表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/45

34 シルヴィ!

 普段のリーデなら、ジ・Aを抱えてでも十分な距離を跳べただろう。

 だが、さっき残骸を動かす時に魔力を使い果たし、まだ回復していない。

 素の状態でも瞬発力は並の人間よりも早かったが、金属製のジ・Aを軽々モテるほどの力は出せなかったようだ。振り下ろされた人型ゴーレムの拳が、その体をかすめる。


「くぅっ」


 バランスを崩したリーデは、ジ・Aを抱えたままごろごろと転がった。


「大丈夫か?」

「あ、ああ、引っ掛けただけだ」


 リーデはジ・Aを起こすと、すぐに剣を抜いて人型ゴーレムを睨みつけた。


「なんであいつは襲ってきたんだ? ゴーレムを管理する機能も不具合が出てるのか?」

「うむ? むむむ……?」


 ジ・Aに聞いてみても、唸るばかりで返事がない。リーデと転がった衝撃で、いよいよ壊れてしまったか?


「く、とぉ、この」


 その間にも、人型ゴーレムはリーデに襲い掛かっていた。拳と蹴りで、魔力の使えないリーデを圧倒している。

 それにしてもあのゴーレム、なんとしなやかな動きなのだろう。今までに見たゴーレムで、ここまで人間と遜色ない動きをした物はなかった。


「ウィンくん!」


 ミスラに名前を呼ばれて、見入ってしまった自分に気が付く。

 すぐに合体スキルの準備をしなければ。


 だが、六本足ゴーレムより小さいうえに、動きが早い。【アイスウォーター】を使おうにも、狙いが定まらない。下手にスキルを打ったら、リーデに当たってしまう。


「【ウィンド】!」


 見かねたミスラが、突風で人型ゴーレムの足止めをする。今のうちに合体スキルを。そう思ったが。


「ぜんぜん、動きが止まらない!」


 下位スキルとはいえ、それなりの風圧はある。しかし、人型ゴーレムはまるで意に介さず、リーデを攻め続けた。

 力もスピードも人間よりも遥に上なのは、リーデとの戦いを見るだけでわかる。魔力による身体強化をしなければ、勝つどころか対等の勝負もできない相手だ。


 このままでは、リーデがやられてしまう。


「ジ・A、もう一回管理の書き替えをやってくれ!」

「う、うぅ、ううぅ! シ……シルヴィ……」


 だが、ジ・Aは俺の言葉にまるで反応しない。それどころか、今の状況が目に入っていないようだ。


「うわあぁ! なぜだ、なぜこんな大事なことを忘れておったのだ!」

「じ、ジ・A!? 落ち着いて!」


 ミスラが手を伸ばすが、それよりも早くジ・Aは先の通路へと走り出してしまった。


「シルヴィ! シルヴィぃ! うわあああぁぁ!」

「!!」


 叫びながら奥へと走っていくジ・Aに、人型ゴーレムの注意が逸れる。そのタイミングを見逃さずに、リーデは距離を取った。


「今だよ、ウィンくん!」

「お、おう!」


 ジ・Aの身に何が起こったのかはわからないが、まずは目の前のこいつをどうにかするのが最優先だ。俺は両手を突き出し、スキルを発動する。


「【アイスウォーター】!!」


 水流と冷気が、同時に人型ゴーレムに直撃した。

 こうなったらこっちの物だ。冷気に当てられた水流が、瞬時に氷へと変わっていく。


「やった!」


 凍り付いていく人型ゴーレムを見て、ミスラは歓声を上げた。


「!! !?」


 人型ゴーレムがこちらに注意を戻した時には、すでに手遅れだ。水流から逃れようともがこうとしたが、体の半分は氷の塊に飲み込まれ、辛うじて右腕が動かせる程度の状態だった。

 ここまで凍ってしまえばあとは時間の問題。スキルが終息したころには、全身が氷の中に閉じ込められていた。氷が溶けるまでは、こいつも動けない。

 これだけの氷が溶けるのに、どれだけの時間がかかるかはわからないが。


「ふぅ、危ないところだったね」

「怪我はなかったか?」

「ああ。私は問題ない。だが……」


 リーデは通路の奥へと目をやる。ジ・Aが走っていった先だ。

 相当の慌てぶりだった。それに、シルヴィとはいったい……。

 やつの身に何が起こったのだろう。


「追いかけるか」

「うん、そうだね」


 この場であれこれ考えていても仕方がない。俺たちは、この場を離れようとした。

 その時、人型ゴーレムを包んだ氷の塊から、しゅうっと音が鳴った。


「なんの音?」


 不審に思ってよく見ると、氷から湯気が立ち昇っている。


「まさか、あのゴーレムが?」


 俺は急いで氷のステータスを調べる。

 なんと言うことだ。ステータスには、内部から高温で溶かされていると書かれていた。


「やばい! あいつ、氷から出てくるつもりだ!」


 もう一発【アイスウォーター】を使って、さらに凍らせるか。それとも、氷から出てきたタイミングで、別の合体スキルを喰らわせるか。


「その大きさの氷だ。まだすぐには出てこれないだろう。私も万全ではないし、ここは一度離れたほうがいい」

「そうだね、ジ・Aも心配だしね」


 確かに、ジ・Aの様子は尋常ではなかった。リーデの魔力の回復も待ちたい。

 俺たちはリーデの提案を受けて、先にジ・Aを追うことにした。

閲覧ありがとうございます!


ブクマ、評価をいただければ、とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ