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35 まだ生まれていないと言うべきであるな

 ジ・Aは隠し部屋があるという通路へ向かったはずだ。

 どこに行ったかわからなくなったら厄介だと心配したが、ジ・Aは通路に入って少しの所で壁に向かって何かをしていた。


「おい、ジ・A!」

「どうしちゃったの!?」


 俺たちが声をかけても、やはり反応がない。


「おい」


 もう一度声をかけようとした時、ピーと音が鳴り、ジ・Aの目の前の壁が横にスライドした。あれが隠し部屋の入り口か。

 ジ・Aは俺たちを気にもせず、吸い込まれるように隠し部屋へと入っていく。


「あの慌てようからすると、何かを思い出したようだな」

「みたいだけど、心ここにあらずだな。とにかく追いかけよう」


 俺たちも隠し部屋へと思った矢先、後ろからバキンと音が聞こえてきた。


「も、もう氷が溶かされたのか!?」


 いくらなんでも早すぎるだろうと、後ろを振り返る。

 人型ゴーレムの姿はまだ見えなかったが、バキバキといやな音だけは聞こえてきた。


「ウィンくん、リーデちゃん! 壁が!」


 今度はなんだと向き直ると、隠し部屋の壁が閉じ始めているではないか。


「ゴーレムよりこっちだ!」


 俺たちは急いで隠し部屋へと駆けこむ。ギリギリのところだったが、三人とも壁が閉まり切る前に入ることができた。


「部屋、ではなさそうだな」


 壁の奥は短い通路になっていた。すぐ奥には扉がある。

 ジ・Aの姿は見えないので、すでに扉の向こうに行ってしまったのだろう。


「ジ・A、いるのか?」


 俺たちは慎重に扉を開けた。

 扉の奥は広い部屋になっていた。机やいすなどの家具は置いてあったが、それも最低限で部屋に物自体が少ない。

 しかし、部屋の中にジ・Aはいなかった。


 部屋をさらによく見てみると、奥にさらに部屋があるらしく、すでに扉が開いていた。


「おぉ、シルヴィ……」


 奥の部屋からは、ジ・Aの声が聞こえてくる。

 あの部屋に、ジ・Aが思い出した何かがあるのか。


 俺たちは、そっと奥の部屋を覗いてみた。

 部屋の中にはジ・A。そして、不思議な形の棺に眠る一人の少女。この少女が、ジ・Aの言っているシルヴィなのだろうか。


「ジ・A」


 俺たちは、部屋へと足を踏み入れた。


「なにやつ!」


 ようやく俺たちの声に反応して、ジ・Aは体ごと振り返る。


「俺たちだよ」

「むむむ、おお、おぬしたちであったか」

「おぬしたちであったか、じゃないよジ・A。いきなり大声上げて走り出すから、私たち心配したんだから」

「そうであったかな? すまんすまん」

「それで、その娘は?」


 楕円形で全面が透明なガラスのような物で覆われている、斜めに立てられた棺。その中に、白い髪の少女が横たわっている。


「この子は、ワガハイの娘、シルヴィである」

「娘!?」


 ゴーレムに子供? と思ったが、ゴーレムのジ・Aは神であるジ・Aの記憶をコピーしているわけだから、本来のジ・Aの娘ということか。


「その娘は、まだ生きているのか?」

「まだ生きている……いや、まだ生まれていないと言うべきであるな」

「どういうことだ?」


 ジ・Aからの答えは難しくて、俺たちの頭に「?」が浮かぶ。


「あ、もしかして」


 その意味に最初に気が付いたのがミスラだった。


「なるほど、七型というやつか」


 続いてリーデも思い当たる。


「じゃあ、この娘はゴーレムなのか?」


 そう言われても、目の前の少女はとてもゴーレムとは思えなかった。

 さっきの人型ゴーレムも十分人間らしかったが、こちらは最早別物だ。手足や顔といったパーツだけではない。皮膚も髪も、見ただけではまるで人間だとしか思えなかった。


「……その問いには答えられん」


 短い沈黙ののち、ジ・Aは答えた。


「この子は、ワガハイの生まれてこれなかった娘だ」

「生まれて、これなかった?」

「うむ。かつてワガハイにも妻がいた。娘を身籠った時に、ちょうどたちの悪い流行り病に侵されてな。妻は完治したのだが、娘は……」


 神も子を生すし、病気にもかかる。人間よりも長命だし、もっと特別な存在かと思っていたが、そんなに俺たちと変わらない存在なんだな。


「それで、その子をゴーレムで?」

「他者からしてみれば所詮はゴーレム。娘になどなりえないと言うであろう。だが、ワガハイにとっては、この子は紛れもなく娘なのだ」


 俺は父親ではないので、その気持ちはわからない。だが、誰か大切な相手を失ったら、ゴーレムでもいいからこの世界にいてほしいと思うようになるのだろうか。


「でも、その子はまだ未完成なんでしょ?」

「未完成とは言っても、あとは起動だけである。マギニウムを投入して起動作業さえしてしまえば、シルヴィは誕生する」


 そこまで作業が完了してたのに、記憶が限界を迎えてしまっていたのか。なんとも不運な話だな。


「隠して保管してたマギニウムは、シルヴィのための物だったんだな」

「それだ、マギニウムの保管量はどうなのだ? 我々も、マギニウムが必要なのだが」

「それなら心配ない。シルヴィの起動に使用しても、いくらか余剰分が出るはずだ」


 それを聞いて、俺たちは胸をなでおろす。ギリギリしかなかったとしても、奪っていくわけにもいかないし。


「それで、マギニウムはどこに保管しているんだ?」

「うむ。それならこちらにある」


 ジ・Aは車輪を転がして、ひとつ前の部屋へと戻る。


「こっちだ」


 ジ・Aが向かう先には、もう一つ扉があった。急いでいたので、最初この部屋に入った時に気が付かなかったようだ。


 ガァン!


 ジ・Aが扉に手をかけた時、凄まじい音が室内に響いた。

 音のした方向を見ると、部屋の入り口の扉が激しく歪んでいる。


「あいつ、ここまで来やがったのか」


 あの分厚い氷を砕いてきたのか、歪んだ扉の隙間から、人型ゴーレムの無機質な顔が覗いていた。

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