31 ワガハイの名はジ・A
広場から延びた通路を歩いていると、やがて左右に分かれる丁字路に出た。
この道こそが第七通路で、左は第二通路、右は大通路に出る道だ。
「どっちかな?」
「大通路の方が、主要な区画に行けそうな気はする」
「そうだな。それに、小さな通路までいちいち見ていたらきりがない」
お宝探しなら何日かかっても全部の通路を見ておきたいところだが、今回はマギニウムという目的がはっきり決まっている。
俺たちは大通路へと向かい、右へ曲がることにした。
第七通路もまた、戦闘の跡が激しく残っていた。
ゴーレムの残骸や人骨が、あちこちに転がっている。
ステータスオープンを細かく使い調べていたが、どこを歩いていても罠の類はすでに起動した後か、破壊されているかの物ばかりだった。
俺たちにとっては幸いなことではあるが、この島に住んでいた人々には災いだっただろう。当時のことを考えると、手放しで喜ぶのは悪い気がした。
「待って」
大通路へと歩く俺たちを、ミスラが止めた。
「どうした?」
「あそこ、なんか動いてない?」
「え?」
ミスラが示す方向へ目を凝らすと、確かにここから少し行った先で、何かが動いていた。
「また、ゴーレムかな?」
「それにしては、様子がおかしい」
ゴーレムならばすでに俺たちに気が付いて、こちらにやって来ていても良さそうなものだ。
だが、先にいるものはその場でもぞもぞと動いているだけ。見ようによっては、もがいているようにも思える。
「戦闘用にしては小さいし、何かの作業用ゴーレムかもしれないな」
「作業用?」
「ああ。ゴーレムと言えば戦闘兵器のイメージが強いが、元々は作業用に開発されたものだ」
「うんうん、そうなんだよ。私も今日初めてゴーレム見たのに、リーデちゃんは本当にいろいろ知っててすごいね」
ミスラが感心しながらリーデを見つめる。
「初めて見たって、今の浮遊島じゃゴーレムはいないのか?」
大戦で失われた技術も多いと聞くが、ここまでの台数が作られていたゴーレムの技術がスパッとなくなるとは思えない。
「大戦の悲劇を反省して、天界ではもうゴーレムを作らないって決めたの」
「元々一部の神同士の小競り合いが全ての浮遊島を巻きこむ大戦に発展したのも、ゴーレムの兵器転用が原因らしい」
ミスラの説明にリーデが補足する。
「え、そうなのか?」
大昔に天界で大きな戦争があって、いくつもの浮遊島が地に落ちたと言う話は聞くが、原因とかまでは知らなかった。
地上で生きる普通の人間は、あまりそこら辺の経緯を調べたり学んだりする機会はないからな。
「最初は小競り合いをしていた神がゴーレムを兵器転用したんだけど、それを警戒した他の神たちも次々に戦闘用ゴーレムを開発しだして、資源確保のためとかで浮遊島同士で征服しあうようになっちゃったの」
「なるほどなあ。それで、ゴーレムはもう作らないのか」
ミスラもうんうんと頷く。
「じゃあ、あれはそんな危険な奴じゃないのかな」
通路の先で動く何か。作業用なら、武装はしていないだろう。
「それはわかない。小型の巡回用ゴーレムもあるからな。見つかったら戦闘用ゴーレムを呼ばれるかもしれない」
「うーん……だったらもう私たちに気付いて、警報鳴らしていると思うんだよね。これだけ魔法で明るくしてるんだし」
「確かにな。俺たちを警戒しているような感じはないよな」
先ほどから同じ場所でもぞもぞしているだけで、それ以上の行動はしてこない。
「ここじゃよくわからないから、近づいて確かめてみようよ」
ミスラの言う通り、ここであれこれ考えていても答えは出ない。俺たちは臨戦態勢を取りつつ、ゆっくり通路を進んだ。
「う~ん、う~ん」
近づくにつれ、呻き声のような物も聞こえてくる。
「まさか、生き物か?」
「だとしたら、苦しんでるみたい。助けてあげないと」
「おい、待て」
リーデの制止も聞かずに、リーデは駆けだした。仕方ないので、俺たちもその後を追いかける。
「うぬぬぬぅ」
しかし、俺たちはすぐに足を止めた。
呻き声を上げている何者かが、視認できたからだ。
呻き声を上げる者、それは、戦闘用ゴーレムの下敷きになっていた小型のゴーレムだった。
「だ、誰かいるのか?」
小型ゴーレムが問いかけてくる。先ほど戦った戦闘用ゴーレムのように、録音された音声を流しているようには聞こえなかった。
「誰かいるのなら、このデカブツをどけてはもらえないだろうか」
俺たちは顔を見合わせる。
「ワガハイ、もう九十九万八千六百四十三時間もこのような状況なのだ。誰でもいいから、このデカブツをどけてくれ」
「九十九万……!」
「もし、こいつの言うことが本当なら、百年は経っていることになるな」
百年もこの体勢。ゴーレムとはいえ、気の毒になってくる。
「わかった。ちょっと待っててね」
ミスラも気の毒に思ったのだろう。ゴーレムの残骸を持ち上げようと力を込める。
「お、おい」
「危険はなさそうだし、いいじゃないか。それに、このままってのもかわいそうだ」
俺も何とかこの残骸が動かせないか試みた。だが、ちょっとやそっとでは動きそうもない。
「だから、こいつらは物だと言っているだろう。かわいそうも何もない」
「………………ぴょ」
「わかった! 助けよう」
リーデもゴーレムの残骸に手をかける。魔力での身体強化に長けているリーデが加われば、戦闘用ゴーレムの巨体も動かせるかもしれない。
小型ゴーレムの上に乗っているのは、六足型のゴーレムだった。折れ曲がった足が引っかかり、小型ゴーレムを抱きかかえる状態になっている。
「まずは、この足からどうにかするか」
俺たちは三人で足を動かしにかかる。駆動部が曲がってしまい動きづらくはなっているものもあったが、短剣で部品を外したりしながらなんとかどかすことができた。
問題は、小型ゴーレムに圧し掛かっている本体部分だ。これは相当の重量がありそうで、試しに動かそうとしたがピクリとも動かない。
それどころか、重量がかかる個所が偏って、ゴーレムがめりめりと嫌な音を立てる。
「下手に動かそうとすると、下のゴーレムが壊れそうだな」
「むむ、それは困る。今でさえアーム部分が破損してしまっているのだ。これ以上の損傷は避けたい」
「そうは言われてもなあ」
圧倒的な力で一気に持ち上げでもしないと、無傷で助け出すのは無理そうだ。
「はぁ、仕方ない」
リーデがため息交じりに切り出す。
「私が全力で持ち上げる。その間に、お前たち二人でそのゴーレムを引っ張り出せ」
「そんなことができるの?」
「持ち上げられるかはわからん。できたとしてもほんの数秒が限界だろう」
「わかった。頼むよ」
俺とミスラは、リーデに言われたとおりにゴーレムの体を掴みその時を待つ。
リーデは腰を深く落とし、残骸に手をかけた。
「ふん!」
リーデが力を込めると、目で見えるほどの魔力が迸る。
「いくぞ!」
その言葉と同時に、残骸が少しだけ浮いた。
「ふんぬぅぅぅぅ!」
「今だ!」
「うん!」
俺たちはゴーレムの体を全力で引き抜いた。
「やった!」
「すごいよリーデちゃん!」
がっしゃん!
ゴーレムの体が残骸の下から解放された直後、リーデも限界を迎えた。
残骸は大きな音を立てて地面に崩れ落ちた。
「大丈夫か、リーデ?」
「ああ。だが、しばらくは満足に魔力が使えない」
それぐらいの全力だったということか。
ミスラが少し申し訳なさそうに、ありがとうと頭を下げた。
「うむうむ。ワガハイからも礼を言うぞ」
助け出された小型のゴーレムも礼を言う。
円筒形の体に丸い頭が載っていて、頭には丸い二つの目ときゅっと引かれた線のような口。言葉を発するときには、この口の部分が青色に発光した。
足の部分には四つの車輪が付いていている。腕と思しき物は、自分で言っていた通り片方が途中からちぎれてなくなってしまっていた。
この見た目から、戦闘用であるとは到底思えない。
「助かってよかったね。なんで、ゴーレムの下敷きなんかに?」
「うむ。ゴーレムの残骸や遺体を片づけていたのだが、運悪くバランスを崩してしまいぎっちりと挟まれてしまったのだ」
「なるほど、清掃用ゴーレムと言うわけか」
「ワガハイは清掃用ゴーレムではない。清掃用ゴーレムが全て壊れてしまったからワガハイがやっていただけだ」
「じゃあ、あなたは何用のゴーレムなの?」
「ワガハイの名はジ・A。何用などと、用途はきまっておらん」
「ジ・A!?」
俺たちは声を揃えてしまう。
ジ・Aと言えば、この島を統治していた神の名前ではないか。それを騙るこのゴーレムとはいったい何者なのだろうか。
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