表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/45

33 不完全なコピーだった

 なぜそんなことを思いつかなかったのだろう。

 俺は早速みんなを呼び留めて、ステータスを見ることを提案した。


「ぬぬ、【なんでもステータスオープン】とな?」


 ジ・Aが興味深そうに食いついてくる。


「ウィンくんのスキルはすごいんだよ。これで、ジ・Aが忘れちゃったことも何かわかるよ」

「ほうほう、それならさっそくやってもらおうか」


 本人と表現していいのかはわからないが、まあ自分からやってくれと言うなら、ステータスを見ても問題はないだろう。

 俺はジ・Aの正体を探るべく、ステータスオープンを使用した。


 名前:清掃用ゴーレムSLV‐C3型 ジ・Aカスタム

 種族:ゴーレム族

 性別: -


「元々は清掃用ゴーレムなのか」

「でも、ジ・Aカスタムって書いてあるよ」

「やはり、特別な機体ではあるようだな」


 ステータスを見ながらあれこれ言っていると、ジ・Aが俺たちの周りをうろうろと行ったり来たりする。


「うぬぬ、ワガハイにも見せるのだ。ワガハイのステータスであるぞ」

「ああ、それもそうだな」


 ジ・Aは俺たちよりもずっと背が低いので、ステータスの位置を下げてやる。


「見えたか?」

「うむ、こんな風に見えるのであるな。ふむふむ、ワガハイは清掃用ゴーレムであったのだな」


 ジ・Aはほほうと唸って感心する。


「それで、それ以外の情報は見られんのか?」

「ここをスライドさせれば、ほら出てきた」


 ゴーレム紹介:

 ヤツマヤ島製の第三世代清掃用ゴーレムを元に、ジ・Aの人格と記憶をコピーしたカスタム機。

 本来、寿命が近いことを感じていたジ・Aが、自身の人格と記憶をコピーするための専用ゴーレムを制作するはずであった。だが、ジ・H率いる軍勢の侵攻により、急きょ身近にあった当機にコピーをすることになった。

 元来清掃用の機体な上に、かなりの急ごしらえでコピー作業もすることになったため、不完全な部分が多い。

 また、頭脳回路にも負荷が大きく、経年劣化による記憶の損傷も出始めている。


「な、なんと……ワガハイ、不完全なコピーだったのであるか……」


 がっくり肩を落とす様子は、ゴーレムでも感情があるんじゃないかと思わせる。

 だが、ジ・Aの人格がコピーされているとなれば、感情があっても当然なのか?


 まあなんにしろ、こいつがジ・Aであるというのは、そうそう間違ってはいないようだ。


「まあまあ。ほら、まだ先があるよ」


 ショックを受けるジ・Aを、ミスラが宥めた。


「うむ、そうであるな。ワガハイが忘れている大切なこと、それが何かわかればよい」


 俺はさらに情報をスライドさせ、続きを読んだ。


 ジ・Aによる人格と記憶のコピーは、ゴーレムSLV71型を完成させるためである。

 コピーは不完全であったものの、隠し部屋でジ・Hの侵攻をやり過ごし、戦後、ゴーレムSLV71型の制作を続ける。

 その結果、ゴーレムSLV71型はほぼ完成している状態まで作られたが、完成よりも早く記憶に損傷が発生してしまい、現在まで未起動の状態になっている。


「ゴーレム、SLV71型……?」


 リーデがぽつりとつぶやく。

 六本足ゴーレムは42型だったから、それよりもさらに三世代先のゴーレムということか。

 71型についての説明は書いていないが、人格や記憶をコピーしてまで完成させたかった機体とは、どんなものだったのだろうか。


「うむむむむ……SLV71型……うむむむむぅ……」


 しかし、ジ・Aは難しそうな声で唸っている。


「もしかして、思い出せないのか?」

「うむむぅ……すごく大事なことなのはわかっておるのだが、それ以上のことが思い出せん」

「やはり回路自体が損傷してしまっては、情報を見ても思い出せないものか」

「リーデちゃんじゃ、その回路は直せないの?」

「私では無理だ。ゴーレムを専門に研究している【ウィザード】ならあるいは……だが、人格や記憶をコピーしているなんてゴーレムの情報は初耳だ。専門家でも直せるかは怪しいと思う」


 リーデもお手上げと言った表情で首を振る。


「まあ、思い出せない物は仕方がない」


 しかし、俺たちの心配をよそに、ジ・Aは思ったよりも明るい声を出した。


「いいのかそれで?」

「あまり無理に思い出そうとすれば、逆に記憶回路や思考回路に負荷を与えてしまうことになる。ここは自然に思いだすのを待とう」

「ジ・Aがそれでいいなら、俺たちはそれ以上言うことはないけど」

「うむ。SLV71型という情報が得られただけでも十分だ。礼を言うぞ」


 そしてまた、ジ・Aは神域(ダンジョン)の奥へと進んでいった。


 それにしても、浮遊島の内部は広い。

 ジ・Aが案内を初めて、一時間以上は歩いているのではないだろうか。

 これはやみくもに探していたら、一日がかりどころではなかった。


「あそこの通路に入れば、すぐに目的の隠し部屋であるぞ」


 ようやくか。俺の中に安堵が広がる。


「あれ?」


 そんな俺とは逆に、やや緊張した声をミスラは出した。


「あそこ誰かいるよ?」


 ミスラの言う通り、隠し部屋があると言う通路の入り口付近に、誰かが立っていた。

 遠くからの見た目は、人間のように思える。


「神か、それとも人間か?」

「いや、あれもゴーレムであるな」


 ジ・Aは警戒もせずに、近づいて行く。

 俺たちもその後について行くと、果たして、そこにいたのはゴーレムであった。


 身長で言えば、俺やリーデより少し多きいぐらい。手足や胴体、それに頭の位置はすべて人間と同じ。

 頭部には目や鼻、口といったものはないので、近くで見れば人間ではないとわかるが、それ以外の見た目はほぼ人間であった。


「ここまで人間に近いゴーレムが存在したのか……!」


 リーデも驚きの声を上げる。


「どれ、こいつにもお前たちのことを登録しておかないとな」


 ジ・Aは珍しくもないといった様子で、目の前のゴーレムにさらに近づいた。だが。


「! 危ない!」


 リーデがジ・Aを抱きかかえて横に飛ぶ。

 それとほぼ同時に、人間型ゴーレムの拳がジ・Aに向かって振り下ろされた。

閲覧ありがとうございます!


ブクマ、評価をいただければ、とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ