36 なんでドアノブ回して入ってこないんだろうね?
「【なんでもステータスオープン】!」
俺は迷わず人型ゴーレムの情報を開示する。
名前:ゴーレムSLV61型
種族:ゴーレム族
性別: -
攻撃:400
防御:500
魔力:150
魔防:500
敏捷:380
弱点属性: -
耐性属性:火(強)・水(強)・雷(強)・風(強)・木(強)・斬撃(強)
なんて能力値だ。魔力以外すべての能力が高すぎる。能力値だけならば、上級冒険者をはるかに超えてるぞ。
それに、第四世代ゴーレムみたいな、条件付き弱点属性すら無い。さらにこの耐性の多さ。どうやって戦えって言うんだ。
他に有益な情報はないだろうか。
ゴーレム紹介:
ヤツマヤ製第六世代型ゴーレム。
人間を模して制作された、大戦時の最先端機。
すべてにおいての性能が、以前までの機体を上回る。
外装の一部に絶魔素材であるミスリルガムを採用したため、様々な属性への耐性に加えて、外付け型集放電機関ような弱点もなくなった。
ここまでの高性能ゴーレムは他に類を見ないものの量産性に乏しく、最終的に七台が稼働するにとどまる。
また、骨格の様々な部分で人間を模しているために、関節を逆に曲げる、回転させるなどの特異な動きはできない。
第六世代ゴーレム開発は、この後に続く第七世代制作のためのデータ収集の側面もあり、活動面での汎用性を犠牲にして、より人間に近い構造を取ることとなった。
当機はジ・Hの軍勢との戦闘に投入され、その性能で多大な戦果を挙げた。
だが、ジ・Hによる魔導ハッキングを受け、当時開発中の第七世代ゴーレム奪取の命令を受ける。
隠し部屋にこもった清掃用ゴーレムSLV‐C3型 ジ・Aカスタムと第七世代ゴーレムを発見することができぬまま、ジ・Hの肉体が滅んで魔力が途絶。
部分的な情報初期化が起こり、現在は暴走状態にある。
「……強いうえに、弱点らしい弱点は無いな」
「量産性が乏しいとかは直接の戦いに関係ないし、関節が逆に曲がらないって、生き物なら当然のことだもんね」
「こうなったら、高火力のスキルを叩きこんで破壊するしかないようだな」
高火力スキルと言っても、魔法系の合体スキルだと効果範囲が広すぎて室内では使いづらい。
剣技系の合体スキルで攻撃を仕掛けたいが、まず相手の能力値が高すぎて当てるまでに苦労しそうだ。
「リーデの魔力はどうだ?」
「まだ本来の半分程度しか魔力を廻せていない」
完全回復しても足止も難しい相手だがな、と最後に付け加える。
リーデが難しいならば、俺には到底無理なことだ。
「むむ、おぬし、魔力の体内循環がうまくいってないようだな」
「ゴーレムの残骸持ち上げるのに、許容量以上の魔力を廻したからな」
誰のせいだと言わんばかりの口調でリーデは答える。
「それなら少し待っているがよい」
ジ・Aは慌てる様子もなく、マギニウムを保管しているという部屋へと入っていった。
その間にも、扉をめきめきと捻じ曲げながら人型ゴーレムは中に入ってこようとしている。
「少し疑問に思ったんだけど」
「どうした、ミスラ?」
「せっかく手があるのに、なんでドアノブ回して入ってこないんだろうね?」
「あ、確かにそうだな」
あそこまで人間に模した造りにしたのならば、ドアノブを回すなんて動作は当然できるはずだ。
それをあんな力技でこじ開けようなんて効率が悪すぎる。まあ、今はその効率の悪さのおかげで時間が稼げているのだが。
「ステータスには、ジ・Hのハッキングが原因で機能が初期化されたと書いてったから、そのせいじゃろ」
いつの間にか戻ってきたのか、ジ・Aが俺たちの後ろに立っていた。
「当たり前のように動いているゴーレムだが、それはあらかじめ物の使い方や命令をインプットさせているからだ」
「インプットする?」
ミスラとリーデは納得しているように頷いているが、俺には聞きなれない言葉だ。
「情報を取りこませる、とでも言うのかの。他人に説明するとなると、難しいことであるな」
「うぅん。わかったようなわからないような」
「そうだの。ドアはノブを回して開けるという情報をとりこませて、ゴーレムは初めてドアを開けられるようになる」
「でも、ドアってノブまわして開けるタイプだけじゃないよな」
「そうだの、引き戸の開け方はわからんままだ。その場合は、引き戸の開け方を個別にインプットしてやらなければならない」
「それはいちいち面倒だな」
「そう思うであろう?」
ジ・Aは、俺の言葉に待ってましたと言わんばかりに返してくる。
「そこでワガハイの開発した」
「なにを長々話している。それよりも、あいつをどうにかするのが先決だろう」
しかし、ジ・Aの話はそこでぶった切られた。
リーデの言うことはごもっともだ。
よくよく見ればかなり厚い金属製のとびらだったが、もうぐにゃぐにゃにへし曲げられている。
奴が室内に入ってくるのも時間の問題だった。
「おお、そうだそうだ。ほれ、これを使え」
ジ・Aはガラス張りの円筒をリーデに手渡した。
片手で持つには少し大きな筒。中は銀色の液体で満たされている。
「これは、マギニウム!」
リーデが驚きの声を上げた。
これが俺たちの探し求めていたマギニウムなのか。
「それを、こう持つのだ」
「こうか」
リーデはジ・Aに指示されたとおりに、筒の両端に付けられた金属部品をそれぞれの手で掴む。
「ほれ、いくぞ」
「んあ!?」
ジ・Aが筒にアームを伸ばすと、バチっと音がして、リーデの体に緑色の魔力の稲妻が走った。
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