28 ごめん、リーデ
改めて周りを見てみると、ここはかなり広い部屋のようだ。俺の【ライト】では部屋全体を照らしきれない。
手近な所だと、俺の後ろの壁に楕円形の穴が開いていた。恐らくそこから転がり落ちてきたのだろう。
一緒に落とされたはずのミスラたちがいないということは、途中で分岐があるようだ。
戦力を分断する罠だと書いてあったが、こういう仕掛けになっていたのか。
落とし穴には傾斜がつけられていて、それ自体に殺傷能力は無かった。下に槍衾でも仕掛けられていたら、今頃俺たちは全滅していたところだ。
それどころか、穴の下が垂直になっていただけでも、落下の衝撃でただでは済まなかっただろう。
そんな仕掛けにしなかったのも、やはりジ・Aの性格故だろうか。
そこをいくら考えても答えは出ないし、今はさして重要ではない。罠にはかかったが、ぴんぴんしている。この結果が一番だ。
俺は手初めに、楕円の穴を調べてみた。奥には急な上り坂が続いている。坂は全面とっかかりの無いツルツルとした素材でできていて、元いた場所まで上っていくのは無理そうだった。
別に出口がないか探すとしよう。
まずは壁に添って歩いてみる。灯りが届くギリギリの所に、人間よりも大きな何かが置かれているのが見えてきた。
「うぉ……!」
それが何か確認できた時、俺は思わず声を上げてしまった。
その何かが、ゴーレムだったからだ。
だが、起動している気配はない。それどころか、腕や足はもげ、胴体も激しく損傷している。
戦闘で破壊されたあとだろう。
よくよく見てみれば、部屋のあちこちに同じように破壊され、動かなくなったゴーレムが放置されていた。
おそらく、落とし穴から落ちてきた敵と戦った防衛用のゴーレムと言ったところか。
数体を見てみたがその種類も様々で、さっき俺が戦ったような虫足型の物もあれば二足歩行の物もあった。
この状況を見る限り、さっきリーデが話していた予想は当たっていたということだ。これなら稼働しているゴーレムの方が少ないだろう。
仮にゴーレムに会ったとしても、俺には合体スキルがあるし、リーデはそもそも戦闘力が高い。
だが、ミスラは攻撃スキルを初級程度の物しか習得していない。それに加えてゴーレムには幻惑系の目くらましも効かないので、いざ戦闘になったら逃げきれるか心配だ。
「ミスラたちは無事だろうか」
無意識のうちに声に出てしまう。
まずは仲間と、できればミスラと合流したい。
俺は部屋の探索を再開した。
壁伝いに部屋を一周した結果、部屋の出口は二つあることが分かった。
ステータスによれば、一つは第三通路へと抜ける道。もう一つはゴーレム格納庫に抜ける道だ。
第三通路の詳細はわからないが、通路ならばそこから別の通路や区域へと繋がっていそうではある。
対してゴーレム格納庫は、名前からして危険な予感はひしひしとしてくる。ただ、燃料であるマギニウムを保管している可能性もあるので、虎穴に入らざれば、と言う考え方も浮かんだ。
どちらに行ったとしても、まずはミスラと合流したい。
あの落とし穴の別の出口が、どこに繋がっているかがわかれば、どちらに行くかの方針になるんだが……。
「そうか、落とし穴を調べればいいのか」
頭に浮かんだひらめきに、一人で声にしてしまう。
俺は早速、落ちてきた楕円の穴へと戻る。そして、ステータスを開いてみた。
罠の概要には、ダストシュートは途中四つに分岐がされていて、それぞれの出口について、一つは第ニ区画大広場、一つは第四区画大広場、もう一つは第九区画大広場、そして最後は第十区画大広場と書かれていた。
「全部大広場!」
誰もいないからか、帰って大声が出てしまう。。
良く考えてみれば、殺傷力の無い罠なんだし、重要な区画に敵を落とすようなことはしないよな。
それらのことを踏まえて、整理して考えてみよう。
落とし穴には殺傷能力が無く、敵を分断して戦力を落とす効果がある。
ゴーレムの残骸があるということは、広場に落ちてきて混乱している敵をそこで迎え撃つ仕掛けになっているようだ。
そうなると、ゴーレムはゴーレム格納庫から出てくるだろう。ゴーレム格納庫なんだしな。
などなどから推測すると、どの大広場ともゴーレム格納庫は繋がっている可能性がある。
わかった。俺が次に進む道はゴーレム格納庫に続く道だ。
俺は格納庫へと続く道を歩く。
ゴーレムの通り道になっているからか、付近にトラップは仕掛けられていなかった。
ただ、動かなくなったゴーレムの残骸があちこちに落ちているので、無駄に緊張感が増す。
幸い稼働しているゴーレムもいなかったため、ゴーレム格納庫へは拍子抜けするほどすんなりとたどり着くことができた。
だが、俺はゴーレム格納庫を探索中に、ゴーレムとは全く別の問題に直面してしまった。
格納庫の入り口は、シャッターも破壊されてすんなりと入れた。全てのゴーレムは出撃したのだろう。待機中の物は一機もおらず、がらんとした大きな空間が広がっている。
俺は壁伝いに他の広場に繋がる通路がないか探していた。その時、それを見つけたのだ。
床にちょこんと落ちている、まるで場違いなかわいらしいぬいぐるみ。
カエルのキャラクターだろうか、つぶらな瞳でこちらを見つめている。
新手のトラップの可能性もある。
こんな無害な顔をしたカエルが落ちていたら、うっかり手に取ってしまうだろう。
その瞬間に、ドカン! なんてことも十分に考えられる。
こんな時のための俺のスキルだ。迷わず【なんでもステータスオープン】を使っやった。
ぴょこた:
リーデ所有のぬいぐるみ。
外見は、カエルをモチーフにしている。
幼いころに死別した両親からもらった、唯一形として残っている物である。
ぴょこたと名付け、幼いころから今に至るまで、常に持ち運び一緒にいる。
リーデはぴょこたがいないと夜も眠れないほど溺愛しており、おはようとおやすみのキスは欠かさずする
ほころびがあれば丁寧に修繕をし、汚れも手洗いで落としているので、二十年以上たった今でもきれいな状態だ。
常日頃から物に感情移入するなと口にしているが、自分がぴょこたに依存し過ぎていることを自覚しての自戒の言葉でもある。だが、その自戒は形となって現れてはいない。
……………………。
ごめん、リーデ。
ステータスがオープンできるからって、見てはいけないものもある。
俺は複雑な気持ちを胸に、ぴょこたを拾い上げた。
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