン!


「きゃっ!?」


 けたたましい音を立てて扉が破壊されたのは、その直後のことだった。

 リーデはマギニウムの筒をジ・Aに渡すと剣を抜く。俺もミスラもそれぞれに戦闘態勢を取った。


「だぁ!」


 先制攻撃を仕掛けたのはリーデだ。

 剣に魔力を込め、大上段から振り下ろす。


 人型ゴーレムが腕で受け止めると、ガギっとおよそ生物では立てないような音が響く。

 リーデは続いて切りかかる。先ほどとは打って変わって、全ての動きが早く力強い。


「俺たちも加勢するぞ!」

「うん!」


 完全状態に戻ったとはいえ、リーデの攻撃は全て人型ゴーレムに弾かれてしまっている。数値からも分かっていたことだが、やはり強い。


「【アイス】!」


 ミスラが足元を狙い凍り付かせる。だが、人型ゴーレムは難なく一歩を踏み出した。

 絶魔素材とやらのせいで、下位スキル程度ではスキルそのものがかき消されてしまうようだ。


「ならば、【ボルトスラッシュ】!」


 剣技の合体スキルで切りかかる。

 キメラ亜種のヘビの鱗さえ切り裂いた、必殺の一撃だ。


 ガイン!


 人型ゴーレムはいとも簡単に、手の平で受け止める。派手な音は立てたが、まるで無傷だ。


「合体スキルでも無理なのか……」

「相性の問題もある。雷と斬撃はやつの耐性属性だ」


 リーデが指摘した通り、【ボルトスラッシュ】は雷と斬撃の合体スキルである。効果が大幅に軽減されてしまうのも仕方がない。

 だが、俺の持っているスキルは、どれも一般的な属性の物ばかり。火、水、雷、風といった基本属性に加え、斬撃にまで耐性を持つ相手では、有効的な組み合わせが見つからない。


「【ボルトスラッシュ】!」


 なんとか力押しで少しでも傷がつけられないかと、もう一度斬りかかる。外装に傷が付けば、そこから電撃を流し込むこともできるかもしれない。

 だが、二発目の斬撃は、人型ゴーレムにしっかりと掴まれてしまった。


「うわ!?」


 剣を握ったまま振り回される。

 反対の腕ではリーデの相手をしているのに、なんてやつだ。


「手を放せ!」

「くぅ!」


 リーデの言葉に反応し、俺は剣から手を放す。

 振り回されていた反動で後ろに吹き飛ばされたが、あのまま柄を握りしめていたらリーデに激突していただろう。


 バキィ!


 奴の手の中にあった剣は、あっという間に握りつぶされる。


 すぐにでもリーデの援護をしたかったが、俺は丸腰になってしまった。とてもではないが、素手で戦える相手ではない。

 あれに直接つかまれたら、骨だって砕かれてしまう。


「ふむ。おぬし、面白い技を使うの。これを使ってみい」


 後方で戦いを見守っていたジ・Aが、俺に金属製の筒を渡してきた。

 マギニウムが入っていた筒とはまた別の物で、片手で握れる程度の大きさだ。


「これは?」

「魔力剣【マギグラディオ】だ」

「魔力剣……て、なに?」


 剣と言うわりに、ただの筒にしか見えない。俺は片側に開いた穴を覗き込む。


「おっと、そこから魔力が出るから、覗いちゃいかんぞ」

「言ってる意味がよくわからないんだけど」

「うむ。それは、魔力に物理的な性質を与える装置だ。簡単に言えば、魔力を刃にする剣であるな」


 さらによくわからなくなった。

 刃を魔力で覆って強度を補強するという技術は、リーデも使っている。俺がさっき使った【ボルトスラッシュ】も、似たようなスキルだ。

 だが、魔力そのものを刃にする?


「ほれ、柄の横の部分に丸い印があるだろ、そこに指を当てて魔力を流してみるのだ。あ、さっきも言ったが、先端の穴は覗いちゃいかんぞ」


 ジ・Aの言う通り、筒の側面には丸い印が描かれていた。そこに親指が当たるように握りこむと、魔力を放出して筒に流し込んでみる。

 ヴゥンと音がして、筒の先端から白い光が伸びた。


「これが魔力の剣……すごい、けど」


 光は棒状で、あまり刃のようには見えない。

 しかも、少しでも魔力の供給を止めると、刃は消えてしまった。


「まあそれなら折られることもあるまいて。長々と説明してる時間もないし、あとは使って慣れるのだな」


 ミスラが魔法で援護しているとはいえ、リーデもだいぶ苦戦している。もっと使い方を調べたかったが、そんな時間は無いな。


「ありがとう、使わせてもらう」


 俺は戦線に復帰し、リーデに集中している人型ゴーレムに上段から切りかかった。


 がしぃ!


 しかし、完全にこちらを向いていなかったにも関わらず、人型ゴーレムは先ほど同様俺の一撃を手の平で受け止める。


「まずい!」


 すぐに剣を引こうとしたが、またも刃を握りこまれてしまう。

 せっかく新しく武器を手に入れたばっかりなのに、また手放さなきゃいけないのか。

 いや、待てよ。この刃は確か。


 俺は振り回される前に、魔力の供給を止めた。


「!?」


 俺からの魔力の供給が絶たれたため、棒状の刃が消える。

 握りこんでいた刃が突然消えたため、人型ゴーレムはバランスを崩した。


「てやぁ!」


 その隙を逃さずに、がら空きになった肩にリーデが剣を振り下ろす。

 一撃は見事に肩を捉えた。ガッキと金属音を立てる。それでも傷が付いている気配はなかった。


「やはり頑丈だな!」


 リーデは悔しそうに叫んだ。

 だが俺の中では、目の前の強敵と戦うための手段がおぼろげにだが見えてきていた。

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