26 合体スキル……ここまでの威力とは……
ガシャンという音に、俺は顔を上げる。
リーデが魔力を込めた剣で切りこんだ音のようだ。やはりと言うべきか、有効打になっているようには見えない。
ミスラも魔法スキルで攻撃を試みるが、多少気を引くぐらいの効果しかない。
しかもゴーレムは、三百六十度回転する胴体を持っているので、死角に回りこんでもすぐに対応してくる。
リーデは近接、ミスラは遠距離でなんとか相手の注意を削いでいるが、状況は芳しくない。
「まだか?」
「もうちょっと待っててくれ!」
やはり、俺が攻略の糸口を見つけるしかないようだ。
俺は項目を切り替えながら、弱点に書かれていた( )の説明がないかを探す。
そして、ゴーレムの概要の欄までやって来た。
ゴーレム紹介:
ヤツマヤ製第四世代型ゴーレムの、第二型機。
六脚の下半身による安定性と人型の上半身による汎用性を併せ持った機体。第一型より出力機関が改善され、約10%性能が向上している。
通常のカメラモードの他にもサーモグラフィー、赤外線センサーにより対象の動きを捉える。
特筆すべきは背部に備え付けられた集放電機関。外部からの電気を魔導線を通してこの機関に集め大気中に放電することにより、第三世代までの弱点であった雷属性の攻撃を大幅に軽減する。
また、機体の気密性を高めることにより、水属性の攻撃に対しても大幅に耐性が強化されている。
ただし、第四世代時点では装置が大型化したため、外部装甲となった。そのため、この機関を外されたり破壊されたりすると、雷属性が弱点となってしまう。
なるほど。確かによく見てみれば、背中にリュックみたいなのを背負ってるな。
あれが例の装置と言うわけか。
「ミスラ! リーデ!」
俺はステータスに書いてあった奴の弱点を教える。
「そうなんだ。ありがとう、ウィンくん!」
「簡単に言うが、魔法スキルでは機関とやらを破壊できるほどの効果は出ない。近接スキルで攻撃するにも、奴の後ろを取るのは楽ではないぞ!」
リーデの言う通り、目の前のゴーレムは胴体をクルクルと回すので、三人いても背中を捉えるのは難しい。
視覚とは違う方法で俺たちを『見』ているようなので、俺やリーデの目くらましも効果は薄い。
「それなら、ウィンくんの氷結スキルで、回転部分を凍らせられないかな?」
「その隙に後ろに取りつけばいいか」
「いや、さっきの攻撃でわかったが、外装には魔力そのものを緩和する素材が使われている。下位魔法程度なら霜もつかないだろう」
「じゃあ、リーデの魔法ならどうだ? 上位スキルなら通用するだろ?」
「すまないが、私は氷結属性は得意ではなくてな。習得しているのも下位スキルだけだ」
ならばここは、合体スキルの出番だろう。
氷結スキル【アイス】と水流スキル【ウォーター】の合わせ技、【アイスウォーター】を俺は習得していた。
ネーミングは安直ではあるが、合体スキルの威力はキメラ亜種戦でしっかりと確認している。
このスキルはまだ使ったことはないが、上級スキルに匹敵する威力は出せるはずだ。
「なるほど、合体スキルか」
俺が提案すると、ゴーレムの攻撃をかわしつつ、リーデが珍しく興味深そうな声で返す。
「そうだね。合体スキルだったら、きっと動きが止められるよ」
ミスラも力強く頷いた。
まずミスラが注意を引き、その隙にリーデが後ろに回る。そして俺の合体スキルでゴーレムの胴体を止めたら、リーデが背後に取りついて集放電機関を破壊する。
これが俺たちの作戦だった。
「いくよ、みんな!」
「おう!」
掛け声とともに、ミスラが火球を放つ。ダメージはまるで受けていないようだが、ゴーレムはしっかりとミスラをターゲットにした。
合体スキルの発動までには少し時間がかかる。それまで、なんとかこらえてくれよ。
そんな俺の心配をよそに、ミスラは身軽にゴーレムの攻撃をかわす。
リーデもやっていた魔力での身体強化か。やるなあ。と感心している間に、俺の合体スキルも発動準備が整った。
「ミスラ!」
「うん!」
合体スキルは効果範囲が広い。ミスラは後ろに飛び退き、距離を取る。
「よし! 【アイスウォーター】!」
俺の両手の先から、水流が柱のように噴き出した。水流の周りを、冷気の魔力が螺旋状に走る。
ゴーレムもこちらの気配を感じたようだが、一瞬遅かった。胴体を回すよりも早く、水流が命中する。
「ジ、ザザ」
戦闘中はまるで喋らなかったゴーレムだが、その威力からかノイズが漏れた。
水流は冷気の魔力により、ゴーレムに当たる横から凍りついていく。
「おお、これは……!」
その光景に、リーデの口からも感嘆の声が漏れた。
勢いの衰えぬ水流と冷気の同時攻撃。
俺とリーデで別々に水流と氷結の魔法を使っても、ここまでの威力にはならない。合体させることで威力が何倍にもなる、それが合体スキルの最大の特徴だ。
「ギ、ガガ、ジョウキョウ、フメイ、ジョウキョウ、フメ、イ、ジョウ、ギ、ジジジ、キョ、ギギギギ」
ゴーレムに感情があるとは思えないが、今目の前にいる相手は、明らかに慌てているように見えた。
それも仕方がない。体がどんどんと凍っているのだから。そう、どんどんと。って、あれ? ほんとに、すごい凍ってないか?
当初、胴体の回転部分だけ凍らせればよいという作戦だったが、俺の放った合体スキルはその効果をはるかに超えて、ゴーレム全体を凍りつかせる。
水流が止むころには、氷塊がゴーレムを包み込んでいた。
「うわぁ! ウィンくん、すごいよ!」
ミスラは大したことでなくてもすごいと言ってくれるが、今回は俺もすごいと思う。
氷の塊から左腕と右足の一部だけが露出しているが、とても動ける状況ではない。
ゴーレムは完全に沈黙し、背中の集放電機関を破壊する必要もなくなった。
「合体スキル……ここまでの威力とは……」
リーデが氷を撫でながらつぶやいた。
俺は合体スキルの威力を再認識するとともに、【灰の書】の人間にこの能力を見せても良かったのだろうかという考えが、少しだけ頭によぎった
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