33 不完全なコピーだった
なぜそんなことを思いつかなかったのだろう。
俺は早速みんなを呼び留めて、ステータスを見ることを提案した。
「ぬぬ、【なんでもステータスオープン】とな?」
ジ・Aが興味深そうに食いついてくる。
「ウィンくんのスキルはすごいんだよ。これで、ジ・Aが忘れちゃったことも何かわかるよ」
「ほうほう、それならさっそくやってもらおうか」
本人と表現していいのかはわからないが、まあ自分からやってくれと言うなら、ステータスを見ても問題はないだろう。
俺はジ・Aの正体を探るべく、ステータスオープンを使用した。
名前:清掃用ゴーレムSLV‐C3型 ジ・Aカスタム
種族:ゴーレム族
性別: -
「元々は清掃用ゴーレムなのか」
「でも、ジ・Aカスタムって書いてあるよ」
「やはり、特別な機体ではあるようだな」
ステータスを見ながらあれこれ言っていると、ジ・Aが俺たちの周りをうろうろと行ったり来たりする。
「うぬぬ、ワガハイにも見せるのだ。ワガハイのステータスであるぞ」
「ああ、それもそうだな」
ジ・Aは俺たちよりもずっと背が低いので、ステータスの位置を下げてやる。
「見えたか?」
「うむ、こんな風に見えるのであるな。ふむふむ、ワガハイは清掃用ゴーレムであったのだな」
ジ・Aはほほうと唸って感心する。
「それで、それ以外の情報は見られんのか?」
「ここをスライドさせれば、ほら出てきた」
ゴーレム紹介:
ヤツマヤ島製の第三世代清掃用ゴーレムを元に、ジ・Aの人格と記憶をコピーしたカスタム機。
本来、寿命が近いことを感じていたジ・Aが、自身の人格と記憶をコピーするための専用ゴーレムを制作するはずであった。だが、ジ・H率いる軍勢の侵攻により、急きょ身近にあった当機にコピーをすることになった。
元来清掃用の機体な上に、かなりの急ごしらえでコピー作業もすることになったため、不完全な部分が多い。
また、頭脳回路にも負荷が大きく、経年劣化による記憶の損傷も出始めている。
「な、なんと……ワガハイ、不完全なコピーだったのであるか……」
がっくり肩を落とす様子は、ゴーレムでも感情があるんじゃないかと思わせる。
だが、ジ・Aの人格がコピーされているとなれば、感情があっても当然なのか?
まあなんにしろ、こいつがジ・Aであるというのは、そうそう間違ってはいないようだ。
「まあまあ。ほら、まだ先があるよ」
ショックを受けるジ・Aを、ミスラが宥めた。
「うむ、そうであるな。ワガハイが忘れている大切なこと、それが何かわかればよい」
俺はさらに情報をスライドさせ、続きを読んだ。
ジ・Aによる人格と記憶のコピーは、ゴーレムSLV71型を完成させるためである。
コピーは不完全であったものの、隠し部屋でジ・Hの侵攻をやり過ごし、戦後、ゴーレムSLV71型の制作を続ける。
その結果、ゴーレムSLV71型はほぼ完成している状態まで作られたが、完成よりも早く記憶に損傷が発生してしまい、現在まで未起動の状態になっている。
「ゴーレム、SLV71型……?」
リーデがぽつりとつぶやく。
六本足ゴーレムは42型だったから、それよりもさらに三世代先のゴーレムということか。
71型についての説明は書いていないが、人格や記憶をコピーしてまで完成させたかった機体とは、どんなものだったのだろうか。
「うむむむむ……SLV71型……うむむむむぅ……」
しかし、ジ・Aは難しそうな声で唸っている。
「もしかして、思い出せないのか?」
「うむむぅ……すごく大事なことなのはわかっておるのだが、それ以上のことが思い出せん」
「やはり回路自体が損傷してしまっては、情報を見ても思い出せないものか」
「リーデちゃんじゃ、その回路は直せないの?」
「私では無理だ。ゴーレムを専門に研究している【ウィザード】ならあるいは……だが、人格や記憶をコピーしているなんてゴーレムの情報は初耳だ。専門家でも直せるかは怪しいと思う」
リーデもお手上げと言った表情で首を振る。
「まあ、思い出せない物は仕方がない」
しかし、俺たちの心配をよそに、ジ・Aは思ったよりも明るい声を出した。
「いいのかそれで?」
「あまり無理に思い出そうとすれば、逆に記憶回路や思考回路に負荷を与えてしまうことになる。ここは自然に思いだすのを待とう」
「ジ・Aがそれでいいなら、俺たちはそれ以上言うことはないけど」
「うむ。SLV71型という情報が得られただけでも十分だ。礼を言うぞ」
そしてまた、ジ・Aは神域の奥へと進んでいった。
それにしても、浮遊島の内部は広い。
ジ・Aが案内を初めて、一時間以上は歩いているのではないだろうか。
これはやみくもに探していたら、一日がかりどころではなかった。
「あそこの通路に入れば、すぐに目的の隠し部屋であるぞ」
ようやくか。俺の中に安堵が広がる。
「あれ?」
そんな俺とは逆に、やや緊張した声をミスラは出した。
「あそこ誰かいるよ?」
ミスラの言う通り、隠し部屋があると言う通路の入り口付近に、誰かが立っていた。
遠くからの見た目は、人間のように思える。
「神か、それとも人間か?」
「いや、あれもゴーレムであるな」
ジ・Aは警戒もせずに、近づいて行く。
俺たちもその後について行くと、果たして、そこにいたのはゴーレムであった。
身長で言えば、俺やリーデより少し多きいぐらい。手足や胴体、それに頭の位置はすべて人間と同じ。
頭部には目や鼻、口といったものはないので、近くで見れば人間ではないとわかるが、それ以外の見た目はほぼ人間であった。
「ここまで人間に近いゴーレムが存在したのか……!」
リーデも驚きの声を上げる。
「どれ、こいつにもお前たちのことを登録しておかないとな」
ジ・Aは珍しくもないといった様子で、目の前のゴーレムにさらに近づいた。だが。
「! 危ない!」
リーデがジ・Aを抱きかかえて横に飛ぶ。
それとほぼ同時に、人間型ゴーレムの拳がジ・Aに向かって振り下ろされた。
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