25 なんだこの( )は?
近くに来ると、並の人間よりも大きいことが分かった。
下半身は虫のような造りだが、足の付け根から垂直に伸びる胴体には左右一対の腕が生え、円筒形の頭部まで乗っている姿は人間を思わせる。
一度だけだが、以前にも俺はゴーレムと戦ったことがある。その時のゴーレムは、二本足で大きな人間に近い形をしていた。
作り手で形が大きく変わるものだなと、俺は少し感心してしまった。
「警告シマス」
「喋った!?」
人間でいう顔の部分には、縦に二個青く光る目のような物は付いていたが、口のようなものはなかった。だが、このゴーレムはっきりと聞き取れる声で喋ってみせた。
「警備用のゴーレムだ。音声機能ぐらいは付いているだろう」
ゴーレムから発せられた人間の言葉に、俺は思わず驚いてしまったが、ミスラもリーデもそれぐらい当たり前という顔をしている。
ゴーレムはたまに地上に迷い出てくることがある。そんなゴーレムの退治依頼もギルドには入ってきた。
【月下の白刃団】にいたころに一回だけ請け負ったことがある、それが俺が以前戦ったゴーレムだ。が、地上まで出てきてしまうゴーレムは暴走状態で、問答無用で攻撃を仕掛けてくるような存在だ。
だから、こんな理性的に……ゴーレムに理性があるかは置いといて、会話をしてくるゴーレムに驚いてしまったのだ。
「現在、戦時特別事態令発令中ニヨリ、島民以外ノコレヨリサキヘノ立チ入リヲ、禁止シテイマス。速ヤカニ、退去、シテクダサイ」
どうやらこのゴーレムの中では、まだ戦争が続いているらしい。
戦時下でも侵入者に警告をしてくるあたりは、争いを好まないジ・Aの性格が反映されてると言ったところか。
「繰リ返シマス、現在、戦時特別事態令」
「【ボルティク・ダンス】!」
そんなゴーレムの警告を無視し、リーデが先制攻撃を仕掛ける。
ゴーレムの周りに四つの電撃球が浮かびあがった。
リーデがぐっとこぶしを握りこむと、四つの球から激しい電流が迸る。
「ギ、ハツレイ、ザザ、チュウ、ギ、ギギ、ジー……」
電撃嵐の中心にいるゴーレムはガクガクと震え、警告の音声もノイズがかかり、聞こえなくなった。
「いきなりすぎるな」
「どっちにしろ、奥に行けば戦闘になるんだ。それとも、こいつの言う通りに引き返すつもりか?」
「いや、それはそうなんだけど」
ゴーレムですら警告をしてきたのに、こちらが問答無用というのは、ちょっと倫理的にどうかなあと思う。
ミスラもそれは感じていたのか、複雑な表情を浮かべていた。
「喋るからといって、あれはあくまで物だ。物に感情を移入し過ぎるのは、判断を鈍らせるぞ。ゴーレムなどはモンスターと同じで、こちらが殺らなければ、こちらが殺られる」
「……それは、まあ」
言ってることは間違いではないが、すぐに納得できるものでは無い。
俺は曖昧に答えるだけにした。
「でもでも、さすがは【灰の書】の実行隊。剣だけじゃなくて、上級魔法も使いこなすなんてすごいねぇ!」
空気が重くなったのを察したのか、ミスラが少し大げさなぐらいに感心して見せた。
やり方は少し食い違うところもあるが、そこは俺も素直に感心するところだ。
「俺の【サンダー】じゃ、こんなにダメージは与えられないよな」
【サンダー】と【ボルティク・ダンス】は同じ雷系統のスキルだが、下級と上級として基本威力に差がある。
さらにリーデの魔力量を加えて考えれば、その威力は五倍以上……下手したら十倍近くはあるかもしれない。
こんな高威力のスキルを浴びせかけられたら、頑丈さが売りのゴーレムでもひとたまりもないだろう。
少し哀れに思いながら、俺もミスラと一緒にゴーレムを見上げる。
「ジ、対象ノ、ザザ、敵対行動、カクニン、ジジジ」
だが、沈黙したと思われたゴーレムから、またも音声が流れ出した
ヴォン、と言う聞きなれない音とともに、顔に付いている二つの明かりが赤く光る。
「コレヨリ、対象ノ、無力化ヲ、オコナイ、マス」
ガチャンと音を立てて、両腕を俺たちに伸ばす。
「く、散れ!」
リーデの言葉を合図に、俺たちは左右に飛んだ。
直後、ゴーレムの手の平に穴が開き、ネットが射出される。
「あ、危なかった」
その場に立っていたら、あのネットに絡めとられていただろう。
しかし謎なのは、ゴーレムはその部品が電気に弱い特徴を持っているため、雷属性が弱点というのは割と有名な話だ。その上級スキルをまともに喰らったのに、まるでダメージを感じさせないのは、いくら何でも頑丈すぎる。
「くっ。おい、ウィン」
リーデが剣を抜きながら俺を呼ぶ。
「私とミスラでこいつの気を引く。その間に、弱点を調べろ」
リーデも電撃攻撃でダメージが通らなかったことを疑問に思ったようだ。俺にそのからくりを調べるようにと指示が飛ぶ。
「ミスラ、大丈夫か?」
「うん! 気を引くぐらいなら、私だって」
ミスラも短剣を抜いて、ゴーレムの周りを走り回る。
二人の狙い通り、ゴーレムの注意がこちらから外れた。
だが、ゴーレムの胴体は付け根を支点にくるりと百八十度回転して見せた。後ろに回ったリーデに、拳が振り下ろされる。
「なにっ!?」
剣をかざして間一髪でかわすが、バランスを崩す。
「【幻惑の霧】!」
追撃の構えを取るゴーレムに、ミスラのスキルがその目を遮った。
一瞬動きが止まるゴーレム。その隙にリーデは距離を取ったが、ゴーレムはすぐにリーデの方へと向き直る。
こいつもヘビのように、視覚以外で相手を認識する能力を持っているようだ。
「大丈夫か!」
「私のことは気にするな! それより早く調べてくれ!」
「わかった。【なんでもステータスオープン】!」
名前:ゴーレムSLV42型
種族:ゴーレム族
性別: -
攻撃:150
防御:300
魔力:100
魔防:300
敏捷:150
弱点属性:(雷(強)・水(強))
耐性属性:火(強)・風(強)・木(強)・斬撃(強)
ステータスボードにずらっと能力が表示される。
防御系はキメラ亜種を上回ってるあたりは、さすが金属製のボディを持つだけある。
斬撃にも耐性があるのは、前に戦ったゴーレムと同じか。ザンギルは、たいして効果が無いのに斬撃でごり押してたっけなあ……。
って、今は昔を思いだしている場合じゃない。
ちゃんと雷が弱点って書いてあるじゃないか。魔防の数値も高いが、上級スキルなら十分ダメージを与えられていいはずだ。
でも待てよ、なんだこの( )は?
もしかして、弱点としてダメージを与えるには、何か条件があるのかもしれない。
俺は急いで、別の項目を調べた。
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