34 シルヴィ!
普段のリーデなら、ジ・Aを抱えてでも十分な距離を跳べただろう。
だが、さっき残骸を動かす時に魔力を使い果たし、まだ回復していない。
素の状態でも瞬発力は並の人間よりも早かったが、金属製のジ・Aを軽々モテるほどの力は出せなかったようだ。振り下ろされた人型ゴーレムの拳が、その体をかすめる。
「くぅっ」
バランスを崩したリーデは、ジ・Aを抱えたままごろごろと転がった。
「大丈夫か?」
「あ、ああ、引っ掛けただけだ」
リーデはジ・Aを起こすと、すぐに剣を抜いて人型ゴーレムを睨みつけた。
「なんであいつは襲ってきたんだ? ゴーレムを管理する機能も不具合が出てるのか?」
「うむ? むむむ……?」
ジ・Aに聞いてみても、唸るばかりで返事がない。リーデと転がった衝撃で、いよいよ壊れてしまったか?
「く、とぉ、この」
その間にも、人型ゴーレムはリーデに襲い掛かっていた。拳と蹴りで、魔力の使えないリーデを圧倒している。
それにしてもあのゴーレム、なんとしなやかな動きなのだろう。今までに見たゴーレムで、ここまで人間と遜色ない動きをした物はなかった。
「ウィンくん!」
ミスラに名前を呼ばれて、見入ってしまった自分に気が付く。
すぐに合体スキルの準備をしなければ。
だが、六本足ゴーレムより小さいうえに、動きが早い。【アイスウォーター】を使おうにも、狙いが定まらない。下手にスキルを打ったら、リーデに当たってしまう。
「【ウィンド】!」
見かねたミスラが、突風で人型ゴーレムの足止めをする。今のうちに合体スキルを。そう思ったが。
「ぜんぜん、動きが止まらない!」
下位スキルとはいえ、それなりの風圧はある。しかし、人型ゴーレムはまるで意に介さず、リーデを攻め続けた。
力もスピードも人間よりも遥に上なのは、リーデとの戦いを見るだけでわかる。魔力による身体強化をしなければ、勝つどころか対等の勝負もできない相手だ。
このままでは、リーデがやられてしまう。
「ジ・A、もう一回管理の書き替えをやってくれ!」
「う、うぅ、ううぅ! シ……シルヴィ……」
だが、ジ・Aは俺の言葉にまるで反応しない。それどころか、今の状況が目に入っていないようだ。
「うわあぁ! なぜだ、なぜこんな大事なことを忘れておったのだ!」
「じ、ジ・A!? 落ち着いて!」
ミスラが手を伸ばすが、それよりも早くジ・Aは先の通路へと走り出してしまった。
「シルヴィ! シルヴィぃ! うわあああぁぁ!」
「!!」
叫びながら奥へと走っていくジ・Aに、人型ゴーレムの注意が逸れる。そのタイミングを見逃さずに、リーデは距離を取った。
「今だよ、ウィンくん!」
「お、おう!」
ジ・Aの身に何が起こったのかはわからないが、まずは目の前のこいつをどうにかするのが最優先だ。俺は両手を突き出し、スキルを発動する。
「【アイスウォーター】!!」
水流と冷気が、同時に人型ゴーレムに直撃した。
こうなったらこっちの物だ。冷気に当てられた水流が、瞬時に氷へと変わっていく。
「やった!」
凍り付いていく人型ゴーレムを見て、ミスラは歓声を上げた。
「!! !?」
人型ゴーレムがこちらに注意を戻した時には、すでに手遅れだ。水流から逃れようともがこうとしたが、体の半分は氷の塊に飲み込まれ、辛うじて右腕が動かせる程度の状態だった。
ここまで凍ってしまえばあとは時間の問題。スキルが終息したころには、全身が氷の中に閉じ込められていた。氷が溶けるまでは、こいつも動けない。
これだけの氷が溶けるのに、どれだけの時間がかかるかはわからないが。
「ふぅ、危ないところだったね」
「怪我はなかったか?」
「ああ。私は問題ない。だが……」
リーデは通路の奥へと目をやる。ジ・Aが走っていった先だ。
相当の慌てぶりだった。それに、シルヴィとはいったい……。
やつの身に何が起こったのだろう。
「追いかけるか」
「うん、そうだね」
この場であれこれ考えていても仕方がない。俺たちは、この場を離れようとした。
その時、人型ゴーレムを包んだ氷の塊から、しゅうっと音が鳴った。
「なんの音?」
不審に思ってよく見ると、氷から湯気が立ち昇っている。
「まさか、あのゴーレムが?」
俺は急いで氷のステータスを調べる。
なんと言うことだ。ステータスには、内部から高温で溶かされていると書かれていた。
「やばい! あいつ、氷から出てくるつもりだ!」
もう一発【アイスウォーター】を使って、さらに凍らせるか。それとも、氷から出てきたタイミングで、別の合体スキルを喰らわせるか。
「その大きさの氷だ。まだすぐには出てこれないだろう。私も万全ではないし、ここは一度離れたほうがいい」
「そうだね、ジ・Aも心配だしね」
確かに、ジ・Aの様子は尋常ではなかった。リーデの魔力の回復も待ちたい。
俺たちはリーデの提案を受けて、先にジ・Aを追うことにした。
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